| 14 溶液論へ(1)希薄溶液 | ||
| f-denshi.com [目次へ] 更新日: 03/06/05 | ||
「 化学熱力学入門 」 における最後のテーマとなります。2成分2相系の特別な場合として, x1 >> x2,または一つの相においてx2=0 の場合について考察し,”溶液の熱力学” への序(本講義にとっては結びです)としたいと思います。
アルコールと水の混合系は気相でも液相でも任意の組成比をとることができます(もちろん相図には従いますが)。しかし,砂糖と水からなる系を考えると,液相(=砂糖水)には水と砂糖が両方が存在しますが,気相には水(水蒸気)だけが存在し,砂糖は全く存在しない状況があります。また,任意の組成比の水溶液も作ることもできません。このような系のごく基本的な性質について考えて見ましょう。
[1] 最初に希薄溶液の化学ポテンシャルを求めます。ここで化学ポテンシャルとは,静電ポテンシャル気学の例でいうならば,電圧ではなく電位に相当するものです。
溶媒と呼ばれる成分1,n1mol と溶質と呼ばれる成分2,n2 mol から成り立つ溶液を考えます。希薄溶液とは,n1>>n2 である溶液を指して呼ぶことにします。 ( n2/n1=x とおけば,x<<1 と条件をおくことができます。)
さて,内部エネルギーについて成り立つ関係 ,( T,P は状態変数なので,[#] )
U(T,P,n1,n2)=n1U(T,P,1,x) ・・・・・・・ [*]
をxの関数として,x=0 の周りにテーラー展開し,第1項までとれば,
=n1u1+n2u2 ただし,
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ここでの導出では, [*] の両辺を n2 で偏微分して,
∂U(T,P,n1,n2) =n1 ∂n1U(T,P,1,x) ・ ∂x ∂n2 ∂x ∂n2
= ∂U(T,P,1,x) ∂x であることを使ってます。 (n2/n1=x)
[2] 同様に,体積についても
V( T,P,n1,n2 ) = n1v1+n2v2ただし,
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[3] したがって,dU = n1du1+n2du2, dV = n1dv1+n2dv2 に注意すれば,希薄溶液のエントロピーの微分量は,
dS= dU+PdV =n1 ・ du1+Pdv1 +n2 ・ du2+Pdv2 T T T
=n1ds1+n1ds2 (s1 は純粋な物質1の部分モルエントロピーです。s2 はちょっとイミは複雑(^〜^))
と表せます。これを積分して,
S=n1s1+n2s2+C(n1,n2) ・・・・・ (2)
となります。 積分定数:C(n1,n2) は,TやPには無関係です。 注意してほしいのはここまで,対象を混合溶液として議論してきたつもりなのですが,ここまでの式の導出に液体であることを特徴づけたり,話を液体に限定するような要請はありませんでした。実際に臨界点を迂回する右のような経路をたどって,圧力・温度を変化させれば,相転移を経ることなく液体状態は気体状態に連続的に変化します。つまり,今,導いた式(2)は,この系が気体であるときにも成り立つものです。
そこで,(2)式と以前導いた気体の混合気体のエントロピー[#]:
S=n1s10+n2s20−R(n1 log x1+n2log x2) とを比較して,
C(n1,n2)=−R(n1 log x1+n2log x2)
と定めることができます。すなわち,希薄溶液のエントロピーは,
S=n1s1+n2s2−R(n1log x1+n2log x2)
ただし,x1=n1/(n1+n2),x2=n2/(n1+n2) となり,混合気体の場合[#]と同様な形式で表されます。
[4] 以上の結果から,希薄溶液の自由エネルギー ( G = H−TS )は,
希薄溶液の自由エネルギー :
G=n1μ1+n2μ2と,各成分の化学ポテンシャルを用いて書くことが可能です。ここで,希薄溶液成分の化学ポテンシャルは, μ1=μ10(T,P,1,0)+RTlog x1 (溶媒の化学ポテンシャル) |
となります。 以上,原島鮮著,熱力学・統計力学(培風館)改定第8刷(昭和57年),p.132〜 の説明に基づいたウケウリです。実は個人的には,この説明がよく飲み込めていない。
[5] 注意すべきことは,希薄な気体の場合 [#] は各成分の μj0 は純粋物質 j (気体)の化学ポテンシャルでしたが,希薄溶液のμj0は,”純粋物質の化学ポテンシャル”という意味を持つのは溶媒(j=1)に対してだけです。
(注意の追加: 「希薄」という言葉の意味が気体と液体とで違っています。気体の場合,希薄とは全体の圧力 P が低い,全体の密度が低いという意味でふつう使いますが,希薄溶液の場合の希薄とは組成比が極端に偏っているという意味で使っています。)
希薄な混合気体の場合,どんな組成の混合気体についても理想気体としてとり扱うことが可能なのに対して,混合溶液ではどんな組成でもとはいかないのがふつうです。しかし,特殊な組み合わせにおいては,どんな組成においても化学ポテンシャルを上記のように表せる場合があります。このような液体を理想溶液といいます。その場合,
μ20(T,P,1,0)=μ20(T,P,0,1) [=純粋物質2の化学ポテンシャル]
すなわち,溶質の標準化学ポテンシャルは純粋な溶質物質2の化学ポテンシャルを用いることができます。
