14 剰余類の乗法群
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1.整数の剰余類の乗法群

[1] 整数の剰余類の集合Znについては,[a]n に属する任意の元 a’および,[b]n に属する任意の元 b’とすると,

a≡a’ (mod n),  b≡b’ (mod n) → a×b ≡ a’× b’ (mod n) 

となります。なぜなら,整数 c,d を用いて,a−a’= c×n, b−b’= d×n とおくと,

a×b=(a’+c×n)(b’+d×n) = a’× b’ + (a’×d+b×c+c×d×n) ×n
整数

となるからです。したがって,11.の加法と同様に,剰余類の乗法(積)を

[a]n × [b]n=[a× b]n

によって定義し,演算に意味をもたせることができます。

[2] この積をもとでのZ5の各元の演算結果を表(乗積表)にしてみると,

× [0]5 [1]5 [2]5 [3]5 [4]5
[0]5 [0]5 [0]5 [0]5 [0]5 [0]5
[1]5 [0]5 [1]5 [2]5 [3]5 [4]5
[2]5 [0]5 [2]5 [4]5 [1]5 [3]5
[3]5 [0]5 [3]5 [1]5 [4]5 [2]5
[4]5 [0]5 [4]5 [3]5 [2]5 [1]5

となり,[0]5の関係した部分を除いた部分(色の濃い部分)は群を作っていることがわかります。すなわち,

定理:

      Z5* ≡ (Z/5Z)*
      =Z
5−{[0]5} = {[1]5,[2]5,[3]5,[4]5

は乗法×のもとで群をなす。

ことがわかります。単位元は[1]5 であり,逆元の存在もすべての行,(列)に[1]5 が存在することからわかります。

[3] しかし,どんな n についても Zn* が乗法群をなすわけではありません。たとえば,Z6 の乗法表を作ると,

× [0]6 [1]6 [2]6 [3]6 [4]6 [5]6
[0]6 [0]6 [0]6 [0]6 [0]6 [0]6 [0]6
[1]6 [0]6 [1]6 [2]6 [3]6 [4]6 [5]6
[2]6 [0]6 [2]6 [4]6 [0]6 [2]6 [4]6
[3]6 [0]6 [3]6 [0]6 [3]6 [0]6 [3]6
[4]6 [0]6 [4]6 [2]6 [0]6 [4]6 [2]6
[5]6 [0]6 [5]6 [4]6 [3]6 [2]6 [1]6

となり,Z6* は群をなしません。[2]6,[3]6,[4]6に逆元が存在しないからです (これらに何をかけても [1]6 にはならない!) また,[2]6,[3]6,[4]6 の行には,[2]6 × [3]6 = [0]6 という ”かけ算” としてはオカシナこともおきています。 一般に,

ある b≠0 に対して,  a × b = 0

となるとき,a を零因子といいます。この用語を用いると,[0]6以外にもZ6には零因子が存在します。どのような元が零因子になっているかといえば,n が 1と n 以外の約数をもてば,a≠1 (そのとき,[bn≠[0]n=[nn ),かつ a× b = n となる a,b が存在して,

[a]n × [b]n = [a× b]n = [nn = [0]n     (0≦a,b<nとして考えてます。)

となることから,

a が n の 1 以外の約数 ⇔ [a]n は零因子となる。

ことがわかります。

[4] また,[bn≠[0]n の零因子 [a]n に逆元 [a]n-1 が存在すると,

[b]n = [a]n-1×[a]n × [b]n = [a]n-1×[0]n = [0]n

となり,[b]n≠[0]n に矛盾します。すなわち,

零因子は逆元をもたない。

そこで,Z6*の中で逆元をもつ元(←可逆元といいます)だけを抜き出した集合

  G6 = {[1]6,[5]6
× [1]5 [5]5
[1]5 [1]5 [5]5
[5]5 [5]5 [1]5

を考えるとこれは群をなすことがわかります。これは,「 Z6* から零因子を除外して群 G6を 得る。 」 ということができます。

[5] 以上,考察のもと次の定理が成り立ちます。

定理

Zn* の乗法における可逆元全体を
   Gn={[a]nZn*[b]∈Zn*,[a]n × [b]n =[1]n} とすると,

(1) Gnは乗法群をなす。特に n が素数 p ならば,Zp* の元全体は乗法群をなす。
(2) [a]n Gn ⇔ a と n は互いに素
(3)|Gn|=φ(n)

