9 電流が作る磁場:ビオ・サバールの法則
f-denshi.com  [目次へ] 最終更新日: 21/10/11   円電流の作る磁場を球座標で計算
サイト検索

前ページ8.で導かれた法則の微分形がビオ・サバールの法則です。

. ビオ・サバールの法則

 電荷の移動 ( =電流 ) によって生じる磁場の方向,大きさを与えるのがビオサバールの法則 (Biot-Savart Law) です。

ビオサバールの法則 

(1) 原点に電流 I が流れている導線の微小長さを ds とすると,この部分が位置 r に作る磁場は,
dH I ds ×r   または,dH = I sinθ ・ ds
4πr3 4πr2
で与えられる。ベクトルの向きは下図参照。

全磁場はこれを導線全体にわたって積分して求まる(重ね合わせの原理)。

(2) 電荷 Q が速度v で動いているとき,位置r  に作る磁場は
H Qv ×r  = v ×ε0E  , ただし,E Qr
4πr3 4πε0r3

運動電荷,もしくは電流要素 (←座標原点に置く) から位置を指すベクトルをr とします。  外積 ”×” については⇒[#]

 この法則は実験事実としてそのまま受け入れることもできますが,クーロンの法則とアインシュタインの特殊相対性原理に基づいて必然的に導かれる(予測される)ものです。これを簡単に見ておきます。(きちんと示すには電磁ポテンシャルの知識があるとい。⇒[#])

[1] まず,3.で示したように,線電荷密度σの無限直線が作る静電場が以下のような積分で計算される [#] ことを思い出して下さい。

dE = σsinθdz  , sinθ = R / r, r =( R2+z21/2
4πε0r2
⇒ 積分すると, E =  σ
2πε0R

この最後の式が前章で求めた電流 I が流れる無限直線の作る磁場 [#]

H = I         ・・・・・・・・   [*] 
2πR

と同形 ( R に反比例 )であることに気がつきます。(R,sinθの意味は上図参照)

また,先に考察したように磁場がローレンツ短縮で生じる電荷 ( 電荷密度の変化 ) に起因することから電場と同様に重ねあわせの原理が適用され,各電流要素が作る磁場の総和( 積分 )で磁場を計算することが妥当だとわかります。結局,(σ/ε0) sinθdz ⇔ Isinθds という(数学上の)対応を考えて,磁場の微分要素は,

dH = I sinθ・ds
4πr2

とおけばよいことがわかります。これを積分すれば確かに [*] が得られます。磁場の方向 [#] まで考慮すると,

dH I ds×r
4πr3

とベクトルで書けることもわかります。これはビオサバールの法則に他なりません。

[2] また,電流 I ds は dQ ・v と書けるので,( I=dQ/dt ,ds/dt=v

dH dQv ×r
4πr3

微分量 d の中身を見て,

H v ×(Qr v ×ε0E ; ただし,E Qr
4πr3 4πε0r3

が得られます。E はクーロンの法則から電場を導入したときの定義式[#]に倣ったものです。ただし,今の段階ではまったく形式的な電場の表現でしかありません。厳密なEH(〜B)との関係式はこちら⇒ [#]

[3] ビオサバールの法則の積分形で書いておきます。

ビオサバールの法則 [積分形] 

(1) 回路 C に定常電流 I が流れているとき,位置 r に作られる磁場,磁束密度は,
H I ds ×(rs)
|rs|3
B μ0I ds ×(rs)
|rs|3
(2) 位置s における電流分布 j (s) が与えられているとき,位置 r に作られる磁場,磁束密度は,
H 1 j (s)×(rs) d3s
|rs|3
B μ0 j (s)×(rs) d3s
|rs|3
で与えられる。

無限に長い直線電流が作る磁場の計算 (積分の具体的計算方法) はこちら⇒[#]

円電流についての計算は,次に計算してみましょう。


2.円電流 (球座標で計算)

[1] ビオサバールの法則を利用してリングに沿って回り続ける電流 [ 円電流 ] が遠方につくる磁場を計算しましょう。これは,原子(分子)一つが作る磁場を説明する古典的な”分子電流”モデル[#]などで重要です。

