125 軌道角運動量
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1.角運動量演算子の定義

[1] 

軌道角運動量演算子

角運動量と呼ばれるエルミート演算子Lを次の通り定義する。
L = r ×p
これは演算子 r=(xyz) と p=(pxpypz) との外積で,

       L = (LxLyLz
         =( ypzzpyzpxxpzxpyypx )                                                     [*]

古典的角運動量を量子力学的演算子とするためには,

 x ⇒ x,   y ⇒ y,  z ⇒ z

px ⇒ −ih

px⇒−ih

px⇒−ih

∂x ∂y ∂z

と変換しました。これを [*] に代入し,さらに,球座標 [#] に変換するとそれぞれ次のとおりとなります。計算 ⇒ [#]

Lz ≡−ih x −y =−ih
∂y ∂x ∂φ
Lx ≡−ih y −z =+ih sinφ +cotθcosφ
∂z ∂y ∂θ ∂φ
Ly ≡−ih z −x =−ih cosφ −cotθsinφ
∂x ∂z ∂θ ∂φ

[2] 頻繁に用いることとなる昇降演算子を,

I ) L+LxiLy
II) L- LxiLy

と定義します。LxLy をこれらの式に代入すると,微分演算子として,

L±h exp(iφ) ± i     
∂θ tanθ ∂φ

が得られます。さらに,

L2LxLxLyLyLzLz
  = 1 LLLL)+Lz2
2
=−h2  1  ∂2  1 sinθ
sin2θ ∂φ2 sinθ ∂θ ∂θ

を計算することもできます。

この最後の括弧の中はラプラシアンを球座標表で示した[#]

2 2 2
∂x2 ∂y2 ∂z2
2  + 2  + 1 Λ
∂r2 r ∂r r2

におけるΛの部分に等しくなっています。すなわち,

角運動量の二乗の演算子とラプラシアンとの関係
2 ⇒  2  + 2  + 1 Λ
∂r2 r ∂r r2

L
2 = −h2Λ
ただし,
Λ  1 sinθ  1 2
sinθ ∂θ ∂θ sin2θ ∂φ2



2.角運動量と球面調和関数(波動関数として)

[1] 水素様原子のシュレーデンガー方程式の角度依存のある部分は分離することができて,次の通りでした[#]

  ΛY(θ,φ)+λY(θ,φ) = 0           ・・・・・ (1) 

この固有方程式の解は球面調和関数と呼ばれます。また,Λは先ほど示したように軌道角運動量と関係づけられ,

  L2Y(θ,φ)=λh2Y(θ,φ) = 0          ・・・・・ (1)’ 

という関係も成り立ちます。この方程式の解法は微分方程式論 [#] に譲り,ここでは結果だけを示すこととします。


[2] 固有方程式(1)’の解(固有関数)は,Lzの固有関数でもあり L2の同時固有関数[#]),

L2 Ylm(θ,φ)=ll +1)h2 Ylm(θ,φ)

LzYlm(θ,φ)=mh Ylm(θ,φ)

ただし,

  = 0,1,2,・・・
m = -l,・・・,0,1,・・・,  

となります。また,L+L- に対して,

L+Ylm(θ,φ)= [(jm)(jm+1)]1/2 h Ylm+1(θ,φ)

L-Ylm(θ,φ)= [(jm)(jm+1)]1/2 h ・Ylm-1(θ,φ)

を満足します。この演算子の性質は一般角運動量の説明 [#] を参考にして下さい。

方向固有ケット|n>と内積 (ブラケットの完成) をとった<n (θ,φ)|lm>=Ylm-1(θ,φ)
角運動量固有ケットのj は球面調和関数では,l の記号が使われる。

[3] Ylm(θ,φ)の関数形は,

Ylm(θ,φ)=
(−1)m
2l + 1 (−m)!
(+m)!
 Plm(cosθ)・exp(i mφ)      [m≧0]
(-1)|m| Yl|m|(θ,φ)*                          [m<0]
ただし,Pl m(x) =(1−x)m/2 dm Pl(x)
dxm
                      = (-1) m 1−x2) m/2 dl+m (x2−1)l 
2 dxl+m 
および,Pl(x)  = 1 dl (x2−1)l 
2 dxl 

同じことだけど,

Ylm(θ,φ)=
2l + 1 (−|m|)!
(+|m|)!
Pl |m|(cosθ)・exp(i mφ)×(−1)(m+|m|)

と書いてもよいでしょう。


[4] Ylm(θ,φ)は,完全系を作っており,正規直交性については,

Ylm(θ,φ)* Yl'm'(θ,φ) sinθdθdφ=δl l 'δmm'

であることを示すことができます。



[5] 交換関係

LzLx]=ihLy 
LxLy]=ihLz 
LyLz]=ihLx
まとめて,

   [LiLj] = ihεijkLk

ここで,εijk はエディントンのイプシロン[#] です。

位置と運動量との交換関係 [rjpk]= ihδjk  を用いてコツコツ計算すれば示すことができます

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以下,著者のメモ書き

方向固有ケット

ハミルトニアンHが球対称 ⇒ <r’|n,l,m>Rnlr)Ylm(θ,φ)
                   ⇒ H L2,Lz と交換する。

                  ⇒ 角度依存性を取り出すケット,(ブラ); <nl,m>

nl,m>: 状態 |l,m> において,方向(θ,φ)に見出される確率


波動力学との

<r,θ,φ|Lz|ψ>=−ih <r,θ,φ|ψ>
∂φ

運動量の位置表示[#]を用いると次の一連の関係式が導かれます:

球座標[#]で,|r’,θ’,φ’>⇒|r’> と書くことにすれば,

r’|Lz|ψ>=−ih r’|ψ>
∂φ
r’|Lx|ψ>=−ih −sinφ −cotθcosφ r’|ψ>
∂θ ∂φ
r’|Ly|ψ>=−ih cosφ −cotθsinφ r’|ψ>
∂θ ∂φ

および,

r’|L+|ψ>=−ih・exp(+iφ) i −cotθ r’|ψ>
∂θ ∂φ
r’|L-|ψ>=−ih・exp(−iφ) i −cotθ r’|ψ>
∂θ ∂φ

また,

r’|L2|ψ>=−h2  1   ∂2  1 sinθ r’|ψ>
sin2θ ∂φ2 sinθ ∂θ ∂θ

           =−h2Λr’|α>

波動力学での演算子