Appendix 5 位相空間1 可算公理 | |
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位相空間の概要をまとめておきます。
[1] まず,距離空間(ユークリッド空間を含む)における開集合・閉集合は以下の性質を満す[#]ことを思い出しましょう。
開集合と閉集合の性質 (X,d)の開集合,O1,O2,O3,・・・,空集合φ,X自身について次の集合はいずれも Xの開集合である。 (O1) X,および,φ (X,d)の閉集合,F1,F2,F3,・・・,空集合φ,X自身について次の集合はいずれも Xの閉集合である。 (F1) X,および,φ |
そこで,距離空間の開集合の性質を抽出して,位相空間を次のように定義します。
定義 位相と位相空間 Xの部分集合族U [#] が次の条件(開集合系の公理と呼ばれる)をみたすとき,U を位相(または開集合系)とよび,U の要素 Uk を開集合と呼ぶ。 (O1) X,φ∈U また,位相U が定められた集合X を位相空間とよび,(X,U ) と表記する。(単に位相空間 X と表記することも多い。) |
言うまでもありませんが,距離空間(X,d)の開集合系O (d) [#] は上の条件を満たしており,
距離空間 ⇒ 位相空間
が成り立ちます。位相空間は距離空間を含んだ概念です。
特に,
(1) 最小の位相は {φ,X} 密着位相 ←最も弱い (粗い)
(2) 最大の位相は β(X) 離散位相 ←最も強い(細かい)
は必ずXの位相となることはすぐにわかります。ここで,β(X) は X のべき集合です。
(1)は密着位相と呼ばれ,最も開集合の数を少なく含む,弱い (粗い) 位相です。(2)は離散位相と呼ばれ,最も開集合の数を多く含む最も強い(細かい)位相です。
[2] また,(O2)における”任意濃度”とは,有限濃度,可算濃度,連続体濃度でも構わないということです。
例えば,距離空間である実数直線 R の自然な位相,すなわち,任意の p∈R との距離が r 以下である点の全体集合で与えられる開区間からなる集合族,すなわち,
OR = { (p−r,p+r)|p,r∈R }
は連続体濃度をもつ位相です。なお,後ほど詳しく説明しますが,このOR の定義で,p,r を有理数としても,それらの開区間から実数の通常の位相を生成する(与える)こともできます。例えば,無理数πが開区間の上限であっても,開集合系の公理(02)から,
(0,π)=(0,3) ∪ (0,3.1) ∪ (0,3.14) U ・・・
と有理数を上限とする開区間の可算個の和集合として表すことができますね。
[3] では,通常の実数の位相に対して,半開区間 ( ] も開集合と認めて加えたらどうなるでしょうか。答えは,それでもきちんと位相空間にはなるのです。この位相空間はゾルゲンフライ直線 (R,Os) と呼ばれています。きちんと定義を書いておきましょう。
定義 ゾルゲンフライ直線 (R,Os) は,実数の集合 R の半開区間全体, B={ (a,b] ⊂R|p,a∈R,a<b } から生成される集合族を位相Os として持つ位相空間をいう。(=半開区間全体B を開基 [#] にもつ実数上の位相空間) |
ここで,”生成される”集合族とは,B を含み,開集合系の公理を満たす最も小さな集合族のことをいいます。具体的には,実数の任意の (a,b) の形の開集合が半開区間で,
(a,b)=
a+b− b ,b− b n n+1
のように表される [#] ことを思い出せば,ゾルゲンフライ直線の位相Os には,通常のユークリッド直線の位相OR も含んでいることが分かります。
この位相空間は,これ以後も位相空間論の用語や概念を説明するために度々引用せてもらいます
[4] もうひとつ,要素の数が有限である X={a,b,c} について例を上げておきます。まず,X のべき集合 β(X) ですが,その要素を書き出すと,
φ,{a},{b},{c},{b,c},{c,a},{a,b},{a,b,c}
の8個あります。これらすべてを要素として含む含む集合族 U =O1 は,
O 1:{φ,{a},{b},{c},{b,c},{c,a},{a,b},{a,b,c}} [離散位相]
は X={a,b,c} の離散位相であり,X に与えられる位相の中で最も強い位相です。
逆に,空集合とX全体集合だけからなる,
