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3 剰余環 Znと有限体 Fp | ![]() |
f-denshi.com 最終更新日: 21/7/28 | ||
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第一部 群論 11,14 では整数の剰余類の集合 Zn について,加法群+と乗法群 ×を別々に導入してそれぞれ考察しましたが,ここでは同時にこれら2種の演算を持ち込み,環,および(有限)体を構成します。
[1] 整数の剰余類の集合:
Zn ={[0]n,[1]n,[2]n,・・・,[n-1]n}
を考えます。11.[#] で見たように Znは加法+を演算として可換群をなします。この加群では,[0]n が零元となり,[a]n のマイナス元(逆元)は[n-a]n であたえられます。また,剰余類を乗法群とするために乗法×を定義することも可能で交換法則が成り立ちました。 さらに,この2種の演算の定義に基づいて,
[a]n×( [b]n+[c]n)=[a]n× [b+c]n
=[a×(b+c)]n
=[a×b+a×c]n
=[a×b]n+[a×c]n
=[a]n×[b]n+[a]n×[c]n
と,×,+ についての分配法則が成り立つことがわかります。すなわち,
剰余類,Znは この×,+の演算のもとで ( 1をもつ可換 ) 環である |
ことがわかります。これを整数の剰余環(整数環)と呼びます。
[2] 整数の剰余類 Znのうち,n の倍数の集合(n)=[0]n={・・・-2n,-n,0,n,2n,・・・}は整数のイデアルとなっていました[#]。
14.で見たように,
Zn* = Zn −{ [0]n }
= { [1]n,[2]n,・・・,[n-1]n }
はn が素数 p であるとき,積 × のもとで群をなしました。これは環 Znで考えると,零元である [0]n 以外のすべての元が積に関して逆元をもつことを示しています。したがって,2種類の演算+,× が定義されたもとで次の定理が成り立ちます。
定理 [p 元体] p を素数とすると,Zp ={ [0]p,[1]p,[2]p,・・・,[p-1]p } は ×,+ の演算のもとで体となる。 |
この体(正確にはこれと同型な体)を整数の剰余体,有限体,ガロア体,またはp元体といいます。また,体であることを(2種類の演算を考えていることを)はっきり示すために体の英語,Field の頭文字をとって,Zp の代わりに以後,Fp と書くことにします。←整数の剰余群Zpと区別するためです。教科書によっては,GF(p)という記号も使われます。
また,これ以後,特に注意を促す必要があるときを除いて,[ ]pを省略して,
Zp ⇒ Fp = { 0,1,2,・・・,p-1 }
と表記することにしましょう。
[3] 一般化しておきます。
定義 剰余環 環 R のイデアルを I とするとき,R 上の同値関係〜として, a〜b ⇔ a−b ∈ I ( ⇔ a〜b mod I )を定めて得られる同値類, [a] ≡ a+ I ≡ { a+r|r ∈ I } ( ⇔ a mod I )の全体集合を R/ I と書き,この集合の元に次の演算, 和: [a]+[b] =[a+b] (= a+b+I )を導入すると,R/ I は環となるが,これを R の I による ( または I で割った)剰余環という。 なお,文脈から同値類であることが明らか場合は,[ ] を外して単に a とも書く。 |
[4] 剰余環はイデアルの特徴によって,さらに整域であったり,体であったりします。
定理2 (1) P が環 R の素イデアルであることと, 剰余環 R/ P が整域であることは同値である。 (2) M が環 R の極大イデアルであることと, 剰余環 R/ M が体であることは同値である。(剰余体) |
pZは素イデアルであり,極大イデアルでもある。よって,Fp は体になることが分かります。
(1)の証明
(1) a,b ∈R,その剰余環を [a],[b] とします。このとき,
[a]=0 ⇔ a∈ I 待遇 ⇒ ( [a]≠0 ⇔ aI ) (1)
[b]=0 ⇔ b∈ I 待遇 ⇒ ( [b]≠0 ⇔ bI ) (2)
また,素イデアルの定義 : ab ∈ I ならば,a ∈ I または,b ∈ I の待遇は,
aI かつ, b
I ⇒ ( ab
I ⇔ [ab]≠0 ) (3)
(2) すると,(1),(2),(3) より,
