230 相互作用表示
f-denshi.com  更新日:

 1.相互作用表示

[1] 時間に陽に依存する解をもつ量子力学の問題で,シュレーディンガー方程式,

ih |ψ,t>sH|ψ,t>s                    ・・・・・ [0]
∂t

のハミルトニアン H が2つの部分に,

(1) HH0V(t)   : H0 は時間を陽には含まない

と分けることが可能で,V(t)=0 のときにあたるハミルトニアンの主要部分, H0 に関する問題の厳密解がわかっている,すなわち,固有方程式,

(2) H0|n>=εn|n> 

を満足する固有ケットと対応する固有値,

固有ケット:  |1>,|2>,・・・,|n>,・・・   ← 完全正規直交系でもある

固有値:     ε1 , ε2 , ・・・,  n ,・・・・

はすでにわかっている場合を考えます。

[2] V(t) = 0 のときは,はじめに |n> にあった状態は,

|n>   ⇒   e-iH0t/h|n>   [ 定常状態の時間発展 ]

にしたがってその固有状態の時間発展が記述されましたが[#]V(t)≠0 のときの時間発展はこの式で,H0H としただけの式,

|n> ⇒ e-iHt/h|n>  ×

によって与えられる というわけではありません。 というのは,はじめ|n>にあった状態は,V(t) によって時間が経つにつれて, k≠n である状態 |k> に遷移していく可能性があるので,|n>しか現れないこの表現は明らかに間違っています。  

そこで,量子状態の時間展開を議論するために次のような形に状態関数で表現することを考えましょう。

(1) はじめの時刻 t=0 において,状態ケットが,

|ψ>= cn(0)|n>                         ・・・・・  [1] 

にあったとする。 

(2) この状態が時間 t だけ経過した後に,

|ψ>= cn(t)e-iεnt/h|n>       ・・・・・  [2] 

へ変化したとして,cn(t) を決定する。

ここで,[2]のようにおく理由は,e-iεnt/h の項は V(t) が存在しないときにも存在する状態ケットの時間依存性 なので,「 (A) V(t) ⇒ 0  のときと整合性がうまくこと,(B) V(t)≠0 が付加されたために起きる状態ケットの修正はすべて,cn(t)に含まれている。」 と表現できるからです。

[3] この問題を解くためにはもう一つ技巧が必要となります。 H0 の時間推進のユニタリ演算子を,

U0=exp(−i H0t/h

と書き,そして,相互作用表示と呼ぶ,状態ケット|ψ,t>I と演算子 AI を,

相互作用表示の定義

|ψ,t>I ≡ U0|ψ,t>s [ 状態ケット ]       ・・・[*]      
        A
I    ≡ U0AU0        [観測量の 演算子 ]       ・・・[**]      

と定義します。ここで,|ψ,t>sはシュレーディンガー表示における状態ケットです。特に A→V すれば, 

VI   =  U0VU0

であることにも注意してください。 ここで,  ih ・|ψ,t>I の時間に関する微分を取ると,

ih |ψ,t>I =   ih exp(i H0t/h )|ψ,t>s
∂t ∂t
= −H0 exp(i H0t/h )|ψ,t>s + exp(i H0t/h ){ ih |ψ,t>s
∂t
                                                       [0]より
= −H0 exp(i H0t/h )|ψ,t>s + exp(i H0t/h ){ H |ψ,t>s

=       exp(i H0t/hV|ψ,t>s              HH0V

=       exp(i H0t/hV exp(-i H0t/h )・ exp(i H0t/h )|ψ,t>s

 VI|ψ,t>I

すなわち,

ih |ψ,t>I  = VI|ψ,t>I    シュレーディンガー方程式モドキ
∂t

一方,演算子を時間で微分すると,

dAI  = 1 AIH0 ]  ハイゼンベルク方程式モドキ
dt ih

も得られます。つまり,相互作用表示で

(1)状態ケットは,VI によって時間発展し,
(2)観測量は,   H0 によって時間発展する

ということができます。


上の説明では天下り的に相互作用表示を導入しましたが,演算子A によって得られる観測量の期待値は,V が時間の関数でない場合を考えると,U0≡exp(−i H0t/h ),および,Uv ≡exp(−i Vt/h ),U≡exp(−i Ht/h )=U0Uv として,

<ψ,t|A|ψ,t> = <ψ,t|UUAUU|ψ,t>    
                           = <ψ,t|U0UvUv・(U0AU0)・UvUvU0|ψ,t>
                            = <ψ,t|U0   ・     (U0AU0)     ・    U0|ψ,t>
              =       I<ψ,t|          AI          |ψ,t>I

のような計算ができることから相互作用表示が何でうまくいくのか(便利なのか)推察できます。

シュレーディンガー表示,ハイゼンベルク表示,相互作用表示をまとめると次のようになります。

S 表示 H 表示 I 表示
演算子 A UAUAH U0AU0AI
状態ケット U|ψ>=|ψ,t> |ψ>

U0|ψ,t>=Uv|ψ> =|ψ,t>I

基底ケット |Ak U|Ak=|Ak,t> |ak
ck(t)の見方 <Ak|・{ U|ψ>} {<AkU}・|ψ> <ak|・{ Uv|ψ>}
固有方程式 A|Ak> = ak|Ak AHiU|Ak> = akU|Ak H0|ak>=εk|ak> 
時間変化量 状態ケット 観測量,(逆向きに)基底
運動方程式 -
dAH  = 1 AHH
dt ih
dAI  = 1 AIH0
dt ih
運動方程式
ih |ψ,t>=H|ψ,t>
∂t
-
ih |ψ,t>IVI|ψ,t>I
∂t

2.cn(t)の満たすべき連立微分方程式

{|n>}を [#] 正規直交基底にとり,相互作用表示の状態ケットを次のように展開したとします。

|ψ,t>I cn(t)|n>

もちろん,<n|を左からかければ,

cn(t)= <n|ψ,t>I  

一方,シュレーディンガー方程式モドキ,

ih |ψ,t>I  = VI|ψ,t>I    
∂t

に<n|をかけて,

ih <n|ψ,t>I    = <n|VI|ψ,t>I 
∂t
<n|exp(i H0t/hV exp(-i H0t/h )|m><m|ψ,t>I  

I<n|V |m> ・ e-i(εn−εm)t/h・ <m|ψ,t>I  

Vnm・e-iωnmt・cm(t)

ただし,

Vnm = <n|V |m>,  ωnm εn−εm
h

とおきました。 結局,cn(t)を与える微分方程式が,

ih cn(t) = Vnm・e-iωnmt・cm(t)
∂t

であることがわかります。

[目次へ]