O 9:{φ,{a,b,c}} [密着位相]
は最も弱い密着位相となります。
その中間にある位相は離散位相の要素からφと {a,b,c} を除いた6の要素を含むか含まないか 26=64個の組み合わせについて,開集合系の公理を満足するかどうかシラミ潰しに調べいけばいいのですが,次のとおり8タイプ,27個が適当であることが分かります。
O 2:{φ,{a},{b},{a,b},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{a},{b},{a,b},{a,c},{a,b,c}}
{φ,{b},[c},{a,b},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{b},[c},{a,c},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{a},[c},{a,c},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{a},[c},{a,b},{a,c},{a,b,c}}
O 3:{φ,{a},{b},{a,b},{a,b,c}}
{φ,{b},{c},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{a},[c},{a,c},{a,b,c}}
O 4:{φ,{a},{a,b},{a,c},{a,b,c}}
{φ,{b},{a,b},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{c},{a,c},{b,c},{a,b,c}}
O 5:{φ,{a},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{b},{a,c},{a,b,c}}
{φ,{c},{a,b},{a,b,c}}
O 6:{φ,{a},{a,b},{a,b,c}}
{φ,{a},{a,c},{a,b,c}}
{φ,{b},{a,b},{a,b,c}}
{φ,{b},{b,c},{a,b,c}}
{φ,{c},{a,c},{a,b,c}}
{φ,{c},{b,c},{a,b,c}}
O 7:{φ,{a},{a,b,c}}
{φ,{b},{a,b,c}}
{φ,{c},{a,b,c}}
O 8:{φ,{a,b},{a,b,c}}
{φ,{b,c},{a,b,c}}
{φ,{a,c},{a,b,c}}
[5] 上の一覧を信用して以下の説明を飛ばしてもOKですが,O 5 の一番上の集合族{φ,{a},{b,c},{a,b,c}}≡O51 について,開集合系の公理を満たしているか念のためチェックしてみましょう。
(O1)については,φと X= {a,b,c} が確かに含まれています
(O2)については,
φ∪{a}={a} ∈O51
φ∪{b,c}={b,c} ∈O 51
φ∪{a,b,c}={a,b,c} ∈O 51
{a}∪{b,c}={a,b,c} ∈O 51
{a}∪{a,b,c}={a,b,c} ∈O 51
{bc}∪{a,b,c}={a,b,c} ∈O 51
(O3)については,
φ∩{a}=φ ∈O 51
φ∩{b,c}=φ ∈O 51
φ∩{a,b,c}=φ ∈O 51
{a}∩{b,c}=φ ∈O 51
{a}∩{a,b,c}={a} ∈O 51
{bc}∩{a,b,c}={b,c} ∈O 51
と確認できます。よって,(X,O 51 )は位相空間です。
命題を一つ挙げておきます。
命題 位相空間 (X,U ) と X の部分集合 S が与えられたとき, U |S={S∩U|U∈U } は S のとり得る位相の一つである。(U |S を「U から誘導された S の位相」という。) |
具体的な位相空間 (X,U ) ,ただし,
X={a,b,c,d},
U ={φ,{d},{a,d},{a,b,d},{a,c,d},{a,b,c,d} }
を例に説明します。X の部分集合として,
S={a,b,c}
が与えられたとき,S∩U (U∈U ) を調べるみると,
U ={φ,{d},{a,d},{a,b,d},{a,c,d},{a,b,c,d} }
↓ S∩U ∈U ← 各集合から要素 d を除けばよい
