4 標準的な同型対応 | ||
f-denshi.com [目次へ]最終更新日:07/10/13 相反基底の導入のところを書き換えました。 | ||
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[1] これまで Vと V* とが代数的に同じものだと言ってきましたが,具体的にこれを関係づけるため,「ベクトル空間が同型である」 という概念をここできちんと定式化しておきましょう。
同型の定義 ベクトル空間V からベクトル空間W への上への1対1写像 Ψ が少なくとも一つ存在して,任意のx,y ∈V について, (1) Ψ(x +y ) = Ψ(x )+ Ψ(y ) が成り立つとき,Vと W は同型であるといい,Ψを同型写像という。 |
[2] 少し,補足しておくと,V上で定義される演算+,・ と W 上で定義される演算+,・ は別々に定義されているものです。
また,
x +y =z , ax =t ∈ V ;
p =Ψ(x ),q =Ψ(y ),r =Ψ(z ),s =Ψ(t ) ∈ W
とおくと,
V ∋ z = x +y であるときに, Ψ↓ Ψ↓ Ψ↓ (1)は W ∋ r = p +q の 等号= を主張している。
および,
V ∋ t = a ・ x であるときに, Ψ↓ Ψ ↓ (2)は W ∋ s = a ・ p の 等号= を主張している。
と書くとわかりやすいでしょうか。
[1] これから V と V* とが同型であることを証明します。計量をもつベクトル空間V の一つの元 v ∈ V をひとつ選んで固定し,内積から,「 変数x についての関数 」 を
φv(x ) ≡ (v,x )
と定義します。 この関数が線形写像であることは,
x = λ1x1 +λ2x2 ; λ1,λ2 ∈ R,x1,x2 ∈ V
とし,内積の定義[#]にしたがって,
φv(λ1x1+λ2x2)=(v,λ1x1+λ2x2)
=λ1(v,x1)+λ2(v,x2)
=λ1φv(x1)+λ2φv(x2)
のように計算できることから確かめられます。すなわち,φv は線形写像[#]で,
φv ∈V*
です。
[2] そこで,Ψ: V → V* として,
Ψ(v ): v → φv ( v ∈ V ,φv ∈ V* ) [ 同型対応 ] |
を考えると,Ψが同型の定義(1)を満足することが次のように示せます。まず,同型対応の定義より,Ψ(v1+v2)≡φv1+v2 であるが,
φv1+v2(x )=(v1+v2,x )
=(v1,x )+(v2,x )
=φv1(x )+φv2(x )
={φv1+φv2 }(x ) ←φv1,φv2 の線形性[#]から
すなわち,
Ψ(v1+v2)={φv1+φv2 }
を意味しています。一方,
Ψ(v1)+Ψ(v2 )= φv1+φv2
これらから,
Ψ(v1+v2)=Ψ(v1)+Ψ(v2 )
がいえました。定義(2)も同様に証明できます(略)。
Ψが1対1写像であることの証明は,
Ψ(v1)=Ψ(v2 ),すなわち,φv1=φv2であるとすると,
φv1(x )=φv2(x ) ⇔ (v1,x )=(v2,x ) ⇔ (v1−v2,x )=0
がすべてのxについて成り立たたなければならないが,すべてのベクトルに対して内積が0となるのはゼロベクトル0 だけであるから,上式からv1=v2でないといけません。すなわち,
Ψ(v1)=Ψ(v2 ) ⇒ v1=v2
であり,これはΨが1対1写像であることを示しています。
以上より,ベクトル空間V と V* が同型であることが証明されました。
このような内積を用いたVとV*との対応を標準(的な)同型対応といいます。
( なお,Ψが赤色なのはここだけのサービスで,これ以後色分けはしません。)
[1] 標準的な同型対応: Ψ によるベクトル空間 V の基底{e1,e2,・・・,en } とその双対基底 V* ={e1,e2,・・・,en } との関係を求めます。V の元一つを
x =x1e1+x2e2+・・・+xnen
とします。ここで,内積が与えられるとは,
(ej,ek)=gj k
なる gj k が与えられるということでした。また,標準的な同型対応によって[#],
φej(x ) = (ej,x )
= (ej ,x1e1+x2e2+・・・+x nen )
= x1(ej,e1 )+x2(ej ,e2 )+・・・+x n(ej ,en )
= x1gj1+x2gj2+・・・+x ngjn
↓ 射影を用いて,[#]
= gj1φ1(x )+gj2φ2(x )+・・・+gjnφn(x )
= gj1e1(x )+gj2e2(x )+・・・+gjnen(x )
= { gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen }(x )
