| 13 ルシャトリエ・ブラウンの法則 | ||
| f-denshi.com [目次へ] 更新日: 03/06/05 | ||
[1] 系を構成する物質(分子)に化学反応が起こるとき,それぞれの成分ごとに質量の増減が生じます。このとき,消滅する化学種の分子数と生成する化学種の分子数との関係は簡単な整数比で表すことができます。これを化学量論比と呼びます。たとえば,水素ガスと酸素ガスとが反応して水蒸気ガスが生成する場合,化学反応式を次のように書きます。
2H2 + O2 →
←2H2O [反応物] [生成物] または, −2H2 − O2 + 2H2O = 0 ← 熱力学での表記法
化学反応が右方向へ進行すれば,系における水素,酸素の質量(分子数)が減少し,水の質量が増加しますが,その増減の絶対値のモル比が 2:1:2 となります。左方向へ進行するときは全く逆の反応と質量の増減が起こます。
このような可逆な系に,ある温度と圧力が与えられると,それに応じて左右両方向への反応がつり合い,系の組成(成分の比)はある一定値に近づき変化しなくなります。この状態を化学平衡状態といいます。これも熱力学平衡状態のひとつです。したがって,このときの系の組成は熱力学的な知見,すなわち,「系のギブス自由エネルギーが最小」という条件に基づいて予測可能です。
[2] 定量的に,このような化学平衡状態を記述するためにいくつか定義をしておきましょう。まず,化学反応式を,
ΣνjXj=0 ←熱力学での表記法に従います。
とあらわすことにすると,化学反応による各成分の増減 (モル数の変化の比) には,
δn1:δn2: ・・・ :δnr=ν1:ν2: ・・・ :νr
(水の生成反応では δn1:δn2:δn3 = -2:-1: 2 )
の関係があります。これらは反応の進行を示すパラメーター δξ を用いて,
δnj=νjδξ (反応進行するとき,δξ>0 としてνj の符号を定める。)
と表すこともできます。すると,化学反応に対応した系の全ギブス自由エネルギーの変化(変分)は[#],
δG=
μjδnj =
{μj0+RTlog xj}δnj
=
νj{μj0+RTlog xj}δξ
となります。したがって,この系が熱平衡にある必要条件,すなわち,小さなどんなδξに対してもδG=0であるとして,
νj{μj0+RTlog xj}=0 ⇔
書き直して−νjμj0 = log xjνj RT
が得られます。
[3] 成分をあらかじめ,j≦kのとき,νj<0,j>kのとき,νj>0となるように並べておけば,以上の結果は次のようにまとめられます。
| 質量作用の法則 [ネルンストの分配の法則] 可逆的な化学反応式が, ΣνjXj=0 と表されるとき, をこの化学反応の平衡定数として定義すると, が熱平衡状態において成り立つ。これを質量作用の法則と呼ぶ。ただし, であって,ΔG0 は化学反応にともなう標準自由エネルギー変化と呼ぶ。 |
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ここで,μj0=μj0(T,P)であることに注意すれば,平衡定数は定数と言いながらも温度,圧力の関数であることを忘れてはいけません。
平衡定数の温度,圧力,および,化学量論係数依存性を調べることで,熱平衡にある系に摂動を加えたときの系の応答が予測できます。
[1] 平衡定数K(T,P)の圧力依存性は,対数をとってから(計算が楽になります。),
log K(T,P)=− 1 νjμj0 RT
圧力に関する偏微分係数は,(理想気体として)
← 公式(12)[#]
∂log K =− 1 νj ∂μj0 ∂P T RT ∂P T
← Pvj0 =RT, vj0 = V/nj
=− 1 νj・vj0 RT
= −P-1 νj [K-P曲線の傾き]
ここで,右辺のΣνj は反応が右へ進行したときの系全体の粒子数の増加量(プラス)のモル数を意味します。この符号を調べると平衡定数の圧力依存性(K-P曲線の傾きの符号)がわかります。
[2] 水蒸気生成の例では,Σνj= (−2−1+2)<0 なので反応が進むと全粒子数減少,つまり,K-P曲線の傾きは正であり,KはPに対して増加関数です。したがって,
[A] 圧力が増加 ⇒ K(T,P)= [H2O]2 が増加 ⇒ [H2]2[O2]
[H2O]2が増加し,[H2]2[O2]が減少する方向 ⇒ 全粒子数減少 ⇒ 圧力減少
[B] 圧力が減少 ⇒ K(T,P)= [H2O]2 が減少 ⇒ [H2]2[O2]
[H2]2[O2]が増加し,[H2O]2が減少する方向 ⇒ 全粒子数増加 ⇒ 圧力増加
すなわち,[A],[B]どちらの場合も,「圧力の変動の効果を打ち消す方向に平衡状態が移動する。」ということができます。
[3] もし,Σνj>0 [K-P曲線の傾きが負]の例であれば,上で考察した変化の方向はすべて逆になりますが,圧力の変動効果を打ち消すように平衡状態が移動することに変わりはありません。
[4] 次に平衡定数K(T,P)の温度依存性を調べてみましょう。
∂log K =− 1 νj ∂(μj0/T) ∂T P R ∂T P
↓ μj0=hj0−Tsj0 , ∂(μj0/T) =−hj0/T2 なので,公式(19)[#] ∂T P
= 1 νj・hj0 RT2
= ΔH0 RT2
ここで,
ΔH0 = νj・hj0
を 反応の標準エンタルピー変化といいます。
(これは,dξ= 1 だけ反応が進行したエンタルピー変化を意味しています。)
さて,ΔH0 がマイナス(系が受け取った熱量が負),つまり,その反応が発熱反応である場合を考えてみると,今導いた式から,K-T曲線の傾きは負です。このときの温度変化に対する系の応答は,
温度が増加 ⇒ Kが減少 ⇒ 生成物減少 ⇒ 発熱量減少
温度が減少 ⇒ Kが増加 ⇒ 生成物増加 ⇒ 発熱量増加
すなわち, 「温度の変動の効果を打ち消す方向に平衡状態が移動する。」 ことがわかります。
吸熱反応の場合も同様の結論を得ます。 以上の圧力,温度両方に関する結果をまとめると,
| ルシャトリエ-ブラウンの原理 化学平衡状態にある系の条件,すなわち,温度,圧力,(組成)を変えるとそれを打ち消す方向に化学反応が進行する。 |
ということができます。これをルシャトリエ・ブラウンの原理といいます。もちろん,その方向に化学反応がずっと続くわけではなく,新しい化学平衡状態に実質的に到達する様子が観察されると言った方がより正確でしょう。
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以下メモ書き
普通,ΔG0 は25℃,1atm の値を使います。 (つまり,μj0 に25℃,1atm の値を使うということ。)
例題: これらの結果を水蒸気の生成反応に当てはめると,
x1=[H2], x2=[O2], x3=[H2O]
と書けば,
K(T,P)= [H2O]2 ← [生成物質] [H2]2[O2] [反応物質]
2H2 + O2 ⇒ 2H2O : ΔG0= ( ΔH=57.8kcal )
具体的な計算 ・・・・