[a]≠0 かつ,[b]≠0 ⇒ ( ab I ⇔ [a] [b]=[ab]≠0 )
つまり,剰余環が零因子を持たないことが示された。
(2)は逆元の存在を示すことで証明される。
(1) R/Mの [0] ではない元 [a] M をとると,M と a から生成されるイデアル I =M+(a) は,M が極大イデアルならば,I=R である。
よって,R の任意の元は,m+ar (m∈M,r∈R) と表される。もちろん,R の 1 も
1=m+ar
と表すことができる。
(2) この両辺 M による剰余を考えると,
[1]=[ar]=[a] [r]
この式から,[a] が逆元 [r] を持つことが分かる。
(3) 逆に R/M が体であるとする。I ⊃≠M である任意のイデアル I には,aM である元が存在して,[a] ≠ [0] ,かつ,逆元 [b] をもち,
[a] [b]=[ab]=[1] ⇒ 1−[ab] = 0
これは,
1−ab = m∈M ⊂ I
を意味するが,a∈ I なので,
1=m+ab ∈ I
であることを示している。言い換えると,I は,「 単位元 1 を含む部分イデアル=R自身]であることを示している。
(4) そのためには,M は極大イデアルでなければならない。 (終)
定理 (1) 極大イデアルならば,素イデアルである。 (2) 単項イデアル整域においては,素イデアルならば,極大イデアルとなる。(1)の逆が成り立つ。極大イデアル ⇒ 素イデアル 素イデアル ⇔ 極大イデアル [ PIDのとき ] |
証明
環 R の極大イデアル M による剰余環 R/M は体であるので整域でもある。
したがって定理2の(1)より,M は素イデアルである。
定理 単項イデアル整域(PID) R の元 m が既約元であることと,(m) が R の極大イデアルになることは同値である。
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証明
⇒ を示す。
(m) ⊂≠ I ⊆ R ・・・ [*]
であるような R のイデアル I を考えると,I =R となることを示せばばよい。
(1) R は単項イデアルなので,ある c が存在して,(c)=I とできるが,そのとき,m∈ I なので,
m=cr r∈R
と表すことができる。そして,m が既約元 [#] であれば,c,r のいずれかは単元 [#] である。
(2) このとき,r が単元だと (m)=(c) となり,[*] に反するので,c が単元でなければならない。
(3) すると,単元から生成されるイデアル I =(c) は R自身 ということになる。つまり,(m)
より大きなイデアルは R しか存在しない。 (完)
逆 は,m=ab ( a,b∈R ) と積で表したとき,必ずa,b のどちらかが単元でなければいけないことを示せばよい。
(1) イデアル (m) の元は,mr ( r∈R ) と表すことができるが,
mr=abr=a(br) ∈ (a)
これより,(m) が極大イデアルならば,(a)=(m) または,(a)=R のどちらかであると分かる。
(2) もし,(a)=(m) ならば,単元 u を用いて,a=um と書けるので,
m=ab=umb ⇔ m(1−ub)=0
ここで,R は整域なので,mで最後の式を簡約すると,1=ub となり,この式は b が単元でなければ成立しない。
(3) もし,(a)=R ならば,1∈(a) なので,
r∈R が存在して,ar=1 とできなければならないのだが,この式は a が単元でなければ成立しない。
(4) 以上より,m=ab と書かれたときは,a,b のいずれかは単元であることが分かった。つまり,mは既約元である。
ここまでのいくつかの定理を組み合わせると,PID (体でもよい) の Rの部分環 M=(m) が与えられたとき,
mが既約元 ⇔ Mが極大イデアル ⇔ Mが素イデアル ⇔ 剰余環 R/M が体 (剰余体) |
であることが示されました。
[1] 体 Fp = { 0,1,2,・・・,p-1 } から零元を除いた集合を,
Fp* ={ 1,2,・・・,p-1 }
とします。 Fp* には乗法として元の位数 [#] が p-1 の元 r が少なくとも一つ存在することが証明できます(Apndex 1)。
すなわち,Fp*は積に関して巡回群で,r 自身をかけ合わせていけば,
r,r2,・・・,rp-2,rp-1=1
が得られ,これら p-1個の元はすべて異なっています。このような元 r を p を法としての原始根といいます。
この r を用いれば,