という計算が可能です。ここで,+は写像の和の演算を意味しています[#]。 つまり,標準的な同型対応では,
ej
Ψ φej = gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen = gjke k ⇔
(以後, 「 ⇔ 」 は等号 「 = 」 を使います。)
[2] これをすべてのej (j = 1,2,・・・・n )について形式的に行列を用いて表すと,
e1 = G e1 ・・・・ [*] e2 e2 : : en en
ただし, G ≡ g11g12 ・・・ g1n ・・・・・・・・ gj1gj2 ・・・ gjn ・・・・・・・・ gn1gn2 ・・・ gnn
この G を計量行列,または共変計量テンソルいいます。また,G の逆行列 G-1 (反変計量テンソル) を,
G-1 ≡ g11g12 ・・・ g1n ← 添え字が上付きであることに注意! ・・・・・・・・ gj1gj2 ・・・ gjn ・・・・・・・・ gn1gn2 ・・・ gnn
とすれば,ベクトル空間における基底変換と同様に考え[#],これを[*]に左からかけて左辺と右辺を入れ換えれば,
e1 e1 e2 =G-1 e2 : : en en
となります。すなわち,j 行目の成分を一つ取り出して示すと,
e j = gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen
となります。
以上まとめると,
標準的な同型対応 ej=gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen e j=gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen |
[3] また,G,G-1 は,内積の交換法則が成り立つ[#]ことから,ともに対称行列であり[#],さらに,En=GG-1 に注意すれば,
計量行列 (ej,ek)= gjk 等の性質 (1) gjk = gkj [対称性] (2) gjk = gkj [対称性] (3) gj1g1k+gj2g2k +・・・+gjngnk = δjk [直交性] ← GG-1 の (jk )成分 |
などが成り立ちます。 上の (3) の関係は双対基底の間の関係が,標準同型対応を介した内積から,
(ej,ek)=(gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen,ek)
=gj1(e1,ek)+gj2(e2,ek)+・・・+gjn(en,ek)
=gj1g1k+gj2g2k+・・・+gjngnk
=δjk
でなければならないことを要求し,もちろん,この性質はej が本質的には射影演算子であることからきています。
[4] また,次の反変基底どおしの内積は,計量テンソル[#]と (1) と (3) の性質を用いて,
(ej,ek)=(gj1e1+gj2e2+・・・+gjnen,gk1e1+gk2e2+・・・+gknen)
= (gjpep,gkqeq) = gjpgkq(ep,eq) = gkj = gjk
= gjpgkqgpq = gkqδjq
となることが分かります。
結局,ベクトル空間の基底に内積,(ej,ek) = gjkを与え,さらにベクトル空間と双対ベクトル空間との間に内積を用いた標準同型対応を導入すると,双対ベクトル空間での内積(ej,ek) = gjk,および,ベクトル空間と双対空間の基底の間における内積(ej,ek)=δjkが一意的に計算(定義)できるようになります。
基底・双対基底 [#] の内積についてまとめておきましょう。
基底,双対基底の内積 (ej,ek) = gjk (ej,ek) = gjk (ej,ek) = δjk [標準同型対応] ( δjk=gjk と書くこともある。) |
[1] さて,標準同型対応の結果そのものを定義として,(もともと,V*が写像の集合だということを忘れてしまって,)
V に一つの基底 {e1,e2,・・・,en } が与えられたとき, (ej,ek )=(ek,ej ) = δjk をみたすような,e1,e2,・・・,en ∈ V を求めて, (←V の中で探すことに注意してください。) ⇒ ベクトルの組: {e1,e2,・・・,en } を双対空間V* のベクトルと同一視する。 |
ことも可能です。双対空間 V* の基底をV の中に探し求めるのです。つまり,ejとek とは異なるベクトル空間の基底なので,本来はその間に幾何学的な内積なんてものは計算できないんです。それを標準同型対応によって可能するのです。幾何学的な意味を持つ物理への応用に際しては,この処方が取られることが一般的です。
ここではこのV* とV が同一のベクトル空間として話を進めます。
