107 ハイゼンベルク方程式 
f-denshi.com  更新日:04/04/07
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1.S-表示とH-表示

[1] 前ページの結果[#]より,時刻 t の力学量 A の期待値は,|ψ,0>≡|ψ> という記号を使って,

<ψ,t|A|ψ,t> =<ψ|UAU|ψ>

とユニタリ演算子[#](=時間発展演算子)で表せすことができます。前章までの見方ではこの右辺は,

[<ψ|U]・[A]・[U|ψ>]  ⇔ [状態ケット]・[演算子]・[状態ケット]

のように解釈すべきで,これをシュレーディンガー表示(=S表示)といいます。ところがこのベクトルと行列(=演算子)の計算規則では結合法則がなりたつので,  

[<ψ|]・[UAU]・[|ψ>]  ⇔ [状態ケット]・[演算子]・[状態ケット]

とみることも可能です。このような見方をハイゼンベルク表示(=H表示)といいます。

[2] この見方に基づけば,これまで説明してきた様々な量子力学の記号は次のように読み直す必要があります。

S表示 H表示
演算子(観測量) A UAUAH
状態ケット U(t)|ψ> |ψ>
基底ケット |Ak U|Ak=|Ak,t>
ck(t)の見方 [#] <Ak|・{U(t)|ψ>} {<Ak|U}・|ψ>
固有方程式 A|Ak>=ak|Ak AHU|Ak>=akU|Ak
時間変化量 状態ケット 観測量,(逆向きに)基底
・・・説明略

2.ハイゼンベルクの運動方程式

[1] まず,記号の確認をしておくと,

ASA     ←シュレーディンガー表示の演算子
AHUAU  ←ハイゼンベルク表示の演算子 

U
=exp(−i Ht/h )

このとき,

U =(−i H/h)U ;  および, U U(i H/h)    H H
∂t ∂t

なので,

dAH U AUUA U
 dt ∂t ∂t
     =U(i H/h)AUUA(−iH/h)U

     =(1/ih)(−UHU・UAUUAU・UHU )     U・UE  ( 単位行列 )挿入
         ↓   UHHU を使って
     =(1/ih)(−H・AHAHH )

[2] したがって,ポアッソンのカッコを使えば,

ハイゼンベルクの運動方程式
dAH 1 [AH ,H]      ・・・・・・・・・・・・・・  [*]                
dt ih

これをハイゼンベルクの運動方程式といいます。

このとき,よく使う公式を紹介しておきます。 運動量演算子,位置演算子の関数を F(p),G(r) として,

公式 1

(1) [rj ,F(p)] =   ih ∂F(p)
pj
(2) [pj ,G(r)] = −ih ∂G(r)
rj

[ケース1:自由粒子の場合]

[3] ここで,F(p)として自由粒子のハミルトニアン Hp2/2m=(px2py2pz2)/2m,r=(xyz) を考え,ハイゼンベルクの運動方程式で,AH ⇒ z とすれば,

dz 1 [z ,H] = (p2/2m)= pz                  ・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
dt ih pz m

となります。z が時間依存性をもつハイゼンベルク表示での演算子であることに注意して積分すれば,

z(t) =z(0)+ pz(0)  t
m

これは自由粒子についての 等速直線運動(z成分)を意味しています。また,

[z(t) ,z(0)]=[z(0) ,z(0)]+[pz(0)・t/m,z(0)]
              = -iht/m

なので,「時刻が違えば,同じ位置演算子どうしでもでも交換しない(H表示)」のです[#]。

[ケース2:ポテンシャル V(r) 中の粒子の場合]

[4] ハミルトニアンが

H p2 +V(r)
2m
で与えられるとき,ハイゼンベルクの運動方程式 [*] で,AH ⇒ m dz とし,(1)を用いれば,
dt
d m dz 1 m dz H 1 pz ,H
dt dt ih dt ih

今度は,AH ⇒ pz とし, 公式 1(2) を用いると,( pzp2 は交換することに注意して )

dpz 1 [pz ,H]  = 1 [ pz ,V(r)]=− ∂V(r)   ・・・      (2)
dt ih ih  ∂z

以上の2式を比較して,量子力学版のニュートンの運動方程式と呼ぶべき,

m d2z =− ∂V(r)
dt2  ∂z

3次元ベクトルで書くと
m d2r =−∇V(r)
dt2

が得られます。時間に依存しないハイゼンベルク表示の状態ケット,|ψ>で挟んだ期待値で表せば,

m d2 <ψ|r|ψ>=−<ψ|∇V(r)|ψ>
dt2

これはポテンシャル V(r) の中で運動する粒子の位置の期待値の軌跡が古典粒子の場合と同じことを示しており,エーレンフェストの定理と呼ばれます。

具体的な描像は次ページで調和振動子を例に調べてみます。

[目次へ]


相互作用表示というのもありますがそれは,摂動論のところで ⇒ [#]

H-表示のケットでシュレーディンガー方程式モドキを書くと,符号が反転します。

ih |ψ,t>H=−H|ψ,t>H    ←符号が(−)なのに注意
∂t