| 3 熱力学第1法則と比熱 | ||
| f-denshi.com [目次へ] 更新日: 03/05/27 | ||
[1] 仕事も熱量も本質的には同じ物理量であり,前回説明した内部エネルギー という概念を介して統合できることを述べているのが熱力学第一法則です。
熱力学第一法則 (エネルギー保存則)
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右辺の d'という記号は一般的に仕事,熱量 [kJ] が状態量[#]ではないため用いられます。これはまた,
熱: 内部エネルギーの変化をもたらす仕事以外のエネルギー形態
という厳密な熱の定義の拠り所となります。この法則を示すためだけならば,あえて微分形で書く必要はなく,ΔU=W+Qと書いても構わないでしょう。そうすれば左辺が状態量,右辺が過程の量であることからくる微分記号dとd'の使い分けに気を使う必要もありません。ただし,後々議論の中で,熱力学状態の変化に沿った経路上でこれらを積算する必要があるので,最初からこの法則を微分形で示しておく方が便利です。
この熱力学第一法則は,古典力学のエネルギー保存則を普遍化したエネルギー保存則と見ることができます。ニュートンの古典力学をマクロな物体に適用するときは,全く変形することのない剛体球の存在を仮定して,エネルギー保存則を確認しなければなりませんでした。しかし,現実の世界にはそのような物体は存在せず,弾性体であれば必ず変形にともなって熱を発生します。熱力学第一法則は,単に多数の粒子からなる集団に適用されるというだけでなく,あらゆる現象に適用可能なようにエネルギー保存則を定式化して述べたものと捉えるべきでしょう。
[2] さて,話を先に進めてゆく前にこれから繰り返し出てくる次の3つの用語についてコメントしておきましょう。私たちは実験を行うとき,状況を単純化したいがために特定の物理量を一定にすることがあります。熱力学においてその条件としてよく使われるのが次の3つです。
A.等積変化 ( isometric change) : 体積が一定のもとでの熱力学状態の変化。
B.断熱変化 ( adiabatic change) : 外界との熱量の受け渡しがないもとでの熱力学状態の変化。
C.定圧変化 ( isobaric change) : 圧力が一定のもとでの熱力学状態の変化。
( isometric の他に isovolumetric も使います。)
A.は多くの場合で系と外界とで仕事のやり取りがない( d'W=0 )ということと同義語となります。このとき,
dU=d'Q
と熱力学第一法則は書き換えられます。もちろん,系に加えられる仕事は体積変化による仕事に限らないので,そのような仕事が関与する場合はd'Wを落とすことはできません。
B.の下での変化においては文字どおり,d'Q=0 なので,
dU=d'W
C.の下での状態変化においては,d'Q はエンタルピー ( enthalpy ) と呼ばれる量の全微分量 dH と等しくなります。
d'Q=dH
エンタルピーに関してはこのすぐ後, じっくりと議論します。
[3] もう一つ,熱力学においてしばしば,”枕言葉” として使用される重要な語句を説明しておきましょう。それは,
準静的過程 ( quasi-static process )
です。過程とは,「状態変化」と同義語ですが,状態よりもそのプロセスに関心があるときに使うようです。準静的過程とはいろいろな状態変化のうちで,
(1) 熱平衡状態の記述が変化に際して逐次適用できる(正しく成り立つ)こと(連続性)
(2) 可逆的(逆向きに変化する)であること
の条件を満たす過程です。具体的には,
準静的仕事
実質的には,仕事を微分 ” PdV ” で表すための概念 でゆっくりとピストンを動かすことに相当します
。
実験的な条件: * ピストンゆっくり。
* 圧力分布や対流が生じないように。
右図のように気体の密度にムラができる(←このとき熱平衡状態が破れる)ようではダメ,このときピストンに加わる圧力を遂次,測定できたとしても状態方程式 (PV=nRT) の適用がナンセンスなことは明白!
準静的温度変化
熱量の移動を微分量 dQ とみなせる。 ←d に'がないことに注意!
