4 多項式環
f-denshi.com  最終更新日: 21/07/31
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 いよいよ「(有限)体上の代数方程式を解く」ことに直接切り込んでいきます。代数方程式を解くということは多項式が 0 に等しくなるような根 (元,不定元)の値を求めることです。まず,多項式とその因数分解について定式化します。 

1.多項式環

[1] 1変数多項式の定義から出発です。 ←”1変数”という言葉はクドイので以後省略。内容的には簡単なことなのですが,これまでの ”代数用語” できちんと表現しておきましょう。

定義

(1) [多項式] 

 可換環 R 上の多項式 r とは,係数と呼ばれる1,r2,・・・rn ∈ R と不定元 x を用いて,

r = r0+r1x+r2x2+・・・+rnxn  ,n ∈ 整数  (= r0+r1・x+r2・x2+・・・+rn・xn )

の形で表せるものを多項式いう。

(2) [多項式環]

 また,2つの多項式,

r = r0+r1x+r2x2+・・・+rnxn 
s = s
0+s1x+s2x2+・・・+smxm (m≧n)

における演算として,

r+s = (r0+s0)+(r1+s1)x+(r2+s2x2+・・・+(rj+sjxj +・・・ (加法)
rs = r0s0+(r0s1r1s0)x+・・・+ (Σ rhsi)xj +・・・+ rnsmxn+m (乗法)
  h+i=j    

と定義すれば,(高校生までに習った多項式の普通の計算規則です↑) これらの演算のもとで環R 上の多項式の集合は環になる。この環を,多項式環 [R,+,x] または,R上のF[x] ( R[X] と書いても構いまわない。) と書く。 

  また,0 でない係数をもつ x の最高ベキを多項式 r の次数 といい,deg (r) と書きます。特に次数 0 の多項式を定数といます。

 * ここでは,より汎用性があるように,係数を可換環として多項式を定義してますが

係数 R を可換環ではなく,整域としてもでも同様に定義できます。そのときは,「 体 F 上の多項式 f 」というような言い方になります。

特に整数を係数にもつ多項式を整式といいます。また,最高次の係数が 1 である(rn=1である)多項式をモニックな多項式といいます。

係数が 可換環 R に 0 以外に零因子をもたない場合は,

命題

可換環 R が整域(体)ならば,R 上の多項式環は整域である。

ことはすぐにわかります。

多項式環 F[x] が整域であるとき,多項式環の分数体 を考えることができます。それを F(x) と書くこととします。

[2] 多項式の整除

任意の整数 s はある整数 t が与えられたとき,s = tq+r ( r<t ) と整数 q,r を用いて一意的に表されます。同じことが多項式においても成り立ちます。

命題

s,t (t≠0) を体 F上の多項式 ( deg s > deg t ) とする。そのとき s は F上の多項式 q,r ( deg r < deg t )を用いて
s = tq+r  

と一意的にかける。q を,r を剰余という。

(証明) 略 

特に r = 0 のとき,t は s を整除する割り切るといい,

t|s

と書きます。逆に整除しないときは,

t | s

と書くことにします。t が s を整除するとき,t は s の因子 s は t の倍元であるといいます。

[3] また,二つの多項式 s1,s2 の両方を整除する多項式のうちで次数が最高の多項式を s1,s2最大公約因子といいます。最大公約因子は定数倍を除けば一意的に定まります。最大公約因子が 1 (定数)であるとき,s1,s2互いに素であるといいます。

最大公約因子については,整数の最大公約数の場合と同様にユークリッドの互除法(Apendix 2)によって求めることができます。整数の場合と同様に次の定理は重要で証明にしばしば利用されます。

定理

s1,s2 を体 F 上の 0 でない多項式で, s1,s2 の最大公約因子とを d とすると,F上の多項式 p,q が存在して
d = ps1+qs2

とできる。

(証明) ユークリッドの互除法(Apendix 2)にを参考にしてください。

[4] 可換環 R 上 ( もしくは体 K 上 ) の多項式がそれより次数の低い二つ以上の多項式の積で表せるとき,それを可約といい,そうでないとき既約(既約多項式)であるといいます。ここで多少注意が必要です。例えば,

x2+4x+3 = (x+3)(x+1)  可約
x2+1                  実数上で既約
x2+1 = (x−i )(x+i )     複素数上で可約

のように数の範囲をどこまで考えるかによって可約か既約かの判定結果は違ってきます。また,方程式は整数が素数の積で表せるように,

f =(既約多項式 1 )×(既約多項式 2 )×・・・×(既約多項式 n)

と表すことができます。すなわち,

命題

体 F上の 0 でない任意の多項式は F 上の既約多項式の積として表すことができる。また,その表し方は定数倍,因子の順序を無視すれば,一意的である。


[5] 整数が素数かどうか判定するのがたいへんな作業であるのと同じように,与えられた整式が既約かどうかの判定も難しい問題です。判定作業の中でしばしば次のEisensteinの判定基準が役立ちます。

既約の判定方法 [アイゼンシュタインの判定基準

Z(整数)上の多項式

r = r0+r1x+r2x2+・・・・+rnxn        ( rj ,n∈整数,x:不定元 )