Fp* = { 1,r,r2,・・・,rp-2 }
と表すことができます。したがって,r が与えられると, Fp* の任意の元 a は,
a = rk
と書くことができ,各元をそれぞれ異なる k に一意的に対応させることができます。この k を 原始根 r に関する a の指数 といい,
k =ind r( a )
と書きます [#]。
[2] F5 = {0, 1,2,3,4 }について具体的に見てみると,
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F5積表 | F5*累乗 rn |
上の表から,
Fp*={ 1,2,3,4 }において,2 と 3 が p-1=4 乗して初めて,1となるので,原始根であることが分かる。
さらに,原始根が2の場合は,
{ 1,r,r2,r3 }={1,2,4,3}=Fp*
原始根が3の場合は,
{ 1,r,r2,r3 }={1,3,4,2}=Fp*
であることが確かめられます。
指数 ind r( a ) については,
n = 0 1 2 3 4 2n = 1 2 4 3 1 3n = 1 3 4 2 1 4n = 1 4 1 4 1 ↓
a = 1 2 3 4 ind 2(a) = 0 1 3 2 ind 3(a) = 0 3 1 2
となります。
[2] これは普通の対数 log と似た性質( a = rk ⇔ ” log ra = k ” ) をもっていて,
Fp* の元 a,b に対して ind r(ab) = ind r( a ) +ind r( b ) (mod p-1) |
が成り立ちます(証明略)。 ←指数の演算+,× が ” mod p-1 ” でおこなわれるのはもちろん, ap-1=1 に起因してます。
[3] また,Fp* の元 a の位数 | a | と原始根 r に関する a の指数 ind r(a) との間には,次の関係があります。
|a|= (p-1) [ a の位数 ] (p-1,ind r(a))
F5*の原始根 r=3 に対する a=4 の指数は2ですが,
(5-1) =2 (5-1,ind 3(4)
と計算すれば,4の位数が2であると求まります。
F5*の原始根3に対する a=2 の指数は3ですが,
(5-1) =4 (5-1,ind 3(2)
と計算すれば,2の位数が4であると求まります。
[1] ここで,関連した定理を一つ紹介しておきましょう。この定理はフェルマーの小定理と呼ばれています。
フェルマーの定理 素数 p で割り切れない整数 a に対して, ap-1 は p で割ると余りは 1 である。 ⇔ ap-1≡1 (mod p) |
証明 (p=2のときは明らかに成り立つので p>2 とします。)
[2] 有限体Fp を考えます。←もちろん p は素数です まず,a を p で割り切れない整数としたので,[a]p は [0]p に等しくないことに注意しましょう。
[3] 次に,集合: Fp*=Fp−{ [0]p } の (p-1)個の元,
{[1]p,[2]p,・・・,[p-1]p} = Fp*
と Fp* の元それぞれに, [a]p∈Fp* を掛けた集合,
[a]p×Fp*≡{[a]p×[1]p,[a]p×[2]p,・・・,[a]p×[p-1]p}
を考えます。この集合の(p-1)個の元は互いにすべて異なります。たとえば,もし,
[a]p×[1]p=[a]p×[p-1]p ならば,⇒ [1]p=[p-1]p
となって矛盾するからです。↑体は簡約ができるのでした。[#] したがって,
Fp* = [a]p×Fp* ←集合として等しいことを言ってます。
です。
[4] すると,この2つの集合それぞれについて,”すべての元のかけ合わせ(積)”を考えると,それらは等しく,次の等式が成り立ちます:
[1]p×[2]p×・・・×[p-1]p=([a]p×[1]p)×([a]p×[2]p)・・・×([a]p×[p-1]p)
=[a]pp-1×( [1]p×[2]p×・・・×[p-1]p )
両辺を [1]p×[2]p×・・・×[p-1]p で簡約すれば,
[1]p = [a]pp-1
つまり,mod p のもとでは, [a]pp-1 = [ap-1]p なので [#],
[1]p = [ap-1]p ⇔ 「 ap-1 は p で割ると 1 余る整数」
と言うことがいえるのです。以上よりフェルマーの小定理が証明されました。
注意:
この定理は a を p−1 回掛け合わせて初めて 1 ( mod p ) となることを主張してるるわけではない。