U |S={φ, {a}, {a,b}, {a,c}, {a,b,c} }
であることが分かります。ここで,命題の意味することは,(S,U |S) は位相空間であるということです。
(S,U |S) が位相空間の条件(O1),(O2),(O3)を満たしていることはすぐに確認できます。(位相空間({a,b,c},O 4)と等しい。)
このように,要素(=集合)の一部を抜き出して得られた位相空間を部分空間(または部分位相空間)と言います。より一般的には,表現を少し変えて次のように定義します。
定義 部分空間,相対位相 位相空間 (S,U S) が位相空間 (X,U X) の部分空間であるとは,S ⊆ Xを満たすことである。U Sを相対位相という。 |
ここで,注意すべきは,先の命題の説明で用いた,位相 U |S との違いは,S∩U を満足する集合のすべてではなく,U S の元はS∩U を満たしていれば,それでよいということです。
たとえば,
U S={φ,{a},{a,b,c} } ( ⊂ O |S={φ,{a}, {a,b}, {a,c}, {a,b,c} })
をもつ位相空間 (S,U S) もこの定義に従って, (X,U )の部分空間です。つまり,
U S ⊆ U |S ⊆U
の関係が成り立っていて,どれも位相空間を作り出すことが可能な集合族です。
[1] 距離空間と同様に,位相空間上にも連続写像を定義することができます。ただし,位相空間には距離という概念がないため”長さ”の比較のようなことはできません。その代わり距離空間の連続写像において成り立つ開集合の包含関係の性質を利用します。その準備として,次の用語を準備します。
定義 近傍系 (1) 位相空間 (X,U ) の点 p を含む開集合を,「X における p の開近傍,または p の近傍」といい,N または N(p) と書く。 |
距離空間では,「ε-近傍」と呼んでいたものに対応します。位相空間では,距離に当たるεは不要となります。位相空間では開集合だけを用いて,2つの点 (要素)の近さを表すのです。
俗な言葉を使って,近傍とは,繋がっている「仲間」といった方がいいかもしれません。p君の仲間は,同窓生の仲間,会社の仲間,地域社会の仲間,家族などいろいろあります。それらはそれぞれ,p君の近傍であり,そのらすべてをセットにしたものがp君の近傍系なのです。
[2] この用語を用いると位相空間における連続関数は次のように定義されます。
定義 連続 (1) 位相空間 (X,U X) から位相空間 (Y,U Y) への写像 f が p ∈X で連続であるとは, (2) 位相空間 (Y,U Y) の任意の開集合 UY ∈U Y の逆像が位相空間 (X,U X) の開集合である, すなわち,f-1(UY)∈U X であるとき, f を連続写像という。 |
(1),(2)どちらでも構いません。これは距離空間の連続写像において要求されるε近傍 Vε(p)の性質 [#] を,位相空間では近傍 N(p) の性質として 要求したものです。
また,連続写像であることは位相空間の閉集合を用いて示すこともできます。
命題 位相空間 X から位相空間 Y への写像 f が連続写像となる必要十分条件は,位相空間
Y の任意の閉集合の逆像が位相空間 X の閉集合となることである。 |
例
X={a,b,c},Y{1,2,3},
U X={φ,{a},{a,b},{a,c},{a,b,c}}
U Y={φ,{1},{1,2,3}}
とする。
位相空間(X,U X)から(Y,U Y)への写像 f を
f(x)= 2 (x=a) 3 (x=b) 1 (x=c)
と定めるとき,Xの,
a点では連続である。
b点では連続である。
c点では連続ではない。
なぜならば,
f(a)=2の近傍N(2)は,{1,2,3} のみであるが,aの近傍N(a)(={a},{a,b},{a,c},{a,b,c})の像はいず{1,2,3}に含まれている。よってa点でfは連続である。
f(b)=3の近傍はやはり{1,2,3} のみであり,a点と同様に考えて,b点で連続であることが分かる。
f(c)=1の近傍は,{1},{1,2,3} 2つであるが,{1}については,cの近傍の像が,f({a,c})={1,2},f({a,b,c})={1,2,3}であるから,いずれも{1}には含まれない。したがって,c点で
f は連続ではない。
↑ もっと良い例はないか?
