| 11 磁化と磁荷 | ||
| f-denshi.com [目次へ] 最終更新日:03/05/19 | ||
ここでは電流によらない物質が固有に示す静磁気現象(=永久磁石)について考えてみます。歴史的には永久磁石の示す磁性の方が電流のつくりだす磁性よりずっと古くから知られていました。静電気現象も古くから知られていましたが,近年までこれら二つは全く別の現象と考えられてきました。したがって,電流に磁石が応答することをエルステッドが発見した(1820年)ことは大変な驚きだったのです。精密な磁気測定が可能な現在では,磁石だけでなくすべての物質が磁場の中で,その影響を受けることがわかっています。 永久磁石の作る磁場は電流の作る磁場と異なる機構に基づいて発現するように見えますが,原子一個一個に流れる分子電流の作り出す磁場を考えることで統一的な理解(電流こそが磁場の源であるということ!)が可能なことをここでは示します。これは量子力学を用いない範囲において十分有効な考え方です。
[1] 物質の示す磁性を説明するためにアンペールは,分子を円電流の集合で置き換えられるのではないかと考えました。右図のように均一な磁場の中におかれた一つの小さな円電流を考えると,微小な円弧 dsに働く力はフレミングの左手の法則[#]に従い,
dF =I ds×μ0H
で与えられます。この力は円の中心に対して対称的な位置では互いに反対向きで大きさが同じです。一般的にこの作用線は円の中心(重心)を通らないのでリングには偶力(トルク)が生じます。まず,このトルクを計算して見ましょう。
[2] 位置r の電流要素に働くトルク dN は,r ×dF なので,これを電流ループ全体について積分すればいいワケです。一般性を失うことなく円電流,磁場の方向を右図のような座標に取って計算を行なえます。
N = (r ×dF ) = I ・ r × ( ds×μ0H )
↓ ここの計算はちょっとわかりにくいので,下に計算方法を示しました。k計算→[#]
= I (r ×ds )×μ0H 2
↓ 1 (r ×ds ) =S とおいて 2
N = IS ×μ0H [電流ループに働くトルク] ・・・・・ [*]
と計算できます。 ここでS は円の面積ベクトルで,円板に垂直で(図中のz方向),大きさは円の面積と等しいものです。
(積分経路ループC上で)r と ds は常に直交しているので,| S | = (1/2)r ・ 2πr =円の面積です。)
[3] この円電流をマクロな物理量と関係づける流儀が2通りあります。その1つは, [V][s][A・m]-1[A][m2]=[V][s][m]
μ0IS =m [Vsm] (磁気双極子モーメント) − EH対応 −
とおいて話を進めていく方法で,トルク[*]は,
N =m × H
となります。いま,これを均一な電場中におかれた電気双極子モーメントp が受けるトルク[#],
N =p × E ← 電場中の電気双極子の受けるトルク
と比較すると数学的な形式が同じだとわかります。つまり,磁気現象の記述に静電気学の取り扱い方をそっくり ”まねる” ことができる(注意)わけです。そこで電気双極子モーメントp に対応させて,m を磁気双極子モーメント(または磁気双極子) と呼ぶことにします。このような取り扱い(定義)では電場 E と磁場 Hが対応しているので,EH対応と呼ばれます。
[4] 一方,磁気双極子モーメントを,
IS = mB [Am2] ( 磁気双極子モーメント)] − EB対応 −
と定義して,トルク[*]を,
N = mB × μ0H
= mB ×B (ただし,B =μ0H )
と記述する方法も可能です。このmB は双極子と呼ぶより,分子電流と呼ぶにふさわしい量です。この場合,静電気学と比較する際,数学的に磁場E と磁気誘導B が対応しています。これをEB対応といいます。この場合,よけいなパラメーターμ0 が入っておらず,mB の物理的な意味は明快です。
