11 整数の剰余類の加群
f-denshi.com  最終更新日: 04/04/18
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 この章では位数が無限大の群の類別を考えます。整数の集合に普通のたし算を導入するとそれは群になります。この群に同値関係を持ち込み,整数の剰余類と呼ばれる新しい群を構成しましょう。その手順は,整数をある自然数 n で割った余りが等しいとき,この整数を同一の集合に分類することで,n 個の同値類を得ます。次に,この同値類を元とする集合が群をなすための演算を定めます。


1.整数の剰余類の加群

[1] 整数の集合Zは普通のたし算 + を演算とする群(Z,+ ) です。整数の部分群として,n(>1)の倍数全体からなる集合,

nZ ={・・・,-2n,-n,0,n,2n,3n,・・・} 

整数群(Z,+)の正規部分群[#]です。したがって,前ページにならうと,nZ によって整数を類別し,nZ による商群 Z/nZ を得ることができるはずです。この商群は整数nによる剰余群と呼ばれます。

[2] では,この商群を具体的に構成してみましょう。この章では演算として加法を表すために「+」または「」記号を用いますが,( 演算記号 ・ を用いた)前章の議論と本質的な違いはありません。

 まず,同値関係を導入します。 

nZ を用いて,

  b = a+s, s ∈ nZ (または,b−a=s, s∈nZ : a と b との差が n の倍数であることを同値関係と定める。)

であるとき,整数 a,b の関係を,n を法として合同であるといい,a≡b (mod n ) と書く。

ことにします。この関係が同値関係であることは,    

(1) a≡a (mod n )
(2) a≡b (mod n )             ⇒ b≡a (mod n )
(3) a≡b (mod n ),b≡c (mod n ) ⇒ a≡c (mod n )

が成り立つことで確かめられます。

[3] 次に a がすべての整数にわたるとき,どのような同値類が現れるか調べると,

0  +  nZ   ={・・・,     −n,  0,   n,       2n,      ・・・ }
1  +  nZ   ={・・・,    −n+1,   1,   n+1,    2n+1,     ・・・ }              
2  +  nZ   ={・・・,    −n+2,   2,   n+2,    2n+2,     ・・・ }   
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(n-1)+nZ = {・・・ −n+(n−1), n−1,n+(n−1),2n+(n−1),・・・ }

の n 個の集合(同値類)で尽くされることがわかります。

 a+nZ = {a+s|s∈nZ} ⇒ [a]n

と記せば,整数群の集合はその部分群 nZ によって類別され,

  Z = [0]n∪[1]n∪・・・∪[n−1]n
ここで,正四面体群のときの代表元を用いた記法などと比較すれば,
     a+nZ は a2S1,hxH など
      [a]n は A,  H      など
に対応しています。
[#]

となり,その剰余類の集合を,

  Zn = {[0]n,[1]n,・・・[n−1]n

と書くことにします。(注意1)。また, [a]nの ” a ” をこの剰余類の代表元といい,普通 0 から n-1 までの整数を使います。

[4] 例として,n=5 のとき,剰余類は[0]5,[1]5,[2]5,[3]5,[4]5 の5つで尽くされます。ここで,[8]5を考えたとしても,8=5+3なので

[8]5={・・・,−5+8, 0+8,   5+8, 2×5+8,・・・,  k×5+8,  ・・・}
   ={・・・, 0+3,  5+3,2×5+3, 3×5+3,・・・,(k+1)×5+3,・・・}
   =[3]5

となります。

[5] 次に,この剰余類の元どうしの間に演算を定義します。それには,[a]n に属する任意の元 a’および,[b]nに属する任意の元 b’とすると,

a≡a’ (mod n ),  b≡b’ (mod n ) ⇒ a+b ≡ a’+b’ (mod n )

が成立することに着目します。つまり,剰余類 [a]n に属する任意の元と剰余類 [b]n の属する任意の元の和 a’+b’は,必ず,剰余類[a+b]nに属しているので,剰余類 [a]n と [b]n との和

[a]n [b]n = [a+b]n

とすれば,意味のある演算として定義できます。剰余類はこの演算のもとで群をなすことは容易に確かめられ,この群を整数nによる剰余群といい,Znと書きます。( Zn=Z/nZ です。)

(Zn が位数 n の巡回群に用いる記号 Zn と同じ記号を使われるのには意味があります。)

[6] n=5 のとき,すなわち,Z5 の群表を下に示します。

[0]n [1]n [2]n [3]n [4]n
[0]n [0]n [1]n [2]n [3]n [4]n
[1]n [1]n [2]n [3]n [4]n [0]n
[2]n [2]n [3]n [4]n [0]n [1]n
[3]n [3]n [4]n [0]n [1]n [2]n
[4]n [4]n [0]n [1]n [2]n [3]n

この群の単位元は[0]5,[a]5の逆元は[5−a]5です。

 なお,代表元としてふつう,0 から 4 までの整数を用いるので,上表で a+b  が 5 を超える場合,

[5]n[0]n,[6]n[1]n,[7]n[2]n,[8]n[3]n

としています。(言うまでもなく,赤い色はここだけのサービスで,ふつうは色分けしません。)


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