[3] 連続性と位相の強弱との関係について述べておきます。
同じ集合に対して異なる位相,U ,U ’(U ⊃U ’)を入れた位相空間を(X,U ),(X,U ’)とするとき,
命題
強い位相空間(X,U )から弱い位相空間(X,U ’)への恒等写像 は連続関数となる。 |
例:
実数 R に強い位相として,すべての開区間からなる集合族U と,これより弱い位相として,m,n,m<n を任意の整数とする開区間 (m,n) からなる集合族U ’を考えます。このとき,(R,U )から位相空間(R,U ’)への恒等写像は連続関数となっている。
任意の f(x) を含む N(f(p))∈U ’に対しても,ある x を含む N(p)∈U が存在して,f(N(p))⊆N(f(p)) とできる。
ことは確かめられますが,U とU'’を逆にすると同様な関係は成り立ちません。写像が連続ということは,定義域の位相が値域の位相より強い(細かい)ことを示していると考えることもできます。
[4] 位相空間(X,U X) から単なる集合 Y への写像が存在するとき,Y の部分集合族
U Y={ UY⊂Y|f-1(UY)∈U X }
を考えると,U Y は Y の位相の条件を満たすことは容易に確認できます。このU Y をU X の商位相といい,(Y,U Y )を(X,U X) の商空間といいます。このとき,
命題
位相空間 (X,U X)から 商空間 (Y,U Y )への写像 は連続関数である。 |
ということができます。商位相の定義から,UY が開集合であれば, f-1(UY) が X の開集合となっているからです。
定義 同相写像 |
これは距離空間の場合と同じです。
命題 (1) X の任意の開集合 UX の像 f(UX) は Y の開集合である。 |
[1]
定義 X = U1∪U2 かつ,U1∩U2=φ と和集合に分割されないことである。また,連結でない場合は非連結あるという,X のすべての点で2つの和集合に分割できるときは完全非連結であるという。 (2)位相空間 X の部分集合 S が連結,または連結部分集合であるとは,S と共通部分をもつX の開集合 U1,U2によって, S ⊆ U1∪U2 かつ,U1∩U2∩S=φ と和集合に分割されないことである。連結部分集合が,空集合とXの1点集合のみであるとき,X は完全非連結という。 |
例を上げあげます。
例1 ユークリッド直線 (R,OR) は連結である。
例2 ゾルゲンフライ直線 (R,Os) は非連結である。任意のRの点 p で,R=(−∞,p] ∪ (p,∞) と2つの開集合の和集合で表すことができる。よって,(R,Os) は完全非連結である。
例3 Rの部分集合Qは非連結である。なぜならば,Rの共通部分を持たない2つの開集合(-∞,√2)と(√2,+∞)によってQは2に分解される。同様にRの部分集合である無理数全体の集合(RからQを除いた集合)もRで非連結です。
例43 有限集合 X={a,b,c} に次の位相O kを入れた位相空間 (X,O k) の連結,非連結の判定は以下のとおり。
O 1:{φ,{a},{b},{c},{b,c},{c,a},{a,b},{a,b,c}} F 1:{{a,b,c},{b,c},{c,a},{a,b},{a},{b},{c},φ} |
非連結 ⇒ 開集合{a}と{b,c}などと X を分割できる。 |
O 2:{ φ,{a},{b}, {a,b},{b,c},{a,b,c}} F 2:{{a,b,c},{b,c},{c,a},{c},{a},φ} |
非連結 ⇒ 開集合{a}と{b,c}で Xを分割できる。 |
O 3:{φ,{a},{b},{a,b},{a,b,c}} F 3:{{a,b,c},{b,c},{c,a},{c},φ} |
連結 |
O 4:{φ,{a},{a,b},{a,c},{a,b,c}} F 4:{{a,b,c},{b,c},{c},{b},φ } |
連結 |
O 5:{φ,{a},{b,c},{a,b,c}} |
非連結 ⇒ 開集合{a}と{b,c}で Xを分解できる |
