Appendix B2 導電体中での電磁波の減衰
f-denshi.com   [目次へ] 更新日: 06/06/22

  ここでは,真電流が流れ得る導体中でのマックスウェルの方程式の解を示し,電磁波と物質の相互作用の議論で必要となる複素誘電率などについて説明します。

1.電磁波と物質の相互作用の現象論

[1] 電圧 V,電気抵抗 R,電流 I との間に成り立つ,オームの法則:

V =R I     ( ← V= Ed ,  R =ρd/S , I = j ・S を用いる。 )

と,V= Ed ,  R =ρd/S , I = j  S なる関係から,

j  = I V V 1 V =σ・E
S SR ρd ρ d

ベクトルで書けば,

j =σE 

と書けます。ここで,σ [導電率],ρ[抵抗率],S[断面積],d[長さ] j [電流密度],E[電場]。
  すると,導体中でのマックスウェルの方程式 [#] は,


D =εE =εrε0EB = μH = μ0H (μ=1)

として,

(1) ∇ E = 0       ;  (2)  ∇×E +μ H  = 0
∂t
(3) ∇ H = 0      ;  (4)  ∇×H −ε E  = σE 
∂t

となります。 真空中の電磁場の波動方程式を導いたときと同様 [#] に変形すると次の波動方程式が導かれます。

2E = σμ E  + εμ 2E                                    ・・・・・     [*]  
∂t ∂t2
2H = σμ H  + εμ 2H
∂t ∂t2

これらの微分方程式は真空中とは違って時間に関する1階微分の項が存在し,その解は一般的に減衰波を表しています。[#]これは真電流が流れると,電磁波のもつエネルギーの一部分がジュール熱に変換されて失われてゆくことに対応しています。つまり,電子伝導性の物質中を電磁波が進み続けることはないことを意味します(電磁遮蔽効果)。また,誘電体材料(キャパシタなど)について考えているとき,このタイプの減衰は誘電損失と呼ばれます。では,具体的にこの微分方程式の解を求めてみましょう。

[2] とりあえず,z方向に進む1次元の平面波

E(z,t )=E 0 exp [ i (k*z− ωt ) ]                                ・・・・・ [**]

[*] に代入してみると,(この関数形のもとでのk* の定めます。)

-k*2 E 0 exp [ i (k*z− ωt ) ] =−( iσμ0 ω+ εrε0μ0 ω2E 0 exp [ i (k*z− ωt ) ]

すなわち,[**][*]の解となるならば,

k*2iσμ0 ω+ εrε0μ0 ω2

iσ +εr ε0μ0 ω2       ・・・ (6)
ωε0

を満足しなければならないことがわかります。

[3]  この(6)式を空気(誘電体)中で得られた波数 k の満足すべき式 [#]

k2 = n2ε0μ0ω2              ( = n2ω2/c02 ),        n2 = εr

と比較して,以下のように 複素誘電率ε*r複素屈折率 n*定義します

n*2ε*r iσ +εr                        ・・・・・・・・・・ (7)
ωε0

すると,(6)は

k*2ε*rε0μ0 ω2  

となり,空気(誘電体)中での電磁波のパラメーターと次のような対応が認められます。 
( ↓ (7)のようにパラメータを定義するメリットです。)

εr  ⇔  ε*r
n   ⇔   n*
k    ⇔   k* = 2πn*/λ   ( = 2π(n + iκ)/λ )

したがって,波動パラメーター間に誘電体中で成り立つ関係 [#]と同様な式,

n2ω2 = c02k*2
k*c0n*ω = 2πn*ν = 2πn*c0/λ  

が成り立ちます(=見た目が温存されます!)。 これが複素誘電率,複素屈折率を導入する目的(メリット)です。

[4] さらに,これらを実部と虚部に分けて,

ε*r =ε1iε2      
n*  = n   + iκ        : κは消衰係数と呼ばれます。

と書くことにすれば,(7)の虚部,実部と比較して,

ε1 =εr ,   ε2 σ
ωε0

であることがわかります。ここで虚数部にマイナスの符号をつけた教科書(定義)もありますが,理由はこちらを ⇒ [#]

[5]  一方,

n*2 = (niκ)2  = n2 −κ2 + 2inκ

なので,これと, n*2ε*r=ε1iε2 と比較して,

ε1n2 − κ2      ( =εr
ε2 = 2nκ          ( =σ/(ωε0) )      [#]

また,これを逆に n,κ について解けば,

n2
ε1 ε12+ε22
2
κ2
1 ε12+ε22
2

なる関係が確かめられます。 (最後の符号の選択は,σ→0 で,n→ε1=εr となるように定めてます。)

[6] 先ほどの k* を平面波 [**] に代入すると,      (↓ 2π/λ=ω/c0

E(z,t )=E 0 exp [ i (k*z− ωt ) ]   
           =E 0 exp [ i ((n*ω/c0)z− ωt ) ]   
           =E 0 exp [ i {((ni κ)ω/c0)z− ωt } ]   

すなわち,n と κ で表した[*] の解 [電磁波の電場成分] は,

E ( z,t ) =E 0 exp
−κωz
c0
 ・exp i ω n z − t          ・・・・・  [***]
c0
      振幅の減衰       周期変動

と表示されることになります。ここで,κは正の実数であり,したがって,[***]の実である一つ目の指数項は電場の振幅E 0 の減衰を意味します。また,虚の指数部は速度 c0/n で進む波を表しています。つまり,

電子伝導性のある物質中を進む光は,速度c0/n で進みながら指数関数的に減衰する波

であることがわかります。

[5] 磁場H の解は EH としただけで上と同じです。

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まとめ

媒体 E ( z,t ) ε*r=ε1iε2   
真空
E 0 exp i ω z − t
c0
ε1 =1,    ε2=0
誘電体
E 0 exp i ω n z − t
c0
ε1 =εr,  ε2=0
電導体
E 0 exp
−κωz
c0
 ・exp i ω n z − t
c0
ε1 =εr,  ε2 σ
ωε0