9 共役類
f-denshi.com  最終更新日: 21/03/26
[目次へ]
サイト検索
急ぐ方はこのページを飛ばして「11」へ進んでください。

前章では,右剰余類,左剰余類を求めてから商群を構成しましたが,ここでは別の角度からこの問題について考えてみましょう。

1.群 G の G 自身への働きと G軌道

[1] 5.で,群 G ={e,g1,g2,・・・,gn }が集合 M (M≠G) に働くことについて述べましたが,ここでは,G 自身への働き,つまり,M = G の場合について考えましょう。この場合の働きとは合成写像を作ることに相当します。その”働き方”は自由に考え出す(定義する)こともできますが,群論において重要なのは両側からの働きと呼ばれるもので, g,h∈G について

G の両側からの働き : g(h)=g・h・g-1  すなわち,  g: h → g・h・g-1   

のように働き方(写像と定義域&値域)を定義します。(写像の合成を意味する記号は省略可ですが,ここではわかりやすいように省略していません。)これがなぜ重要かというと,

「 g と h が可換ならば g(h) は恒等写像になる。」

からです。つまり,元の可換性を調べるにこれが活躍するのです。

[2] 他にも働きには,

G の左からの働き : g(h)=g・h
G の右からの働き : g(h)=h・g   

などが使われます。上の例が「働き」であることを定義 [#] に従って確かめて見ましょう。「左からの働き」については,g1,g2,h,e∈G として,g2(h)=g2・h に注意して,

 (1) g1(g2(h))=g1(g2・h)=g1・(g2・h)=(g1・g2)・h=g1・g2(h)
 (2) e(g)=e・g=g

となり,働きの2つの条件[#] を満たしています。「右・・」,「両側・・」についても同じように計算してみせることができます。



[3] 「 G の両側からの働き」 が重要なのは可換性に関わっており,これは共役という概念が使われます。(元を線形写像に限定すれば,2つの元が共役とは,ベクトル空間の基底変換によって互いに移り変われる元どおしという意味にも取れます。)

群 G の G上への両側から働き,すなわち,G から G への写像:
g(h) = ghg-1 ∈ G  
を考える。このとき,

(1) ある固定した h∈G に対して定まる次のような G の部分集合 C(h):   
C(h)={ g(h)|すべての g∈G }
    ={ ghg-1|g∈G }
    ={ ehe,g1hg1-1,g2hg2-1,・・・,gnhgn-1  (e,g1,g2,・・・,gn∈G)
を 「h を含む 共役類」という。 (↑h の G軌道とも見れます。)

(2) また,a に対して,ある g∈G が存在して,

    a=ghg-1 ,g∈G

と表せるとき,a は h と 共役 という。

 最後のところ,別の言い方をすると,

「 a が h に共役ならば,集合リスト:{ehe,g1hg1-1,g2hg2-1,・・・,gnhgn-1 } の中に a と等しいものを見い出せる。」

ということです。

 もうひとつ重要なことは,どういうときに C(h)⊂G,( C(h)≠G ) となるかというと,リストの中に重複が起こるときと h と可換な元があるときの2つの場合です。つまり,

(A) g1hg1-1 = g2hg2-1       ( 重複が存在 )
(B) g2hg2-1 = g2g2-1h = h  ( h と可換な元 )

などとなるとき,C(h)の大きさ(位数)はその分小さくなってしまします。

[4] また,

(1)共役は同値関係である[#]
(2)共役類とはh を含む G-軌道 の ”一つ” である[#]

ことに注意して下さい。このことから a と b が共役ならば,これらは同じ共役類に属しているわけです。そして,「 共役類によって,群 G は共通部分のない部分集合に分割 」 されます。

[5] 正四面体群 A4 の例を調べてみます。

例えば,C(a2)≡{ ga2g-1| g∈G }=A を求めるために,G の群表[#]を見ながら下の表を作ります。

g= a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4 hx hy hz e
g・a2 b4 b2 b1 b3 hx e hy hz a3 a4 a1 a2
g-1 b1 b2 b3 b4 a1 a2 a3 a4 hx hy hz e
g・a2・g-1 a3 a2 a4 a1 a4 a2 a1 a3 a4 a1 a3 a2

g・a2・g-1=a1 となるものは,

b3・a2・b3-1 =b3・a2・a3 =hy・a3 =a1
a4・a2・a4-1 =a4・a2・b4 =b3・b4 =a1
hy・a2・hy-1 =hy・a2・hy =a4・hy =a1

すなわち,g=b3,a4 または,hy の場合であることを確かめることができます。

[6] 他の C(a1),C(a3),C(a4)について同様の表を作って調べてもよいのですが,共役類が同値類であることを思い出せば,この表だけでも,a1,a2,a3,a4 の4つの元で一つの共役類になっていることが分かります。

次にC( b2) についての計算を表にしてみましょう。

g a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4 hx hy hz e
g・b2 hz e hx hy a3 a2 a4 a1 b1 b3 b4 b2
g-1 b1 b2 b3 b4 a1 a2 a3 a4 hx hy hz e
g・b2・g-1 b3 b2 b4 b1 b4 b2 b1 b3 b4 b1 b3 b2

この結果から,C(a1)=C( b2)=C(a3)=C(a4)={b1,b2,b3,b4}=B が一つの共役類となっていることが分かります。

同様に,

g a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4 hx hy hz e
g・hy a4 a3 a2 a1 b3 b4 b1 b2 hz e hx hy
g-1 b1 b2 b3 b4 a1 a2 a3 a4 hx hy hz e
g・hy・g-1 hx hx hx hx hz hz hz hz hy hy hy hy

から C(hx)=C(hy)=C(hz)={ hx,hy,hz}=H が一つの共役類となっていることが分かります。

そして,最後に残ったe は,これ一つで一つの共役類 C(e)={e} を作ります。




[7] 結局,正四面体群は次の4つの共役類に分割されることになります。

A={a1,a2,a3,a4
B={b1,b2,b3,b4
H={ hx,hy,hz
E={e}

ここで,各元の回転操作を思い出すと,不動の頂点から底面を見て,

A は頂点を不変とする2π/3の右回転、
B は頂点を不変とする2π/3の左回転、
C は対辺の中点を通る軸の周りのπの回転、
D はすべてを不変とする回転
  ・・・・ [*] 

に分類されていることが分かります。

正四面体群の元がこのように分類された理由は,線形代数における線形作用素のユニタリ変換(または直交変換)[#]

NUMU-1         ・・・・ [**]

を思い浮かべるとよいでしょう。群の2つの元が共役であることの定義と同形となっています。

MN は線形演算子(←線形代数に詳しくない人は,線形写像を表す行列と考えてください)で,U はベクトル空間の座標変換(=正規直交基底間の基底変換)を表すユニタリ演算子です。つまり,この式は,

ある座標系でMと表されている線形演算子を別の座標系へ座標変換すると,NUMU-1 で表される。

ことを示しています。

そして,線形演算子MN を回転演算子とすれば,[**]より NM (=UMU-1) は座標変換を行っただけで同じ内容をもつ演算子ということが分かります。

さらに,ユニタリ演算子 U は広義の回転を意味する演算子 [#] であることも思い出しましょう。もう分かりましたね。

つまり,正四面体群 G=A4 の元を回転演算子とみなし,また,座標変換のユニタリ演算子も A4 の元に限定したとき,共役類とは,

座標変換でお互いに写り合えることのできる元どおしを集めた A4 の部分集合

となっているのです。その結果が,[*] に従うような分割となっているのです。

以上のような考察はいずれの正多面体群の場合に適用することができます。


   つづく・・・



[目次へ]