磁気双極子モーメントの2つの定義 (1) EH対応 p ⇔ m (=μ0mB) E ⇔ H (2) EB対応 p ⇔ mB E ⇔ B (=μ0H)
このように電磁気学の構成の仕方には2つの方法がありますが,この講義ではもっぱらEH対応で説明します。しかし,どちらの「対応」もよく使われているので(特に古い)文献を読むときは注意が必要です。
[5] 電気双極子が符号の異なる電荷±Qとその負電荷から正電荷へのベクトルd を用いて
p ≡ Qd [C・m]
と表せるように,p とm が対応する EH 対応においては,電荷 ±Q に対応する物理量として,磁荷 ±Qm を導入し,磁気双極子モーメントを,
m ≡ Qmd [ 磁荷の定義式 ]
と記述し,静磁気学の出発点に磁荷を位置づけることも可能です。このとき磁荷 Qm の単位 [?] は,μ0IS=m =Qmd [#] より,
([V][s][A・m]-1)・[A]・[m]2=[V][s][m]=[?]・[m]
となる[#]ので,[?]=[V・s] が磁荷Qmの単位です。しかし,磁荷は電荷[C]に対応(匹敵)する重要な物理量なので,
[Wb]=[V・s] [Wb] ← ウェーバー と読む
という単位を導入(定義)して磁性現象の基本単位のひとつとして用いることにしましょう。
[4] 磁荷 Qm に関しては電荷と同じようにクーロンの法則が成り立ち,静電気学の成果をそのまま利用することが可能です。ただし,数学的にプラス,マイナスの磁荷を仮定して合理的な体系を作れることと磁荷がプラス・マイナスそれぞれ単独で存在していることは違います。実際,現在まで磁荷はいつもプラス・マイナスが ”対”(磁気双極子として)の状態でしか見出されていません。
[1] 磁気モーメントの巨視的な集団を考えるときは静電気学の ”分極” [#]に相当する磁化を,
「単位体積中の磁気モーメントの総和」
と定義すると便利です。単位体積中の磁気モーメントの数を n [m-3] とすると,
M = n × ( m,またはmB )
で与えられます。磁化はEH対応,EB対応のどちらか,つまり,m と mB のどちらを採用するかで値(単位)が違ってきます。
[2] [EH対応における磁化M ]
EH対応では,m (=Qmd ) [Wb・m]より,M の単位はこれを [m-3] を乗じた[Wb・m-2]です。これは単位面積あたり[m-2]の磁荷[Wb]なので,”磁荷密度”と呼ぶべきような量だとわかります。さらに静電気学で電荷密度という物理的な意味をもつ分極P [C/m2] が電束密度(電気変位)D [C/m2] と対応したように[#],磁化M [Wb・m-2] は磁束密度B [Wb・m-2] [#] に対応していることを示しています。すなわち,
M ⇔ B [V・s・m-2]=[Wb・m-2]
なる対応があります。
[3] [EB対応における磁化MB]
EB対応の場合ですが,磁化MBはmB(分子電流)の集合(総和)で右図のように考えることができます。MBの単位は[Am2]・[m-3]=[Am-1],つまり,磁場H [#]と同質のものであることがわかります。視覚的には物質の磁化を右図のように磁性体の側面に流れる電流の作る磁場[A・m-1]と見なすことができるのです。すなわち,
MB ⇔ H [A・m-1]
なる対応が見られます。
ここで,アンペールの法則の微分形: j = rotH を思い出せば[#],磁化電流密度を
j M ≡ rotMB = rot (M/μ0)
と定義することは自然です。
[4] ここで出てきた物理量の単位について一覧表にしておきましょう。
| 電気 | 電気双極子 | 分極 | 電束密度 | 電気感受率 | 誘電体中で |
| p [C・m] | P [C・m-2] | D [C・m-2] | χ [Fm-1] | D =ε0E +P=(ε0+χ)E =ε0 (1+χr)E |
|
| 磁気 | 磁気双極子 | 磁化 | 磁束密度/磁場 | 磁気感受率/磁化率 | 磁性体中で |