O 6:{φ,{a},{a,b},{a,b,c}} F 6:{{a,b,c},{b,c},{c},φ} |
連結 |
O 7:{φ,{a},{a,b,c}} F 7:{{a,b,c},{b,c},φ} |
連結 |
O 8:{φ,{a,b},{a,b,c}} F 8:{{a,b,c},{c},φ} |
連結 |
O 9:{φ,{a,b,c}} F 9:{{a,b,c},φ} |
連結 |
(↑ 開集合Ok に対応する閉集合の族もFk として併記しています。)
以上のように集合 X が同じであっても位相の違いで連結であったり,非連結であったりします。
[2] また,上の一覧には,Xの開集合の補集合がXの閉集合であることから,O kに対応する補集合族をF 8として示しています。それらを見ると,次のように連結を定義することも可能だとわかります。
[連結の定義の言い換え] 開集合,かつ閉集合である集合がφとXのみであるとき位相空間 (X,O )は連結であるという。 |
たとえば,位相空間 (X,O 2) の場合,
O2:{ φ, {a}, {b}, {a,b},{b,c},{a,b,c}} ← 位相=開集合
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓各要素の補集合は閉集合なので
F 2:{{a,b,c},{b,c},{a,c}, [c}, {a}, φ } ← 各要素は閉集合
これから,φと X={a,b,c} 以外にも {a},と{b,c}が開集合であり閉集合となっているので,
O2は,連結ではない。=非連結と判断されます。
[3] 連結に関するいくつかの定理について紹介します。
すぐにわかることは位相空間 X の部分空間 S1,S2 がそれぞれ連結であって,S1∩S2≠φならば,S1∪S2も連結である。
これを連結な集合Sγを元とする集合族 {Sγ}γ∈Γにまで拡張して,
|
つまり,連結な集合はそれらの空でない共通部分を介して,”つなげる”ことで新しい連結集合を作れるということです。
[4] 必ずしも連結でない位相空間 X の中の一つの点 x1 を含む連結な X の部分空間 Sγ全体の集合を{Sγ}γ∈Γとします。すると,Sγの和集合も連結なXの部分空間になりますが,これを,
C(x1)= Sγ
と書いて,「 x1 の連結成分」と呼ぶことにします。もちろん,「C((x1) は x1 を含む最も大きな連結な空間」です。
もし,X が連結ならば,任意の x∈X について,C(x)=X となります。
そうでないときは,C(x1)に属さない点 x2 が存在して,C(x1)∩C(x2)=φとなります。つまり,X は少なくともお互い連結でない2つの連結成分を含んでいるはじです。
続いて,C(x1),C(x2) のどちらにも属さないx3 があれば,お互い連結でない C(x1),C(x2),C(x3) が X に含まれていることになります。
これを繰り返せば,X がお互い共通点のない連結成分に分解されることになります。
この分解のための繰り返しは有限の場合もありますし,無限回繰り返す必要がある場合もあります。
例えば,距離空間として有理数全体の集合 Q を考えた場合,有理数は連続的に存在していないので各有理数 q に対応する連結成分は q 自身だけからなる1点集合です。つまり,
「Q は可算個の連結成分に分解される」
のです。これを「Qは完全非連結空間」であるともいいます。 ←この言い方のときは空集合φも連結成分に含めます。]
なお,「カントール集合は非可算濃度をもつ完全非連結空間」です。
また,すべての位相空間において,「空集合と1点集合は連結」であり,完全非連結空間の連結な部分集合(連結成分)は,空集合と1点集合のみであることが言えます。
[5] 有理数の話が出てきましたので,位相空間での稠密の定義をここに書いておくと,
定義 位相空間上での稠密の定義 位相空間X の部分集合S が,Xの空でない任意の開集合U に対して, U∩S≠φ であるならば,SはXで稠密であるという。 さらに Sが可算集合であれば,X は可分であるという。 |
