Appendix 2 2階テンソルの座標変換
f-denshi.com  最終更新日:03/08/02  
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 ベクトル空間の基底として正規直交系しか用いない応用に対しては共変成分,反変成分を区別することは意味がありません[#]。そこで,そのような区別がない場合のテンソル変換について応用上,重要な3次元2階テンソルの例にとりまとめておきましょう。

1.2階テンソルの座標変換 

[1] まず,復習から。体 R上のベクトル空間 V の直積集合 V×V : {(x, )|x  ∈V } 上で定義された関数 T(,),

T:  (, ) → r  ∈ R 

を考えて,それが,z ∈V,λ∈R に対して,

(1) T(xz, )= T(x, )+T(z,
    T(x,z )=T(x, )+T(x,z
(2) T(λx, ) = λT(x, ) 
    T(x ) = λT(x,

を満たすとき,これらの性質を双線形性といい,この関数 T を双線形関数,または2階テンソルといいました[#]

[2] さて,2階テンソルがベクトル空間 V の座標変換にしたがってどうのように変換するのか考えます。座標変換前後の基底とその関係が,

Σ ={e1,e2,e3 } ⇔ Σ'={e'1,e'2,e'3

e'j  pkjek

で与えられるとします。すると,ベクトルxy はそれぞれの座標系で,

xs  psjx'j
yt  ptkx'k

と変換されることは,ベクトルの座標変換[#]で説明したとおりです。この基底のもとで,双線形関数 T(x )を考えます。

[3] 2つの座標系で,テンソルの成分Tjkを,

T(1,1 ) = T11,T(1,2 ) = T12, ・・・,T(3,3 )= T33
T('1,'1)=T'11,T('1,'2)=T'12,・・・,T('3,'3)=T'33

とそれぞれ定義[#]しましょう。これを用いると, 双線形関数 T(x, ) は 2つの座標系で,

T(x, )=T( x1e1+x2e2+x3e3, y1e1+y2e2+y3e3
      =x11T(1,1 ) +x12T(1,2 )+ ・・・+x33T(3,3
      =x11T11 +x12T12+x13T13+・・・+x33T33      
      = stTst     ・・・・・[*]               (座標系Σ
                       
T(x, )=x'1y'1 T('1,'1)+x'1y'2T('1,'2)+・・・+x'3y'3T('3,'3) 
      = x'jy'kT'jk     ・・・・・[**]               (座標系Σ'

とそれぞれ表されることになります。 ここでの問題は,T'jk と Tst との関係を求めることです。

[4] そのために[2]のベクトル成分の変数変換,xsΣpsjx'j, ytΣptkx'k を上の座標系Σ における式に代入すると,

T(x, )=ΣΣxstTst
      =ΣΣ(Σpsjx'jΣptkx'k)Tst
       =ΣΣx'jx'k(ΣΣpsjptkTst

これを座標系Σ'での式 ΣΣx'jy'k T'jk と比較すれば,

テンソル変換

      T'jk  =  psjptkTst       ⇔ 比較  x'j=pkjxk   

[5] 正規直交系の間の座標変換 だけを考えるならば,Appendix 1 で得たように

 x'j = Σ psjxs  ,( y'k = Σ ptkyt

である[#] ので,これらを先の座標系Σ'の式[**]に代入して[4]と同様な計算,比較を行なえば,次の関係式がえられます。

テンソル変換(正規直交系)
Tst psj ptk T'jk            
または,添え字を書き直して,
Tjk== pjspktT'st              ⇔ 比較  xj=pjkx'k 
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ベクトル空間と双対空間が同時に設定されているテンソル空間に対してよくある疑問について書いておきます。

Q 物理で見かけるテンソルと表記や意味が,ときわ台学の線形代数の内容と何か違う気がするのですが?

ここではベクトル(テンソル)空間について話していますが,物理で見かけると言われるテンソルは,正確にはベクトル(テンソル)場のことを言っているのだと思います。ベクトル場と,「場」がつくとと難しそうですが,空間の各点にベクトル(空間)が配置された空間がベクトル場です。

具体的な例をあげると,ある時刻の世界中の地表の風向きを記録した気象データはベクトル場です。世界の各地点で東西南北を示すための2次元ベクトル空間が配置されていると考えることができますよね。もし,各地点の雨量を記録したものならば,それはスカラー場になります。

きちんと説明するには多様体やリーマン幾何学などの知識が必要となりますが,ここでは,ベクトル空間とベクトル場のベクトル(テンソル)座標変換についての表記の比較表を紹介しておきます。

ベクトル空間
ベクトル空間 V 双対空間 V*
基底  ej 基底  ej



e'j=pijei
共変的とする基準
ej=qije'i e'j=qjiei
ej=pjie'i




x'j=qjixi xj=pjix'i x'j=pijxi
xj=qijx'i

ベクトル場
接空間 余接空間
基底   
∂xi
基底   dxj
数学(多様体)における表記例  



= ∂xi
∂yj ∂yj ∂xi
= ∂yi
∂xj ∂xj ∂yi
dyj= ∂yj dxi
∂xi
dxj= ∂xj dyi
∂yi



ηj= ∂yj χi
∂xi
χj= ∂xj ηi
∂yi
gj= ∂xi fi
∂yj
fj= ∂yi gi
∂xj
  物理における表記例



= ∂xi
∂x'j ∂x'j ∂xi
e'j= ∂xi ei
∂x'j
= ∂x'i
∂xj ∂xj ∂x'i
ej= ∂x'i e'i
∂xj
dx'j= ∂x'j dxi
∂xi
e'j= ∂x'j  ei
∂xi
dxj= ∂xj dx'i
∂x'i
ej= ∂xj  e'i
∂x'i



x'j= ∂x'j  xi
∂xi
xj= ∂xj  x'i
∂x'i
x'j= ∂xi  xi
∂x'j
xj= ∂x'i x'i
∂xj
緑=反変的 赤=共変的 
元の座標系Σの座標 (xi), 新しい座標系Σ’の座標=(x'i)
qij は pij の逆行列,  |ej|≠1でも構わない

ベクトル空間とベクトル場での記号の対応

ベクトル空間 対応 ベクトル場
pij
∂xi 
∂x'j
qij
∂x'i 
∂xj
ej
∂xj
ej dxj
xj xj ,χj
x'j x'j ,ηi
xj xj ,fi
x'j x'j ,gj