は次の条件を満たす素数 p が存在するとき,Z 上,及び Q 上で既約である

(1) p | rn   rn は p で割り切れない。
(2) p|rj    rj は p で割り切れる。  ( j=0,1,・・・,n-1 )
(3) p2 | r0  r0 は p2 で割り切れない

上の既約の判定基準はそのままでも使われますが,準同型 Z[x] → Zn[x] [#] を考えて,

多項式の像が Zn 上で既約ならば,もとの多項式は Z 上で既約である。」 

ことと組み合わせて使われます。

しかし,「Zn 上で可約であるから Z 上で可約とはいえない」 ことに注意して下さい。

命題 「 f(x+1)が既約 ⇔ f(x)も既約である。」 もよく利用する。

  fp(x)=xp-1+xp-2+・・・+x+1 は,p が素数のとき Z上で既約である。(Eisensteinの判定基準を使って証明できる。)

では,p=4 以上の偶数の場合は?

 ⇒ fp(-1)=0 から (x+1) を因数に持つことが分かる。よって既約でない。

p=4 の場合  x3+x2+x+1=(x+1)(x2+1)
p=6 の場合  x5+x4+x3+x2+x+1=(x+1)(x4+x2+1)


[6] 後で証明で利用される命題を2つ紹介しておきます。

命題

実数体 R の多項式環 R[x] の部分集合,{ f(x)∈R[x]|f(a)=0 } は素イデアル[#] である。

および,

命題

体 F上の多項式環 F[x] の元 φ(x) が既約多項式ならば,(φ(x)) は F[x] の極大イデアル[#] である。

証明は,体は PDI なので,PDI の既約元に関する定理 [#] を適用するだけで終わりです。



2.代数方程式

[1] 多項式 = 0  とおいた一般的な代数方程式の定義をします。

定義

R を可換環とし,f(x) = r0+r1x+r2x2+・・・・+rnxn を R 上の多項式とする。
f(x) = 0

の形の方程式を R 上の n次方程式 ( R係数をもつ n次方程式 ) という。また,

f(α) = 0

となるような元 α∈K を多項式 f  の K におけるという。

[2] n次方程式の根の数がどれくらいあるのかは次の定理で示されます。

命題 [根の数]

環 R上の多項式の根の個数はその多項式の次数以下である。

(証明)数学的帰納法で証明できる。(略)

 

[3] 具体的に代数方程式の解を求めるための手掛かりとして重要なものは

[因数定理]

f(x)を体 F上の n 次多項式とする。元α∈Fが f の根である必要十分条件は,(x−α) が f(x) を割り切る, 

(1) (x−α)|f(x) 

または,言い換えると,f(x) は (x−α) を因数にもつ, 

(2) f(x)=(x−α)q(x),ただし,q(x)は,(n-1)次多項式

と表せることである。

代数方程式  f(x)を体 F上の多項式とします。元 α∈K が,

(x−α)|f(x) かつ,(x−α)2 | f(x)

のとき,α を f の単根といいます。また,

(x−α)m|f(x) かつ,(x−α)m+1 | f(x)

のとき,α を f  の m重根といいます。

少なくともαを2重根を持つことを確かめるためには,f(x)=0 と f’(x)=0 がαを共通の解としてもつことです。

 F3上の多項式  (mod 3 ですべて計算↓)

f(x) =x3+2x2+2x+1
f’(x) =x+2

について,

f(1)=1+2+2+1=0,
f’(1)=3=0                       

を確認できるので,f(x)は1を重根に持つ。

f(2)=8+8+4+1=0, 
f’(2)=1  

より,f(x) は 2 を単根としてもつ。実際,

f(x)=(x+2)2(x+1)    

と因数分解できます。


[4] F上の代数方程式の解は一般的に F にあるとは限らず,そのより大きな F の拡大体に存在します。したがって,代数方程式の理論は拡大体の理論と見ることもできます。

定義

体 L を体 F の拡大体として,F上の多項式の集合 F[x] の元 f(x) が,あるα∈L について f(α)=0 であるならば,αを F に関して代数的であるという。
また,L のすべての元が F に関して代数的であるとき,L を F の代数拡大体といい,L を F(α)と書く


例えば,有理数体 Q に対して,多項式 x2-2 の代数方程式 x2-2=0 の根である √2 は Q に関して代数的であり,実数の部分集合: R2={ a+b √2|a,b ∈Q }は Q の代数拡大体 Q(√2) となっています。

一方,πは決して,有理数を係数にもつ代数方程式の根とはなりえませんが,このような数は Q に関して超越的といいます。

実数体 R,複素数体 C はどちらも有理数体 Q の超越拡大体です。
また,複素数体 C は実数体 R の代数拡大体 R(√-1)です。

定理

体 F の有限次拡大体 K は,F の代数拡大である。

証明

(1) 拡大次数 [#] を [ K:F ]=n とする。このとき,任意の元α∈K について,

1,α,α2,・・・,αn

をとると,これら n+1 個の元は1次従属なので,すべては 0 でない,c0,c1,・・・,cn ∈F を適当に選んで,

c0+c1α+c2α2+・・・+c1αn=0

とすることができる。

(2) このc0,・・・ を用いて,

f(x)=c0+c1x+c2α2・・・+cnxn

という多項式を作れば,F上の多項式 f(x) はαを根にもつ。

すなわち,任意のα∈K は F に関して代数的であり,K は F の代数拡大である。 (終)


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