4 行列の余因子 | ||
f-denshi.com 最終更新日:03/06/29 |
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[1] 行列式の余因子は主に,
(1)行列式の計算を容易にする
(2)逆行列を求める
ために使います。まず,定義です。行列Aの(s,t)余因子とは,
(s,t)余因子の定義: n次正方行列Aから s 行(as1・・・asn)と t 列t(a1t・・・ant)を取り去って得られる (n-1)次正方行列の行列式に (-1)s+t を乗じた,
|
となりますが,むしろΔst が,次の n 次行列式と等しいことの方が本質的です。すなわち,t列目を
|
[2] これは,行列式の交代性[#]から次のように示せます。スペースを節約するために,A=(a1a2・・at・,an)と表し[#],s 行目が 1 で他の成分は 0 である列ベクトルet をatと交換すれば,
|a1a2・・・・・・at-1 et at+1・・an|
t-1列とt列を交換すれば,
=(-1) |a1a2 ・・・・・・et at-1at+1・・an|
etの前列への移動を繰り返していけば,
=(-1)2|a1a2 ・・et at-2at-1at+1・・an|
・・・・・・・・・・・・・・・・・
=(-1)t-1|et a1a2・・at-1at+1・・an|
≡ D
今度は,得られた Dについて第 s 行を真上の行と次々(s-1)回交換することで第1行目へ移動させると,
D=(-1)t-1 0 a11・・・a1(t-1)a1(t+1)・・・a1n = ・・・ 0 ・・・・・・ 1 as1・・・as(t-1)as(t+1)・・・asn 0 ・・・・・・ 0 an1・・・an(t-1)an(t+1)・・・ann
・・・ =(-1)t-1(-1)s-1 1 as1・・・as(t-1)as(t+1) ・・・asn 0 a11・・・a1(t-1)a1(t+1) ・・・a1n : ・・・・・・・・・・・・ 0 ・・・・・・・・・・・・ 0 an1・・・an(t-1)an(t+1) ・・・ann
これは1列目左下の水色で示したブロックが零行列となる[#] ので,さらに,
= (-1)t+s・|1| a11・・・a1(t-1)a1(t+1) ・・・a1n ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ an1・・・an(t-1)an(t+1) ・・・ann
= Δst
と書くことができます。
[3] 具体例をひとつ書いておきます。5次正方行列の(3,4)余因子です。
A=
a11a12a13 a14 a15 a21a22a23 a24 a25 a31a32a33 a34 a35 a41a42a43 a43 a45 a51a52a53 a45 a55 ⇒ Δ34 ≡ (−1)7
a11a12a13a15 a21a22a23a25 a41a42a43a45 a51a52a53a55
[1] 行列式は余因子を用いて次のように展開できます。つまり,次数のひとつ低い行列の行列式の和で表せます。
定理 (1) t 列による行列式の展開 |A| = a1tΔ1t + a2tΔ2t + ・・・ + antΔnt (2) s 行による行列式の展開 |A| = as1Δs1 + as2Δs2 + ・・・ + asnΔsn |
(1)の証明は,行列式の多重線形性1[#] から, ← (2)も同様です。
|A|= |
|
↓
= |
|
+・・・・+ |
|
↓
=a1t |
|
+・・・+ant |
|
・・・[**] |
= a1tΔ1t + ・・・・・・・・・・ + antΔnt
のように変形すればわかります。
[2] 重要な直交関係(公式)を書いておきます。 なお,この公式は次章の逆行列の証明で使います。
公式
(1) δkt|A| = a1kΔ1t + a2kΔ2t + ・・・ + ankΔnt (2) δsk|A| = as1Δk1 + as2Δk2 + ・・・ + asnΔkn |
(1)についての証明は,
t=k のときは[1]の定理の t 列による展開 [#] そのものです。
t≠k のときは,[1]の証明における [**] において,a1t→a1k, ・・・ ,ant→ank として↓を逆にたどれば,
a1kΔ1t + a2kΔ2t + ・・・ + ankΔnt = a11・・・a1(t-1) a1k a1(t+1)・・・a1n ・・・・・・ : ・・・・・・ as1・・・as(t-1) ask as(t+1)・・・asn ・・・・・・ : ・・・・・・ an1・・・an(t-1) ank an(t+1)・・・ann
となり,t 列目の成分がk 列目( k≠t ) の成分に等しい行列式であることがわかります。
この値は行列式の性質(4)[#]より 0 です 。
(2)の証明も同様です。
例 3次の正方行列の1列目の要素で展開
a11 a12 a13 |A| = a21 a22 a23 a31 a32 a33
=a11Δ11+a21Δ21+a31Δ31
=a11 a22 a23 −a21 a12 a13 +a31 a12 a13 a32 a33 a32 a33 a22 a23