実験的な条件: *熱浴と系との温度差を小さく
*温度分布を生じないように
[4] 仕事として準静的仕事だけを考えるときに適用される熱力学第一法則は,
dU = d'W+d'Q = −PdV+d'Q
という方程式で表わされます。熱も準静的な出入りだけを考えるのであれば,すべての変数を微分量で表した熱力学第一法則を書き下ろすことができますが,それはエントロピーの説明の後となります⇒[#]。
[1] 系の温度を1K上げるのに必要な熱量をその系の熱容量(heat capacity)といいます。実際に実験を行えばすぐに直面するように,この物理量は系の分量を指定しておかないと,他と実験結果との比較ができません。そこで,モル数当たり,単位重量当たり[J/gK],単位体積当たりなどさまざまな単位量当たりに換算して示されます。そのような場合,比熱容量とか比熱(specific heat)と呼ばれ,相当する単位,(モル比熱,重量比熱,容積比熱,・・・)を用います。(とはいってもモル比熱を求めるからといってちょうど1モルの試料を使って実験するわけではありません。微小試料で熱容量を計測したあと,電卓をたたくことになります。) また,この値は系に熱を与えるときの条件次第で変わってきますので,その条件を併記することも必須です。実験室でしばしば行われる重要な実験条件として,等積変化と定圧変化があります。この2つの下で考えましょう。
まず,純粋な均一系の熱力学的自由度は2なので,内部エネルギーU は,変数 T と V の関数として,
U = U( T,V ) ⇒ dU = ∂U dT+ ∂U dV ∂T V ∂V T
と書いてみましょう。ここで,各偏微分係数の右下の添え字V,およびTは,各変数について偏微分を行う際,定数として扱われる他の変数を明示するためにつけられています。熱力学でよく使われる記法です。
このとき等積変化 dV=0 であるならば,熱力学第一法則[#]は,d'Q=dU と書けるので,熱容量は,
Cv≡ d'Q = dU = ∂U [等積比熱] dT V=一定 dT V=一定 ∂T V
となります。これを等積比熱 (isometric specific
heat )といいます。
(ここでは系の分量がいくらであるかをあえて指定をせず表記しています。この式のまま必要に応じて1kg当たりの内部エネルギーU
[kJ],比熱Cv [J/gK]というように読み替えればOKです。それからこの定義式やこの周辺の議論は断りのない限り,(1モルの)理想気体に限定する必要はなく,適当量の実在気体を念頭に読んでも構いません。この定義は実在液体や固体に適用することもできます。単に固体の比熱というときは後に述べる定圧比熱をさすことが多い。)
[2] 一方,圧力一定のもとで比熱の測定を行うときは定圧比熱と呼ばれます。加熱によって熱力学状態がAから B に変化する際,系になされた仕事が体積変化のみに由来するならば,熱力学第一法則は,
dU = d'Q−PdV
↓↑
UB−UA=d'Q−P( VB−VA ) ← U やV ,P は状態量です。
↓↑
d'Q={ UB+PVB }−{ UA+PVA }
と書くことができます。ここで,UA ,UBは系の状態 A,および B における内部エネルギー,また,VA ,VB は系の状態 A,および B における体積であって,最後の式の右辺の変数はすべて状態量であることに注意してください。つまり,d'Q は今の場合,AとBにおける状態量の差となっています。そこで,この状態量を エンタルピーと呼び,
H ≡ U+PV ( ⇒ dH = dU + PdV + VdP ) ・・・・・ [*]
と定義します。すると,定圧条件下ではd'Q は全微分であり,
d'Q = HB−HA = dH ←状態量 (定圧変化)
と書くことができます。 (このようにエンタルピーH は定圧条件下での熱力学的な変数の取り扱いの利便性を考慮して定義したものですが,一度 [*] のように定義してしまえば,定義式どおりの関数として他の場面で使われてゆくことになります。)
[3] これより,定圧比熱は,
Cp = d'Q = ∂H [定圧比熱] dT P=一定 ∂T P
(↓ [*] 式でdP=0 なので)
Cp = dH = ∂U +P ∂V ・・・・・・ (1) dT P ∂T P ∂T P
と表すことができます。
(参考: 比熱はエントロピーを用いてあらわすこともあります ⇒ [#] )
[4] 最後に Cp と Cv [#] との間に成立する重要な関係式を導いておきましょう。Cp と Cv とは,実験条件が異なるだけで気体(物質)の温度を1K上げるために必要な熱量には変わりありません。したがってどちらか一方がわかればもう片方も求まりそうな気がします。しかし,気体固有の性質も関係してくるであろうことも予想できます。まず,内部エネルギー U(T,V) の全微分から
dU= ∂U dT+ ∂U dV ∂T V ∂V T
=Cv dT+ ∂U dV ・・・・・・ [**] ∂V T