実数Rの部分集合Q(有理数)はRの任意の開集合 U = { (a,b) | a,b∈R ,-∞≦a<b≦∞ } に対して,
U∩Q≠φ ← (a,b) には必ず有理数が含まれているということ
なので,Q は R で稠密である,といいます。
例 ゾルゲンフライ直線 (R,Os) で Q は稠密である。よって, (R,Os) は可分である。
[6] 他の基本的な性質として,
命題 (1) 完全非連結空間の部分空間、積空間は完全非連結である。 |
証明略
定理 |
証明略
逆は成り立たちません。A が Y の連結集合であっても f-1(A) が連結とは限りません。
上図は簡単な例です。
続けると,
命題 |
部分空間に関しては,
命題 |
証明略
[7] 弧状連結についてです。
弧状連結 : 距離空間の任意の2点 x,y に対してこれらを始点,終点とする連続曲線があるとき,X は弧状連結であるといいます。「連結」との関係は,
弧状連結 ⇒ 連結 ○
連結 ⇒ 弧状連結 × 連結な空間が弧状連結とは限らない
であることが示されます。連結な空間が弧状連結とは限らない例をあげておくと,次の曲線Aと直線Bの和集合,
A: y=sin(1/x) 0<x≦1 B: -1≦y≦1 x=0
は連結だが弧状連結ではありません。連結であることは,Aの領域では明らかに連結であり,その閉包であるA∪Bはすぐ上の命題(2)から連結であることが分かります。
[1] 位相空間には距離(関数)が存在しないため近い,遠い,あるいは,小さい,大きいという概念がありません。その代りに,近傍,開被覆という概念が利用され,それらの濃度と包含関係が重要となります。
定義 基本近傍系 位相空間 X の点 p の近傍系N (p) [#] の部分集合族 B (p) が,任意の N(p)∈N (p) に対して, |
この基本近傍系を用いて位相空間の開集合の濃度に関する一つ目の可算公理が次のように定義されます。
第1可算公理 位相空間 Xの任意の点 p において,基本近傍系B (p) が存在し,その濃度が高々可算であるとき, ことを第1可算公理を満たすという。 |
これは点における開集合系の基底の濃度を定めていることになります。
「距離空間ならば,第1可算可算公理を満たす。」というような言い方がされますが,
例1 実際に距離空間は,
Vn(p)={ x∈X|d (p,x)<1/n }
とすれば,任意の N(p) に対して十分大きな n を選べば,Vn(p)⊂N(p) とできるので,V ={ V1(p), V2(p), … } は基本近傍系となります。
例2 ゾルゲンフライ直線 [#] は第1可算公理を満たす。p の基本近傍系は,例えば,
V={ (p−1/n,p]|p∈X,n=1,2,… }
のように取ることができます。
[2] 以上は X の点についてでしたが,今度は部分集合についての同様な部分開集合族を考えます。
定義 開基 (その1) (1) 位相空間 X の部分開集合族 B ={ Bγ }γ∈Γ を用いて,X の部分集合 S が,(S=X でもよい)
と表せるとき,B を S の開被覆という。特に, ”γ=1,2,3,…” のときは可算開被覆, ”γ=1,2,・・・,n ”のときは有限開被覆という。 (2) また,X の任意の開集合U に対して, X の部分開集合族B ={ Bγ }γ∈Γ から一部分{ Bγ’ }γ’∈Γ’を取り出して,
と表せるとき,B を位相空間 X の開基という。 特に, ”γ=1,2,3,…” のときは可算基という。 |
ここで,添え字Γは非可算集合でも構いません。例えば,区間 (0,1) の実数などでも良いわけです。
[3] 例えば,X を区間 (0,1) (←Rと同相)とするとき,
( i ) 開集合族として,{ (1/n,1−1/n)|n=3,4,… } とすると,これはXの可算開被覆です。
(A) 開集合族として,{ (0,1/2),(1/3,1) }とすれば,これはXの有限開被覆です。
