305  逆格子空間
f-denshi.com  更新日:05/02/17
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1.逆格子ベクトル

[1] 3次元ベクトル空間は,任意の1次独立な3つのベクトル(=基底という)を用いて取り扱うことができます。結晶構造を取り扱うときにもっとも自然で重要な基底は,これまでの説明に用いた3つの基本並進ベクトル,{abc } を採用することです。

もう一つの重要な基底ベクトルは,これから述べる逆格子ベクトルです。

ベクトル空間の3つの基底として,次のような性質をもつベクトルABC逆格子ベクトルといいます。すなわち,

Abc  に垂直 : AbAc = 0
Bca  に垂直 : BcBa = 0
Cab  に垂直 : CaCb = 0
    ・・・・・[*]

であって,ABC  の大きさが,

Aa  = 2π
Bb  = 2π
Cc  = 2π
                                      ・・・・・[**]

となるように定めたベクトルです。これは数学的には基底:{abc }の相反基底:{ABC }とよばれます[#]
また,3次元ベクトル空間の基底として, {abc }を選んだときを実空間,(ABC )を選んだときを逆格子空間と呼びます。)

具体的な逆格子ベクトルは基本並進ベクトルの外積を用いて,

A =2π b×c B =2π c×a C =2π a×b
abc abc abc

を計算することで得られます。ここで,[abc]=a ・(b×c ) はスカラー三重積 [#] です。

重要な関係式

基本並進ベクトルを a b c ,その逆格子ベクトルをABC とするとき,

(1) [A B C ] = (2π)3
abc

(2)  G = hA + kB + lC は( h k l )面に垂直である。

(3) ( h k l ) の面間隔は d( h k l )=  である。
| G |

証明
(1) ベクトル解析の相反基底の公式 3 (2)[#]においては,ベクトルと相反基底との関係が,Aa = 1 ですが,それをここでの定義,Aa  = 2π に変える必要があります。
(2) ( h k l ) 面(右下図の緑色の三角形を含む面)内の任意の異なる2点を示すベクトルは,代数・幾何学の公式から

r1 =p1 a +q1 b +r1 c ,  r2 =p2 a +q2 b +r2 c
h k l h k l
ただし, p1+q1+r1 = 1, および, p2+q2+r2 = 1 

と表すことができます。 この面内の2点を結ぶベクトル,( つまり,( h k l )面内にあるベクトル )r r1r2  と,G = hA + kB + lCとの内積は,[*][**] を用いて,

Gr =(hA+kB +lC)・ p1−p2 a q1−q2 b r1−r2 c
h k l

   =(p1−p2)(Aa )+(q1−q2)(Bb )+(r1−r2)(Cc )
     = 2π{( p1+q1+r1 )−(p2+q2+r2)}
     = 2π{ 1 − 1 }
     = 0

と計算できます。よって,Gr に垂直です。

(3)   原点からもっとも近い(隣の)( h k l )平面上の点,

    P 1 a b c
3 h k

を示すベクトルを考え,その ( h k l )平面に垂直な単位ベクトル G / | G | への射影を求めればよい。すなわち,

     d( h k l ) = P G 1 aAbBcC
| G | 3 | G |
              = 1 (2π+2π+2π)
3 | G | | G |

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面の多重度

結晶系 hkl hhl hk0 0kl h0l hh0 hhh h00 0k0 00l
三斜晶系 2
単斜晶系 4 2 2
斜方晶系 8 4 4 4 2 2 2
正方晶系 16 8 8 8 4 4 2
六方晶系
三方晶系 
24 12 12 12 6 6 2
立方晶系 48 24 24 12 8 6