ビオ−サバールの法則,

H = I ds×(rs)       ・・・・・  [**]  
rs3

にしたがって遠方に形成される磁場を球座標のもとで計算します。円電流(半径= a) はxy 平面内にあり,その中心を座標原点とします。

磁場の計算に用いる座標の取り方を示す。
中心を原点に持つ半径 a の円電流の位置はベクトルs で示し,
x軸方向の単位ベクトルex からの角度をα とする。
磁場の形成されている空間の位置を r ( |r | >> a ) で表す。

[2] この円を指すベクトルをs,十分遠方の位置をr ( a << |r | = r とするとき,これらはデカルト座標で,

 s   = a cosαex+a sinαey+0  ez    
 ds  = −a sinα dαex+a cosαdα ey+0  ez
 r   = r sinθcosφ ex+r sinθsinφ ey+r cosθ ez 
rs = (r sinθcosφ−a cosα)ex+(r sinθsinφ−a sinα)ey+r cosθez

と表されるとします。すると,[**] 式の被積分関数の分子は,

ds× (rs) =
ex ey ez 
−a sinα dα a cosα dα 0
 (r sinθcosφ−a cosα)  (r sinθsinφ−a sinα) r cosθ

= ar cosαcosθdαex+ar sinαcosθdαey
   − [( a sinα (r sinθsinφ−a sinα)+a cosα(r sinθcosφ−a cosα)] dαez

= ar cosαcosθdαex+ar sinαcosθdαey+( a2−ar sinθcos(α−φ))dαez 

これを球座標に直すために上式に球座標への基底変換の式 [#]

ex = sinθcosφer+cosθcosφeθ−sinφeφ
ey = sinθsinφer+cosθsinφeθ+cosφeφ
ez = cosθer−sinθeθ

を代入して,ds×(rs) = Arer+Aθeθ+Aφeφ のように整理して表すと,

Ar = a cosαr cosθsinθcosφdα+a sinαr cosθsinθsinφdα
            +[ a2−ar sinθcos(α−φ)] cosθdα
  =ar cosθsinθ[cosαcosφ+sinαsinφ−cos(α−φ)]dα
      + a2cosθdα
  = a2cosθdα
Aθ= ar cosαcosθcosθcosφdα+ar sinαcosθcosθsinφdα
            − ( a2−ar sinθcos(α−φ) ) sinθdα
  = ar cos(α−φ)dα−a2 sinθdα
Aφ= −ar cosαcosθsinφ dα+ar sinαcosθcosφdψ
  = ar cosθsin(α−φ) dα

となります。したがって,[**] 式の分子は,

ds×(rs) = a2cos dαer+( ar cos(α−φ) dα−a2 sinθ) dαeθ
                    +ar cosθsin(α−φ) dαeφ

[3] 一方,a << |r| と近似可能なとき,[**] 式の分母は,

1 =(r2−2ar sinθcos(α−φ)+a2 )−3/2
| r−s|3

           ↓  a2/r2の項を落として,

  ≒ r−3 1− 2a sinθ cos(α−φ)  −3/2
r
       ↓   (1+ε)m ≒ 1+mεと近似
  ≒ r−3 1+ 3a sinθ cos(α−φ) 
r

したがって,球座標で表した磁場は,以下途中で次の積分公式,

cos(α−φ) dα = 0
cos2(α−φ) dα = π 
sin(α−φ) cos(α−φ) dα = 0

を用いての[**] 式の計算を成分ごとに進めると,

r 成分

Hr I a2cosθr−3 1+ 3a sinθ cos(α−φ)
r
  = I a2cosθ
2r3

θ成分

Hθ I [ ar cos(α−φ)−a2 sinθ] r−3 1+ 3a sinθ cos(α−φ)
r
   = I a2r−3 [− sinθ+ 3sinθcos2(α−φ)]dα
   = I a2r−3 (−2πsinθ+3πsinθ)
   = I a2sinθ
4r3

φ成分

Hφ I ar cosθ sin(α−φ) r−3 1+ 3a sinθ cos(φ−α)
r
  = I 3a2r−3 sin(α−φ) cos(α−φ) cosθ sinθdα

     = 0 

まとめ  円電流 (半径 a )が遠方 r に作る磁場 (球座標表示)

Hr I a2cosθ
2r 3
Hθ I a2sinθ
4r 3
Hφ= 0  

この結果は,円電流と磁気双極子の等価性を示すために利用します。⇒ [#] 

これと同じ問題を円筒座標系で解くこともできますが,その計算方法はこちら ⇒ [#]


[ 目次へ ]