(iii) 開集合族として,{ (0,a)|a∈(0,1) }∪{ (a,1)|a∈(0,1) } とすれば,非可算濃度の開被覆です。
以上の集合族は開被覆ではあっても開基ではありませんが,
(iv) 開集合族として, B={ (qm,qn)|0≦qm<qn≦1,qm,qn ∈Q }
を考えると,これは X= (0,1) の可算基となります。
一つの位相空間に対して,様々な開被覆が考えられるのですが,位相の強い,弱いに相当するような次の用語が使われます。
定義 細分 位相空間 X の開被覆 U とV について、V がU の細分であるとは、任意の V∈V について U∈U が存在して V⊂U を満たすことをいう。 |
[4] 開基の別の定義として,
定義 開基(その2) 任意の p∈X の任意の近傍 N∈N に対して,p∈B⊂N となるような X の部分集合族B の元(集合)B が存在するときB を X の開基という。 |
というのも証明によく使われます。先ほどの開集合族 (iv)B={ (qm,qn)|0≦qm<qn≦1,qm∈Q,qn∈Q } をとれば, (0,1)の任意の近傍 (s,t) に対して,s<qm<p<qn<t となるように (qm,qn)を選んで,(その2)を満足させられます。もちろん,このB の要素は可算個なので,B は可算基となっています。
例1 1次元ユークリッド空間は可算基をもつ。B={ (qm,qn)|-∞≦qm<qn≦+∞,qm∈Q,qn∈Q } とすればよい。
定義 第2可算公理 位相空間 X が可算基をもつとき,位相空間Xは第2可算公理を満たすという。 |
単に,「位相空間 X が可算基をもつ」というように引用することも多いです。
[5]
例 ゾルゲンフライ直線は第2可算公理を満たさない。
ゾルゲンフライ直線 (R,Os) が可算基B をもつと仮定して矛盾を導く。
任意の p∈R ,(p−1,p] ∈Os に対して,
p∈Bp⊂(p−1,p] ←ここで,pの右が” ] ” であることが効いている!
を満たす,Bp∈B が少なくとも一つは存在する。(←第二可算公理の定義(2)から)
そこで,R を定義域とする写像 f :
p → Bp
を考えると,これは非可算濃度をもつ実数Rから可算濃度の集合を要素とする部分集合族B への単射となり矛盾を生じる。
よって,ゾルゲンフライ直線 (R,Os) が可算基をもたない。
なお,f が単射であることは,次のように背理法で証明できる。すなわち,
もし,単射ではなければ, ある p∈Bp,q∈Bq ( p≠q ) が存在して,Bp=Bq となる。ところが,一般性を失うことなく p<q とすれば,
q(p−1,p] なので,qBp (=Bq ) ←ここでも,pの右が” ] ” であることが効いている!
であることとなり,矛盾を生じる。よって,f は単射である。
[6]
定理 |
この定理から,
例1 可分であり,通常の実数の位相から導かれる距離関数をもつ実数は第2可算公理を満たす。
例2 第2可算公理を満たさない可分なゾルゲンフライ直線 (R,Os) は距離空間ではない。
つまり,距離関数を(R,Os) 上に定義することが不可能なことが分かります。
[1] 有限被覆という用語を用いて,次のように位相空間における「コンパクト」の定義を簡潔に述べることができます。
定義 コンパクト |
X が一つでも有限部分被覆を含まない開被覆があれば,X はコンパクトではありません。もちろん,Xの有限部分被覆を一つ例示したからといって,X をコンパクトということはできません。
したがって,コンパクトでないことを証明するより,コンパクトであることを示す方が一般的に難しいわけです。
実数Rの区間 X=(0,1) は可算個の開集合で,
X= ∪ (1/γ,1) γ=2,3,…
と開被覆されますが,これは有限部分開被覆を含みません。(γは必ず∞までとる必要がある)。よって,実数の区間(0,1) はコンパクトではありません。
一方,位相空間として,
「実数上の閉区間 X=[0,1] はコンパクト」
ということができます。(どうやって証明しますか?難しそうでしょう?)
