7-1 押し出し・引き戻し
f-denshi.com   [目次へ] 最終更新日:22/05/10      校正中  
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1.押し出しと引き戻し

[1]  同次元の多様体 M から N への C級微分同相写像をφとし,M上のベクトル場を X とする。このとき,

*X)φ(p) ≡ (dφ)p(Xp) =Xφ(p) (=Xq) (p∈M) ・・・(1)

によって定義されるN上のベクトル場を X の押し出しと呼び,φ*X と表す。

一方,N から  R への C級関数 f に対して定義される

*f)(p)≡f(φ(p))=fοφ(p)       (p∈M)   ・・・(2)
φ*f ≡ fοφ

を f のφによる引き戻しと呼び,φ*f と表します。ここで,φはMからNへの写像で,引き戻しによって,N上の関数M上の関数に変換されています。

さらに,Nの1次微分形式ωに対して,Mの1次微分形式

φ*ω(Xp)≡ωφ(p)( (dφ)p(Xp) )
      =(ωφ(p)ο(dφ)p)(Xp)  (Xp∈TM(M))  ・・・(3)
φ*ω ≡ ωφ(p)ο(dφ)p

をωのφによる引き戻しと呼び,φ*ω ( ={ ωφ(p)ο(dφ)p}p∈M ) と表します。

[2]  多様体上の接空間,余接空間,ベクトル場,微分形式,押し出し,引き戻しを下図にまとめました。

 引き戻しφ* は微分同相写像

[3] XをM上のベクトル場,φを Mから Nへの写像,f を N上の関数として,


公式1

X(φ*f)=φ*(*X)(f))                ・・・(4)

左辺: 関数 f をMに引き戻して Xを作用させる 
    ⇔ 右辺: N へ押し出したX を f 作用させてから,それをMに引き戻す

証明     

(Xf)(p)=Xp(f) を用いて,

左辺 (p)=(X(φ*f))(p)
      ↓ (Xh)(p)=Xp(h)     h≡φ*f  
   =Xp*f) 
              (2)を用いて(φ*f)=f oφ    
   =Xp(f oφ)
   =(d(f oφ))p(Xp)
   =(df)φ(p) o(dφ)p(Xp)
      ↓ (dφ)p(Xp)=Xφ(p)=Xq   ,q=φ(p)
   =(df)q(Xq)
   =Xq(f)
   =((dφ)p(Xp)) (f)  ⇔ Xq(f)
             ↓ (1)押し出しを用いて
   =(φ*X)φ(p)(f)
      ↓ Xp(f)=(Xf)(p)   X→(φ*X),p→φ(p)とみなす
   =(*X)(f)) (φ(p))
       引き戻しを用いて,(*X)(f))(2)の f とみなす
   =(φ*(*X)(f)))(p)
   =右辺 (p)


 

[4] 


公式2

(1) (ψoφ)*ω = φ**ω)

(2) φ*(jωj) = *j)(φ*ωj)

(3) φ*(df) = d(φ*f)  

(3) N上の関数 f の全微分(df) を M上に引き戻す
     ⇔   N上の関数 f を引き戻し関数の全微分をとる

次ページで述べる外微分と同一視すれば,外微分 d と引き戻し * は可換と考えてもよい。 ⇒ [#]

証明

(1)  (3) 繰り返し用いて,

((ψoφ)*ω)(Xp) =(ω(ψοφ)(p)οd(ψοφ)p )(Xp)
          =(ω(ψοφ)(p)ο((dψ)φ(p)ο(dφ)p )) (Xp)
                      =((ω(ψοφ)(p)ο(dψ)φ(p))ο(dφ)p )(Xp)
          =(ψ*ω)φ(p)ο(dφ)p (Xp)
          =φ**ω) (Xp)

(2)   fk をC級関数,ωをC級1次微分形式とすると

φ*(ωk)(Xp)
         冒頭の(3) 式より
      =(jωj)φ(p) ((dφ)p(Xp))
             =j(φ(p)) (ωj)φ(p)  ((dφ)p(Xp))
                  (2) & (3) より
      =*j)(p)  (φ*ωj)(Xp)

(3) (3)より

(df)φ(p)((dφ)p(Xp))=(φ*(df)p)(Xp) 

一方,合成写像の微分の公式 [#] を用いて,

(df)φ(p)((dφ)p(Xp))=(d(fοφ))p(Xp)=(d(φ*f)p)(Xp)
                     



