5 軌道
f-denshi.com  最終更新日: 04/02/29

0.正四面体群の群表[再掲]

正四面体群P(4)の元どおしの二項演算の結果すべて12*12=144通りを表にすると次のようになります。

XY e a1 b1 a2 b2 a3 b3 a4 b4 hx hy hz
e e a1 b1 a2 b2 a3 b3 a4 b4 hx hy hz
a1 a1 b1 e b4 hz b2 hy b3 hx a2 a4 a3
b1 b1 e a1 hx a3 hz a4 hy a2 b4 b3 b2
a2 a2 b3 hz b2 e b4 hx b1 hy a1 a3 a4
b2 b2 hx a4 e a2 hy a1 hz a3 b3 b4 b1
a3 a3 b4 hy b1 hx b3 e b2 hz a4 a2 a1
b3 b3 hz a2 hy a4 e a3 hx a1 b2 b1 b4
a4 a4 b2 hx b3 hy b1 hz b4 e a3 a1 a2
b4 b4 hy a3 hz a1 hx a2 e a4 b1 b2 b3
hx hx a4 b2 a3 b1 a2 b4 a1 b3 e hz hy
hy hy a3 b4 a4 b3 a1 b2 a2 b1 hz e hx
hz hz a2 b3 a1 b4 a4 b1 a3 b2 hy hx e
 正四面体群の積表

これからこの表の中にどのような対称性や規則が潜んでいるのか探し出しながら、群の基本用語、定義及び重要な定理を解説してゆきたいと思います。そのとき、各元が前章で述べたどのような回転を表しているかは忘れてしまっても、代数学の群論としては構わいません。でも、せっかく具体的なイメージがあるのだから幾何学的なイメージもおおいに活用しましょう。

1.正四面体群の部分群

[1] シローの定理[#] から、正四面体群 G の位数:|G|=12=22×3 なので、G には位数4及び3の部分群が存在することが予想できます。実際、正四面体群の自明でない部分群をリストアップすると下のようになり、正四面体の部分群は”p-シロー群”であることがわかります。

XY e a1 b1
e e a1 b1
a1 a1 b1 e
b1 b1 e a1
XY e a2 b2
e e a2 b2
a2 a2 b2 e
b2 b2 e a2
XY e a3 b3
e e a3 b3
a3 a3 b3 e
b3 b3 e a3
XY e a4 b4
e e a4 b4
a4 a4 b4 e
b4 b4 e a4
部分群 S1 部分群 S2 部分群 S3 部分群 S4
XY e hx hy hz
e e hx hy hz
hx hx e hz hy
hy hy hz e hx
hz hz hy hx e
部分群 H
S1={e、a1、b1}、 S2={e、a2、b2}、 S3={e、a3、b3}、 S4={e、a4、b4
H ={e、hx、hy、hz

 S1、S2、S3、S4、は各頂点の周りの回転、Hは対辺の中心を通る対称軸周りの回転に対応する元の集合になっていることがわかります。部分群の位数はそれぞれ、

|S1|=|S2|=|S3|=|S4|=3、|H|=4

です。この関係は有限群とその任意の部分郡について一般的に成り立つ重要な関係の再確認です。

  S1の群表を眺めると、これは先に出てきた正6角形の巡回部分群 H1/3[#] に実質的に同じだと”感じ”ます。(これを、S1 と H1/3 とは群として同型であるといいます[#]。)しかし、見かけが違っています。これは群の具体的な描像として正四面体の頂点か正6角形の頂点の動きに着目しているかの違いによります。この辺の事情の違いを数学的にどう織り込んだらいいのでしょうか。その問いに答えるためには次の軌道の概念が必要となってきます。

  (注意)  群全体では非可換群ですが、各部分群はそれぞれ可換群ですね。またあとで、

2.軌道

[1] 今まで正四面体群 G の元(=回転変換)をさりげなく4文字の置換に対応させて考えてきました[#] が、実はこのようなやり方には注意が必要です。その対応関係の一意性が曖昧だからです。実際、正四面体の頂点ではなく、もし、辺に着目して番号を振れば6個の辺の動きを追いかけることになり、その場合も正四面体群の記述は可能だからです。