| EH対応 | m [Wb・m] | M [Wb・m-2] | B [Wb・m-2] | χm [H・m-1] | B = μ0H +M = (μ0+χm)H |
| EB対応 | mB[A・m2] | MB [A・m-1] | H [A・m-1] | χm [無次元] | B =μ0(H+MB)=μ0(1+χm)H |
ときわ台学(電磁気学,および,物性論)ではEH対応における磁化を簡単にM と表記することにしています。しかし,EB対応を採用している他の教科書(講義)においては,M という表記を上の表のMBに対応させて用い,E-H対応での磁化Mに対応する物理量はPmと書いて磁気分極と呼ぶことがあります。また,磁気感受率χm磁化率χmは
[5] さて,これまでみてきたD とB との数学的な対称性を考えると,電荷のガウスの法則[#]に対応して
D ・ndS = Q dΩ ⇔
B ・ndS = Qm dΩ
あるいはもっと一般的な曲面に対して,(閉曲面である必要はありません。)
D ・ndS = (Q/4π)・ dΩ ≡ Ψe ⇔
B ・ndS = (Qm/4π)・ dΩ ≡ Ψm
が成り立つ,または定義して利用することが可能です。これらの量は磁荷に対するガウスの法則,または磁束Ψm (⇔ 電束Ψe [#])の定義を与える式となっています。(さらに,電束が考えている面 S を貫く電気力線の本数[#]に比例したように,磁束は同様な磁力線の本数に比例すると考えることもできます。)
[6] ただし,電気と磁気との違いもあります。それは先程述べたように真磁荷は存在しないと考えられているからです。つまり,真磁荷密度ρmなるものを考えてもそれはいつもρm=0でなければならないのです。
磁荷のガウスの法則 (真磁荷の不存在)div B = 0 [微分形]
|
がえられます。これは電磁気学の基本法則のひとつです。証明は, divD = ρ と同じ[#]なことはいうまでもないでしょう。
[7] 最後になりましたが,電気双極子と磁気双極子のトルクを数学的な対称性から導かれる「電荷Q ⇔ 磁荷Qm 」 なる対応関係によって,磁場H 中に置かれた磁荷の受ける力F が,
F = QmH
とかけることや,距離 r だけ離れた位置に置かれた2つの磁荷 Qm,Q’m に働く力の大きさ F が,
F = k ・ Qm,Q’m r2
と記述可能な(=クーロンの法則が成り立つ)ことはいうまでもありません。クーロンの法則から静電気学の諸法則を導いた過程(数学的な方程式の変形)を逆にたどれば,磁荷のクーロンの法則に辿りつくはずです。
正規直交座標系で右図のように各ベクトル,
r =(rcosφ, rsinφ, 0 )
H =(Hsinθ, 0 , Hcosθ)
ds=(-rsinφdφ,rcosφdφ, 0 )
を配置させると,ベクトル3重積: x ×(y ×z )=(x ・z )y −(x ・y )z [#]を用いて,
N / I =
r×(ds×μ0H)= {(r ・μ0H )ds −μ0H (r ・ds)}
= μ0r2H {sinθcosφ( -sinφdφ,cosφdφ,0 )− 0 }
= μ0r2H ( −sinθcosφsinφdφ,sinθcos2φdφ,0 ) = ( 0,πμ0r2Hsinθ,0 )
= μ0r2Hsinθ( 0, cos2φdφ,0 )
一方,
(r×ds)×μ0H = (r ・μ0H )ds −r(ds・μ0H)
= μ0r2H {(sinθcosφ( -sinφdφ,cosφ,0 )+sinθsinφdφ( cosφ,sinφ,0 )}
= μ0r2H (0,sinθ(cos2φ+sin2φ),0) = ( 0,2πμ0r2Hsinθ,0 )
= μ0r2Hsinθ(0, dφ,0)
よって,
N =I・ r×(ds×μ0H) =(I/2) (r×ds)×μ0H
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