[6] 2種類の混合溶媒からなる理想溶液の定義をきちんと書いておくと,溶液の体積,内部エネルギーについて,
体積 V=n1v10+n2v20 内部エネルギー U=n1u10+n2u20
がある温度T,圧力P のもとで成り立つとき,理想溶液といいます。ここで,vj0 は純粋な溶媒j の平均モル体積,uj0 は純粋な溶媒j の平均モル内部エネルギーです。このとき,自動的に,
エンタルピー H=n1h10+n2h20 自由エネルギー G=n1(μ10+RTlog x1)+n2(μ20+RTlog x2)
が成り立つことは先ほどの希薄溶液の場合と同様に示せます。ただし,hj0 は純粋な溶媒j の平均モルエンタルピー,μj0 は純粋な溶媒j の平均モル自由エネルギーです。もちろん,μ20=μ20(T0,P,0,1) というのは先ほど述べたとおり。
この理想溶液についてはラウールの法則が重要です。
⇒ [#] 「各成分の蒸気分圧はその溶液中のモル分率に比例する。」
[1] 溶質が液相だけにしか存在できない場合,気液共存状態の条件式は,「溶媒(=成分1)の化学ポテンシャルが両相で等しい」として[#], ( x1 = 1−x2 )
μ10(気)(T,P)=μ10(液)(T,P,1,0)+RTlog ( 1−x2 )
この式は,x2<<1 より, log (1−x2)≒−x2 として,
−x2= μ10(気)(T,P) − μ10(液)(T,P,1,0) RT RT
さらに,右辺を温度 T(=T0+ΔT) の関数 (P=一定) とみて,純粋な溶媒の沸点T0 の周りで展開すると,
−x2= μ10(気)(T0+ΔT,P) − μ10(液)(T0+ΔT,P,1,0) R(T0+ΔT) R(T0+ΔT) ↓0次の項を落とし,ギブス・ヘルムホルツの関係式 [#] を用いて,
≒ μ10(気)(T0,P) + ∂ μ10(気)(T,P) ΔT − μ10(液)(T0,P,1,0) + ∂ μ10(液)(T,P,1,0) ΔT RT0 ∂T RT T=T0 RT0 ∂T RT T=T0
=− h10(気)(T0,P) − h10(液)(T0,P,1,0) ΔT RT02 RT02
=− L1 ・ ΔT RT02
[2] ここで,L1=h10(気)−h10(液) は純溶媒が液体から気体へ変化する際のエンタルピー変化,すなわち気化熱です[#]。 得られた式を ΔT について解き,記号を L1 → Lb と改めれば,
沸点上昇温度
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常に気化熱は,Lb>0 なのでΔTも正の値となります。したがって,ある一定圧力のもとで,
「希薄溶液の沸点は溶質濃度に比例して上昇する。」
ことがいえます。
[3] さて,今度は溶質が液相だけにしか存在しない系の気液共存状態の条件式,
μ10(気)(T,P)=μ10(液)(T,P,1,0)+RTlog (1−x2)
⇔
−x2= μ10(気)(T,P) − μ10(液)(T,P,1,0) RT RT
を P(=P0+ΔP )の関数( T=一定 )とみて,純粋な溶媒の蒸気圧 P0 の周りで展開し,
= μ10(気)(T,P0+ΔP) − μ10(液)(T,P0+ΔP,1,0) RT RT
≒ ∂ μ10(気)(T,P) ΔP− ∂ μ10(液)(T,P,1,0 ) ΔP ∂P RT P=P0 ∂P RT P=P0
↓ 熱力学関数の公式(12)[#]を使って,
= v10(気)(T,P0) − v10(液)(T,P0,1,0) ΔP RT RT
ここで,v10(気)(T,P0),v10(液)(T,P0,1,0)は純溶媒の気相,液相の平均モル体積です。これをΔP について解けば,
蒸気圧の降下
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分母は,純粋な気体と液体 1 mol の温度 T,圧力 P0 における体積の差です。ふつう,液体より気体の方がずっと体積は大きいので,上式の分母は正,つまり,ΔP は負です。したがって,ある温度において,
「溶媒の蒸気圧は溶液中の溶質濃度に比例して降下する。」
ことがわかります。これをファント・ホッフの法則といいます。さらに,v10(液)(T,P0,1,0)=0 と近似すれば,
RT ≒p0 [純溶媒の蒸気圧] v10(気)(T,P0)
したがって,
ΔP ≒−x2p0
を得ます。
[1] 今度は液相と固相の2相共存状態を考えますが,溶質が液相にしか存在できないこととします。希薄溶液の沸点上昇温度を求めたとき[#]と全く同じ考察(←気相を固相に置き換えただけ)によって次式が得られます。
ΔT= RT02 ・ x2 L1’
ただし,L1’=h10(固)−h10(液) は純溶媒が液体から固体へ変化する際のエンタルピー変化(=凝固熱)で,大抵の物質では負の値(発熱変化)をとります。つまり,ΔT<0 であり,凝固点は下がります。これを凝固点降下 といいます。
なお,多くの教科書では,系を昇温させる時の変化の方向を基準にした融解熱,Lm=−L1’ > 0 を用います。すると,
凝固点降下温度
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用語も物質の融点温度の降下と言い直すべきでしょうが,あまりこうは言いません。
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