| 5 距離空間の定義 | |
| f-denshi.com 最終更新日:04/11/1 | |
ルベーグの偉業は,”長さ” の概念の変革ということができます。もちろん,これだけでも価値のあることですが,ルベーグ積分が20世紀の数学の中心に位置づけられた理由は,この概念の適用範囲がユークリッド空間の ”長さ” にとどまらず,これから述べる距離空間と呼ばれる集合の抽象化された長さ=”距離” に適用可能だったからです。抽象とはいっても,工学的な応用において重要なフーリエ変換や量子力学の基礎理論であるヒルベルト空間論の屋台骨となっているので,数学者だけなく,物理学者やエンジニア等多くの人々の関心惹きつけていきました。「The講義」においてもルベーグ積分をディリクレ関数の積分で終わらせてはもったいないので,距離空間について話を進めていくことにします。
[1] ユークリッド幾何学において,”2点の間に1本だけひくことができる線分の長さ” のもつ性質から次のようなエッセンスを抽出した(2点から”線分”への)写像を距離と呼び,集合の任意の2つの点(元)に対して距離が定義可能な集合を距離空間(metric space,distance space)と呼びます。もちろん,普通のユークリッド空間は距離空間のもっとも典型的な例です。
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距離空間の定義: 集合 X の任意の2つの元 x,y から実数 d への写像 d(x,y) : d(x,y): x,y → d が与えられて, (1) d(x,y)≧0 を満たすとき,d(x,y)を距離,集合 X を距離空間 (X,d)という。 |
ここで,(3)はユークリッド幾何学における「三角形の2辺の長さの和は他の1辺の長さより長い」ということに基づいていることは言うまでもありません。距離空間は単に ” 距離空間 X ” と書かれることもあります。
[2] 3次元ユークリッド空間はもちろん,距離空間であって,
集合 X ⇒ R3={p | p =(p1,p2,p3); p1,p2,p3∈R }
の任意の2つの元 x =(x1,x2,x3),y =(y1,y2,y3)について写像,
距離 d≡d(x,y)= |x1−y1|2+|x2−y2|2+|x3−y3|2
を導入したものです。他にどのような写像がユークリッド空間(=実数の直積集合),ユニタリ空間(=複素数の直積集合)に導入可能な距離となり得るか,例を挙げておくと次のようになります。
| 距離空間 X |
距離 d の定義 |
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(1) n次元ユークリッド空間 |
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| (2) (Rn,dp) |
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| (3) (x1,・・,xk,・・)∈R∞ (R∞,d) |
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| (4) n次元ユニタリ空間 (Cn,d2) |
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* 念のために注意しておくと,ただ,距離空間 というときには集合の元の間にいわゆる内積が定義されている必要はありません。
[3] 距離空間を作りだせる集合として,ユークリッド空間,ユニタリ空間以外にどのようなものがあるかといえば,事実上,” 関数の集合 ”が重要な例となります。その場合に距離として導入される写像とは,2つの関数に対して1つの実数が対応するような関数を定義域とする写像,すなわち汎関数 [#] です。具体的な例を挙げておくと次のようになります。
| 距離空間 X |
距離 d の定義 |
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| (5) 閉区間[a,b]上の連続関数:C[a,b] (C[a,b],d(f,g)) |
d(f,g)=Max|f(x)−g(x)| ; a≦x≦b | ||||
| (6) 閉区間[a,b]上の連続関数:C[a,b] (C~[a,b],d1(f,g)) |
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関数の集合に距離を導入することを,「位相を入れる」というような言い方をします。(5)で定義される距離は「一様収束」なるものを考えるときに使いましたね。覚えてますか⇒[#]
[1] ユークリッド空間上で展開される初等解析学で学んだ距離,すなわち,(1)の距離d2 が関係したいくつかの定義は,
距離 d2 → d (=ここで定義された距離)
とすることで,一般的な距離空間 (X,d) における定義として用いることができます。 いくつか例を挙げておきます。
距離空間 (X,d) が与えられ,その部分集合を S,O,F とするとき,
| 用語 | 記号 | 定義 | ||||
| ε-近傍 | Vε(x) |
x∈X と正数εに対して, { y | d(x,y)<ε } |
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| 内点 | x | x∈Sで,十分小さなεを選べば,Vε(x)⊂S である。 | ||||
| 集積点 | a | S から適当な相異なる無限点列 { x1,x2,・・・,xn,・・・ } を取り出したとき, これが n→∞ で近づく点 a ( つまり,n→∞ で d(xn,a)→0 となる点 a。) |
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| 閉包 |
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S と S のすべての集積点との和集合。 | ||||
| 開集合 | O | 任意の点 x∈O について十分小さなεを選べば,Vε(x)⊂O である。 (=内点だけからなる集合) |
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| 閉集合 | F | F の任意の集積点が必ず F に属する。 |
これらの用語はユークリッド空間に対して使われる場合[#]を理解していればとりあえず,問題ありません。
[2] 集積点 a は S に含まれていることも S に含まれないこともあるのはユークリッド空間の場合と同様です。閉包,閉集合に関しては,次の定理が重要です。
| 定理: S の閉包 [S] は S を含む最小の閉集合である。 |
[3] 次にコンパクトという用語ですが,ユークリッド空間上の初等解析学では有界な閉集合という意味でしかありませんでしたが,距離空間においては,コンパクトの次のような定義をそのまま意味をもつので,そのまま解釈する必要があります。
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定義: |
ここで, ”意味を持つ” と述べたのは,初等解析学とは違って,「有界な閉集合」の単なる言い換えではないということです。
正確に言うと,次に述べる集合は,ヒルベルト空間 (←後で,正確な定義を述べます⇒[#])と呼ばれるものですが,ここでは無限次元のユニタリ空間 [#] くらいに考えて読んでください。
有界な閉集合でもあっても,コンパクトではない集合としては,
C∞={z =(z1,z2,・・・) | zk∈C }
の部分空間である単位球面:
SH ={z | |z |=1} ( ← 半径=1 )
の集合を挙げることができます。ここで,SH 上の元,z,w との距離は,ユニタリ空間の場合の自然な拡張として,
d(z,w)= |z1−w1|2+|z2−w2|2+ ・・・
で定義されます。 すると,
(1) 任意の z,w ∈SH について, d(z,w)≦2 (←直径) ,つまり,SH は有界。
一方,SH に含まれる C∞ の基底 {ej,・・・・| (ej,ek)=δjk } の中から異なるものを取り出してつくった無限列は,
||ej−ek||= 2 ; j ≠ k
であることから,決して収束しません。(収束するならば,||ej−ek||→0 (コーシー列)でないとだめなので) つまり,この無限列は集積点をもちません。すなわち,
(2) SH はコンパクトではない。
といことになります。このような事態に陥った原因は,もちろんベクトルを無限次元としたからです。無限とはやはりいろいろと厄介者なんです。
とりあえず,ここでは,コンパクト=有界閉集合ではない ということだけは覚えておきましょう。
コンパクトという概念はそれ自身が重要と言うよりは,次章で述べる ”完備” という概念の代わりに使われることが多いようです。多変数関数において,何回でも全微分可能な関数の代わりにCn級の関数が使われるように。