圧力 P 一定のもとで,dT で除して,
∂U = Cv + ∂U ∂V ・・・・・ (2) ∂T P ∂V T ∂T P
(1),(2)を辺々たし合わせると,
Cp と Cv の関係式: 理想気体の場合はこちら ⇒[#]
|
ここで,右側の等式を導くために熱膨張率β[#]
βV= ∂V ∂T P
を用いました。すると,熱力学第一法則 ( d'Q=dU+PdV )に,[**]を代入し,(3)を用いると,
d'Q = CvdT + ∂U dV + PdV ∂V T
d'Q = CvdT + Cp−Cv dV [熱力学第一法則 ] βV
と実測可能な量 Cp,Cv,β,V 用いて熱量を表すことができます。
[5] なお,この式で断熱条件 d'Q=0 ,つまり,左辺を0とした式を断熱関係式といいます。
dT =− γ−1 dV ; ただし,γ= Cp/Cv [断熱関係式 ] βV
この式から系の準正的断熱変化における体積の温度依存性を求めることができます。
特に理想気体では,β=1/T でした[#]。したがって,
dT =−(γ−1) dV T V
積分して,
(γ−1) log V+log T = (定数)
⇔
log(TVγ-1) = 定数
よって,TVγ-1=定数,および, PVγ=定数' が得られます。これらは断熱曲線と呼ばれます。
| 理想気体の断熱曲線 TVγ-1 = 定数 PVγ = 定数 ただし, γ=Cp/Cv |
これらは後ほどカルノーサイクルの説明に用います。
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メモ書き
d'Q = dH − VdP
まだ,エントロピーの話は出てこないが,
| κT = − | 1 | ∂V | 等温圧縮率 | |||
| V | ∂P | T |
| κS = − | 1 | ∂V | 断熱圧縮率 | |||
| V | ∂P | S |
κT ≧κS>0
| Cp | = | κT |
| Cv | κS |
熱力学と統計力学の関係
「統計力学は新しい学問であり,熱力学は古い学問。だから統計力学を勉強すれば,熱力学は不要である。」と主張する人にときどき出会います。(20世紀の公理主義の影響かな。)その根拠の一つとして,このページで議論した比熱が原理的に導出できるか否かという事実をあげてきます。しかし,私はそのようなことを根拠にした主張ならば,それは絶対に違うと答えます。不用意に比喩を使うのは好きではないのですが,その理由を代数学の例から一つ示しておきます。
代数学の基本定理というのがあります。
定理:
複素数を係数とするn次方程式(n≧1),r0+r1x+r2x2+・・・・+rnxn = 0は複素数の中に1つ解をもつ。
つまり,実数を係数とする代数方程式(たとえば,x2=−1)は実数の中に解を見出せないことがあるのですが,複素数の中で考えるならば,代数方程式には1つ,解が必ず存在するということを主張しています。(もちろん,この定理からすぐにn次代数方程式はn個の複素数解を持つことまでも帰結されます。) つまり,複素数は究極の数であって,代数学の立場からは,自然数から数を順に拡張していって辿り着いた究極の数が複素数であり,これ以上数を拡張する必然性はないことをも意味しています。
「数学100の発見」(日本評論社)にも選ばれているたいへん美しい定理です。ベスト10を選んでもその中に入るに違いないような定理です。しかし,この定理は具体的にその解がどのようなものか教えてはくれません。具体的に求めようとするならば,コンピュータを用いた数値解析に頼るしかありません。もう,私の言いたいことは推測できますね。あることをその学門体系の中で解決できるかできないかで,学問体系の優劣や包含関係を議論することに意味があるとは思えないのです.....。
人それぞれ,いろいろな意見(美学?)があることとは思いますが,「熱力学を知らないと統計力学はちゃんと理解できない。」というのは確実です。熱力学を知らないと,統計力学の教科書にある,
「ここで,熱力学の結果を思い出してほしい。・・・・。したがって,今,我々が導出した・・・は熱力学によるところの・・・に等しいことがわかった。」
というようなの記述を意味不明のものとして読み飛ばすことになります。でもそれだと,統計力学は理解できない。たぶん。絶対かな?
ほんとうは知ってるんだけど,熱力学を知らないことにして,統計力学の理論体系を作っていくことはできるんだろうけど。
追伸:
熱力学と統計力学を分かつ業績を残したボルツマンは,良く知られているように原子が実在すること(その証拠)を知らないままこの世を去った。つまり,実証主義者(=科学的な態度の持ち主,ワタシのことさー)からすれば,ボルツマンの仕事は空論に過ぎず,ボルツマンもこれに悩んだ。しかし,歴史はその後,ボルツマンの仕事が科学史上,第1級の発見であることを認めることになる。
ということは,科学は正論ばかり言っとってもダメだっちゅうことか?