[2] あるベクトル空間 V の共変基底 {e1,e2,・・・,en } が与えられて,その双対基底 {e1,e2,・・・,en } を標準同型対応によって,V自身の中に一つ定めたならば,それらのベクトル成分の間にも一意的な対応が存在するはずです。その一般的な表式を求めてみましょう。
ベクトル空間V の元x を V の基底であらわした
x = x1e1+x2e2+・・・+xnen
の成分,xk(k=1,2,・・・n)を反変成分といいます。V* とV が同一のベクトル空間であれば,同じx を双対空間の基底を用いて,
x = x1e1+x2e2+・・・+xnen
と表すことが可能です。ここで,xj の添え字を下げて区別していることに注意して下さい。この xj (j=1,2,・・・n) を共変成分といいます。そこで,次の2とおりの内積を計算すると,
(ej,x )= (ej,x1e1+x2e2+・・・+xnen )
= x1(ej,e1 )+x2(ej,e2 )+・・・+xn(ej,en )
= x1gj1+x2gjn+・・・+xngjn
および,
(ej,x )=(ej,x1e1+x2e2+・・・+xnen)
=x1(ej,e1)+x2(ej,e2)+・・・+xn(ej,en) ↓ [#] より
=xj
ここまで,便宜的に色を付けただけで,x =x =x ですから,上の2式より,
xj = gj1x1+gjnx2+・・・+gjnxn [ 共変成分を反変成分で展開 ]
であることが求まります。(ej,x )を計算すると逆の関係(反変成分の共変成分での展開)も同様に求まり,
反変成分と共変成分の関係 xj =(ej,x) = gj1x1+gjnx2+・・・+gjnxn =Σgjkxk xj =(ej,x) = gj1x1+gj2x2+・・・ +gjnxn =Σgjkxk |
[3] 上の議論は抽象的でしたが,実用上,最も重要な3次元ユークリッド空間 V内の ”双対基底” を示しておきましょう。
いま,{a1,a2,a3 }を V の(直交しているとは限らない)基底とすると,a2,および,a3 が,外積[#] a2×a3 に直交していること等に注意して,
を考えると,
を満たしています。 スカラー三重積 [a1a2a3] については→[#] したがって,{b1,b2,b3}∈V は標準的な同型対応によって,{a1,a2,a3}の双対空間V* の基底と同型なV 上のベクトルの組です[#]。V と同じ空間上にとったこの基底を相反基底ともいます。 ← 空間 V* と V の同一視 = V* の基底を V の基底で表しています。また,この場合,基底ベクトル,b1,b2,b3の添字を上に書かずに,b1,b2,bn と書くこともあります。 |
[4] このような基底を考えるとV上のベクトルは,この2通りの基底で表すことができ,
x =x1a1+x2a2+x3a3 =x1b1+x2b2+x3b3
と書けます。また,基底で表したベクトルxと相反基底で表した任意のベクトル,
y=y1b1+y2b2+y3b3
との内積(x ,y) をとると,
(x ,y)=x1y1+x2y2+x3y3
と成分で表せます。同様に考えて,
(y ,x)=x1y1+x2y2+x3y3
とも表せます。つまり,2つのベクトルの内積を考えるとき,一方を反変成分,もう一方を共変成分として表せば,たとえ,基底が直交していない一般的な場合でも,直交座標系と同じように計量テンソルを用いずに表すことができます。
もし,反変成分だけ,あるいは共変成分だけで内積を表した場合,9つの計量テンソルを用いて表される[#]ことを考えれば,ずっと簡潔になります。
このように,基底,相反基底(双対基底)が混在するとき,e j・ek =δj k の関係を用いて,2つのベクトルからスカラーを得ることを縮約をとるといいます。後に述べるように,より一般的にテンソルの上下にある指標に対する同様な計算も縮約といいます。
一方,一般の基底とおよびその相反基底から作った正方行列:
A =(a1 a2 a3)
B =(b1 b2 b3)
について,
tBA = | b1 | (a1 a2 a3)= | b1a1 b1a2 b1a3 | = | 1 | 0 | 0 | =E | ||||||
b2 | b2a1 b2a2 b2a3 | 0 | 1 | 0 | ||||||||||
b3 | b3a1 b3a2 b3a3 | 0 | 0 | 1 |
および,A・tB =E などが成り立ちます。
[5] 最後にもうひとつ付け加えておくと,正規直交基底{e1,e2,e3}の相反基底{b1,b2,b3}は正規直交基底{e1,e2,e3}そのものです。 これは,e2×e3 =e1 であることなどを用いれば,
b1 = e2×e3 = e2×e3 = e1 = e1 [e1e2e3] (e1, {e2×e3}) (e1,e1)
などが成り立つからです。
相反基底の応用例としては回折理論において,実格子空間に対する逆格子空間,波数ベクトル空間 ⇒[#],などがあります。