 また、正四面体群の部分群: S1={a1、b1、e} に着目すると、この群を表すのに何も正四面体の4つ頂点を用いる必要はないことがわかります。底面である正三角形の3つの頂点だけを考えればよいことにすぐ気がつきます。同様なことが正6角形の平面回転群[#] に含まれる部分群: H1/3={g2、g4、e} についてもいえます。つまり、同じ群でも何に作用している(働いている)かによって異なった表現が可能なのです。このようすを数学的に議論するために次のような定義をしておきましょう。

定義
(1)群 G が集合 M の上に働くとは、G の各元、e、g1、g2、・・・、gn ∈ G、が M から M への写像となっていて、
任意の m ∈ M、gj(m) ∈ M に対して、 
(1)  gj(gi(m))=gj・gi(m)      
(2)  e(m)=m
となっていることである。

(2)また、m を固定して、G(m) と書かれる M の部分集合、

      G(m)={ g(m)|g∈G }   (gはGのすべてにわたります。)

を m による G-軌道 という。

[2] この定義がちんぷんカンプンだという方は、先ほどイントロで使った具体例を下の表にまとめましたのでじっくり眺めてください。それでもわからないという人は、8章のはじめの部分 ⇒ [#] を読んでから戻ってくるのもよいでしょう。

  3文字の巡回置換群: G=Z3={a1、b1、e}={g2、g4、e}={t1、t2、e} が異なる集合 M (各図形の頂点)に働く様子が次の一覧となります。(この例ではG ⇒Z3

gj ∈ G=Z3 H1/3={g2、g4、e} S1={a1、b1、e} Z3={t1、t2、e}
M =
m = 1、2、3、4、5、6 1、2、3、4 1、2、3
置換表現
g2 123456
561234
a1 1234
1342
t1 123
312
g4= 123456
345612
b1 1234
1423
t2 123
231
e= 123456
123456
e= 1234
1234
e= 123
123
写像の例 g21)=5 a12)=3、b13)=2
b1・a12)=e(2)=2
t11)=3
2のZ3-軌道
Z3(2)=
2、4、6 2、3、4 1、2、3
1のZ3-軌道
Z3(1)=
1、3、5 1 1、2、3

[3] 少し先走ったコメントを追加しておきますが、上の例では M として対称的な図形ばかりを考えてますが、実はこれはあまり数学的に面白い例ではありません。  M として

(1) M = G 自身
(2) M = G の部分集合、{ S1、S2、S3、S4、H }

を考えることで数学的に豊かな内容をもってきます。このことについては、共役類、正規部分群を学ぶときに詳しく説明します[#]

3.固定部分群

[1] 軌道の概念を必要とする基本的な命題を一つ紹介しておきましょう。
  正四面体の部分群:S1の元: s ∈ S1 によって頂点 1 は動きません。つまり s(1)=1。他にも部分群 S2、S3、S4 についてもそれぞれ、頂点 2、3、4 がそれぞれ部分群の働きに対して不動の点となっています。これに関しては次の命題が成り立ちます。

命題:

群 G が集合 M に働いているとき、M の一点 m0∈M を不動にする変換 g∈G の全体からなる集合は G の部分群となる。

この部分群れを固定部分群 Gm0 と呼ぶ。

正四面体群を例にとると、たとえば、頂点1を不動の点とする G の元をすべて集めてきて作った集合:
     S1’={ e、a1、b1
は G の部分群になるというのです↓。

e a1 b1
S1’={ e、a1、b1
m0 = 1 の場合

他の頂点についても同様です。

証明: 任意のg、h ∈Gm0 について、すなわち、任意の g(m0)=m0 、h(m0)=m0 、g-1(m0)=m0 、 h-1(m0)=m0 である g、h について、

(1)[閉じている]
        gh(m0)=g(h(m0))=g(m0)=m0、   ⇔    gh ∈ Gm0  
(2)[逆元の存在]
        g-1(g(m0))=g-1(m0)=m0                 ⇔   g-1 ∈ Gm0     

ことから、Gm0 が G の部分群であることがわかります。

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