2.テンソル場の引き戻し

[1]  局所座標表示

m次元多様体 M の座標近傍を (U;x1,x2,…,xm),n次元多様体 N の座標近傍を (V;y1,y2,…,yn) とし,M から N への C級写像をφ,φ(U)⊂V とします。また,φの局所座標表示が

 y1 = φ1(x1,x2,…,xm)
     …  
 y = φj(x1,x2,…,xm)     ・・・・ [*]
     …  
 yn =φn (x1,x2,…,xm)

で与えられるとします。

このとき,N上の1次微分形式の Vの局所座標表示を

ω=fjdyj          (5)     

ただし,fj = fj(y1,y2,…,yn)

そのM上への引き戻しのUの局所座標表示を

φ*ω=gkdxk       (6)

とするとき,fj と gk との関係を求めましょう。

(5) を引き戻すと,公式2-(2)より,

φ*ω=*fj)(φ*(dyj))

ただし,φ*fj = fj1(x1,x2,…,xm),…,φn (x1,x2,…,xm))

ここで,公式2-(3)より,

φ*(dyj)=d(φ*yj)=dφj(x1,x2,…,xm)= ∂φj dxk
∂xk

と書き直せるので,

φ*ω=*fj)(dφj)
    = *fj) ∂φj dxk  ( =gkdxk ) 
∂xk

すなわち,

gk *fj) ∂φj
∂xk

これがN上の1次微分形式 ω=fjdyj をφで引き戻したときの M上の局所座標表示です。

n=2,m=3 の場合

ω=f1(y1,y2)dy1+f2(y1,y2)dy2

y1 = φ1(x1,x2,x3) ,y2 = φ2(x1,x2,x3)

をφで引き戻すと,

φ*ω=f11(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3)) dφ1(x1,x2,x3)
            +f21(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3)) dφ2(x1,x2,x3)
   =F1 ∂φ1 dx1 ∂φ1 dx2 ∂φ1 dx3
∂x1 ∂x2 ∂x3
     +F2 ∂φ2 dx1 ∂φ2 dx2 ∂φ2 dx3
∂x1 ∂x2 ∂x3
   = F1 ∂φ1 F2 ∂φ2 dx1 F1 ∂φ1 F2 ∂φ2 dx2
∂x1 ∂x1 ∂x2 ∂x2
                          + F1 ∂φ1 F2 ∂φ2 dx3
∂x3 ∂x3

ただし,F1 = f11(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3)),F2 = f21(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3))
     


定義  k次テンソル場の引き戻し

M,N を C級多様体,φ:M→N を C級写像,ωを N上の C級 k次テンソル場とするとき,M上の k次テンソル場 φ*ω,

*ω)(X1,…,Xk)=ωφ(p)((dφ)p(X1),(dφ)p(X2),…,(dφ)p(Xk)) ; p∈M

ωのφによる引き戻しという。

ここで,φの微分は

(dφ)p : Tp(M) →Tφ(p)(N)      ( p∈M )

であり, Xj ∈Tp(M) です。

このとき,

oφ)*ω=φ**ω)

が成り立つのは1次微分形式のときと同様です。

例     局所座標での計算

n=2,m=3 の場合のN上の2次微分形式,(各局所座標は本文中と同じ)

ω = f12 dy1Λdy2           (8) 
ただし,f12 = f12(y1,y2) ; 
      y1 = φ1(x1,x2,x3) ,y2 = φ2(x1,x2,x3)

とするとき,φによるωのM上への引き戻しは,

φ*ω=f121(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3)) dφ1(x1,x2,x3)Λdφ2(x1,x2,x3)

とかける。さらに,

F12 ∂φ1 dx1 ∂φ1 dx2 ∂φ1 dx3 Λ ∂φ2 dx1 ∂φ2 dx2 ∂φ2 dx3
∂x1 ∂x2 ∂x3 ∂x1 ∂x2 ∂x3
F12 ∂φ1 ∂φ2 ∂φ1 ∂φ2 dx1Λdx2
∂x1 ∂x2 ∂x2 ∂x1
     +F12 ∂φ1 ∂φ2 ∂φ1 ∂φ2 dx2Λdx3
∂x2 ∂x3 ∂x3 ∂x2
          +F12 ∂φ1 ∂φ2 ∂φ1 ∂φ2 dx1Λdx3
∂x1 ∂x3 ∂x3 ∂x1

ただし,F12=φ*f12(y1,y2) = f121(x1,x2,x3),φ2(x1,x2,x3))

公式

M,N をC級多様体,φ: M→N を C級写像,ω,ηを N上の微分形式とするとき,

φ*(ηΛω)=(φ*η)Λ(φ*ω)

証明 略



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