[2] そのためには次の定理が必要となります。
ハイネ・ボレルの被覆定理 Rnの有界閉集合を開被覆できるならば,そこから選んだ有限個の開集合を用いて有界閉集合を有限開被覆できる。 |
この定理を実数上の有界閉区間に限定して(証明しやすいような表記で)述べると,
閉区間 F0=[a,b] の任意の可算開被覆をB = { B1, B2, … } とすると,
と表せる。このとき,B から有限個の開集合 {B01,・・・,B0n }を選んで, [a,b] = B01∪・・・∪B0n とすることができる。 実数が可算開被覆を持つことはすでに述べています[#]。 |
[3] 以上を背理法で証明するために,
「 〜 ,B からどんな有限個の{B01,・・・,B0n }を選んでも,
[a,b] = B01∪・・・∪B0n
とすることができない。」
と仮定して,矛盾を導びきましょう。
証明
まず,閉区間 [a,b] を2等分して,[a,c] と [c,b] とする。
閉区間 [a,b] はB から選んだ有限個の開集合では被覆できないとすると,2等分後の[a,c] と [c,b] のうちで少なくともどちらか一方はB から選んだ有限個の開集合では被覆できない。
[a,c] と [c,b] のうちで有限被覆できない方を F1 = [a1,b1] とする。
ただし,[a,c] と [c,b] の両方とも有限被覆不可能ならば,どちらを選んでもよい。
さらに,[a1,b1] をc1で2等分して2つの閉区間 [a1,c1],[c1,b1] を考えると,再び,少なくともどちらか一方はB から選んだ有限個の開集合では被覆できない。
そこで,有限被覆できない方を F2 = [a2,b2] とする。
これを繰り返すと,
F ⊃ F1 ⊃ F2 ⊃ ・・・
となる閉区間の列を作ることができる。しかも,区間の幅は,|Fk|=|bk-ak|=(1/2)k|b−a| なので,
|Fk|=0 [**]
となる。
そして,実数の連続性(区間縮小法)より,極限において実数 p0∈[a,b] が存在する。
(注意:開区間(a,b)で同様な考察をすると,極限で(a,b)の境界へはみ出す可能性があるが,閉区間ではその心配がない。)
[*] より,p0 ∈ Bn となる Bn が存在し,さらに,Bn は開集合(開区間)なので,ある開集合 V(p0) が存在して,
V(p0) ⊂ Bn
とすることができる。また,[**]より,十分大きな整数 k をとると, [ak,bk] はいくらでも縮小できて,
p0 ∈ [ak,bk] ⊂ V(p0) ⊂ Bn
とすることができる。
ところが,最後の関係式は,B から選んだ有限個の開集合では被覆できないように選んだはずの [ak,bk] がB の一つの開集合Bn によって被覆されていることを示しており,矛盾が生じている。
したがって,背理法により最初の仮定は否定され,
「B から適当な有限個の { B01,・・・,B0n} を選べば,
[a,b] = B01∪・・・∪B0n
とすることができる。」
ことが証明されました。
例
ゾルゲンフライ直線 (R,Os) はコンパクトではない。
OR ⊂ Os と(R,OR )がコンパクトでないから。
[4] コンパクト空間の基本的な性質には次のようなものがあります。
命題
(1) 位相空間 X と位相空間 Y が位相同型であるとき,X がコンパクト空間ならば,Y もコンパクト空間である。 (2) コンパクト空間の任意の閉集合はコンパクトである。 (3) 位相空間 X から位相空間 Y への連続写像 f によって移される,X のコンパクト集合 A の像 f (A) は,Y のコンパクト集合である。 (4) コンパクト空間の任意濃度の直積は,コンパクト空間となる(チコノフの定理)。 |
位相的な性質
(1)の性質を,コンパクトとは位相的な性質であるといいます。一方で,閉集合,有界集合というのは位相的な性質ではありません。
メモ
- | ゾルゲンフライ 直線 |
ユークリッド 直線 |
位相 | Os ⊃ OR | |
可分 : QはRで稠密 | ○ | ○ |
コンパクト | × | × |
可算コンパクト | × | × |
σコンパクト | × | ○ |
局所コンパクト | × | ○ |
パラコンパクト | ○ | ○ |
リンデレーフ | ○ | ○ |
連結性 | 完全非連結 | 弧状連結 |
第1可算公理 | ○ | ○ |
第2可算公理 | × | ○ |
ハウスドルフ | ○ | ○ |
正則 | ○ | ○ |
正規 | ○ | ○ |
距離化可能 | × | ○ |
定義 UからVへの全単射 f とその逆写像 f-1 がともにCr級写像であるとき,f をCr級微分同相写像という。 このとき,U と V はCr級微分同相であるという。 |