ただし,φ(n)はオイラー(Euler)のPhi 関数

n=1 のとき, φ(1)= 1
n>1 のとき, φ(n): 1≦m<n をみたす n と互いに素な整数 m の個数
となる。

 また,Gn に属する剰余類を nと素な剰余類 ,Gn既約剰余類群といいます。


注意: Zn*をはじめから可逆元全体の集合として定義することもあります。その時は,Zn*≡Gn です。実際,第2部では,Zn*≡Gnとします。

[6] また,Zn*は加群 Zn の自己同型群(自分自身へ写す全単射からなる群)Aut (Zn) ともなっています。

定理

巡回加群 Znについて,

Aut (Zn) ≡ Zn* (mod n) 

である。(Zn*≡Gn

証明 略

例 Z6の場合

この自己同型写像は,6の剰余類を6の剰余類へ写す上への1対1写像で,生成元は生成元に写されることを考えると,次の2つであることが分かります。

ε α
Z6の自己同型写像はこの2つ

これらε,αが自己同型写像であることは,εは自明ですが,αについては,

α([a]6)+α([b]6)=[6-a]6+[6-b]6=[6-(a+b)]6=α([a+b]6

と確認できます。この自己同型群Aut (Zn)は,次の群表から分かるように,Zn*(≡Gn と同型です。

Aut (Zn) Zn*
* ε α
ε ε α
α α ε

同型
× [1]5 [5]5
[1]5 [1]5 [5]5
[5]5 [5]5 [1]5




補遺

・具体的なオイラーのΦ関数の形:

n=p1a・p2b・・・・pkrとするとき,(piは互いに異なる素数)

φ(n)=n 1− 1 1− 1 ・・・・ 1− 1
p1 p2 pk
     =p1a-1p2b-1・・・・・pkr-1(p1−1)(p2−1)・・・・(pk−1)

最初のいくつかを計算してもみましょう。

n= 1 2 3 4 5 6 7 8 ・・・
φ(n)= 1 1 2 2 4 2 6 4 ・・・
素な数 1 1 1,2 1,3 1,2,3,4 1,5 1,2,3,4,5,6 1,3,5,7 ・・・

例: n=p1a・p2b (k=2) のときについて考えると,

φ(n)は,nからp1で割り切れる数の個数とp2で割り切れる個数を差し引いて,そこへp1とp2の両方で割り切れる数の個数を加えればよい。すなわち,

φ(n)=n−n/p1−n/p2+n/(p1・p2)
    =p1ap2b−p1a-1p2b−p1ap2b-1+p1a-1p2b-1
    =p1a-1p2b-1(p1−1)(p2−1)

となって関係式を確認できる。 (問題:kが一般の正整数のときについて証明せよ。)

1からp1aまでの数の中で,p1で割り切れる数の個数は,p1a/p1 なので,これを引いた,

p1a−p1a/p1=p1a-1(p1−1)

が1からp1aまでの数の中で,p1で割り切れない数の個数である。
また,1からp2bまでのなかでの中でp2で割り切れない数の個数は,同様に考えて,

p2b-1(p2−1)

である。したがって,1からn=p1a・p2b のなかで,p1とp2のどちらでも割り切れない数の個数は,

p1a-1(p1−1)p2b-1(p2−1)



・n と素な整数 a に対して,

aφ(n) = 1 (mod n)

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オイラーの関係式 

pm を小さい方から数えて m 番目の素数とすれば,

1
ns
  = 1
1− 1
pms

が成り立ちます。 この関係式を示すのには,次の公式を用います。

1 = 1+r+r2+・・・+rn+・・・・    , ただし,|r|<1
1− r
r として, 1  < 1 代入すれば, 
pms
1 = 1 +
1
 pms
1
 pm2s
1 + ・・・・・
 pm3s
1− 1
pms

したがって,

1 1 +
1
 2s
1
 22s
1 + ・・・・・
 23s
1− 1
pms
                     × 1 +
1
 3s
1
 32s
1 + ・・・・・
 33s
                    × 1 +
1
 5s
1
 52s
1 + ・・・・・
 53s
           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これを展開すれば,

=  Σ 1
α,β・・・   (p1αp2βp3γ・・・・・)s

ここで,Σは(α,β,・・・)は,0 以上のあらゆる整数の組についてわたってとります。すると,自然数が一意的に

p1αp2βp3γ・・・・・pkω          (α=β=・・・=0 のとき,1 です。)

のように表せることから,この級数の(    )sの中にはすべての自然数が1回ずつ現れます。よって,この和は,

1
ns

と書いてよいことがわかります。