4 多様体上の微分
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1.Cr級写像 f : M → N の微分

[1] Cr級の m次元多様体 M から n次元多様体 N  への写像,

f : M → N     

を Cr級写像とします。

M上のCr級曲線 c(t):(-ε,ε)→ M,および,写像 f  によって写された N上の曲線

fοc(t) : (-ε,ε)→ N,

ただし,

c(t)  =( x1(t),x2(t),…xm(t) )
fοc(t) =( y1(t),y2(t),…yn(t) )
    =( f1(x1(t),x2(t),…xm(t)), f2(x1(t),x2(t),…xm(t)),
                 ・・・  ,fn(x1(t),x2(t),…xm(t)) )

は  t=tp において,

c(tp)  =p    
fοc(tp)=q

を満たすとします。

ここで,p を含む座標近傍は (Ux,x1,x2,…,xm) ,q を含む座標近傍を(Uy,y1,y2,…,ym) とし,写像 f の局所座標表示は,

y1 =f1(x1,x2,…,xm)
y2 =f2(x1,x2,…,xm)
   …  
yn =fn (x1,x2,…,xm)
           ・・・ (3)

としています。

[2] この表記の下で次の命題です。

命題  速度ベクトル [#] 間の写像 

対応する M上,N上の速度ベクトルをそれぞれ, ( q=f(p) として )

dc(t) tp =u1 p +u2 p …+um p ∈Tp(M)
d t ∂x1 ∂x2 ∂xm
  d(fοc(t)) tp =w1 q +w2 q …+wn q ∈Tq(N)
d t ∂y1 ∂y2 ∂yn

と係数の組,u1,u2,…,um および,w1,w2,…,wn を用いて書くとき,これら係数の間には,

wj ∂fj (p) uk    ・・・ [*] 
∂xk

という関係がある。行列を用いて書くと,

w1
wn
∂f1 (p) ∂f1 (p) ∂f1 (p)
∂x1 ∂x2 ∂xm
u1
um
  … [*] ’
∂fn (p) ∂fn (p) ∂fn (p)
∂x1 ∂x2 ∂xm

なお,この行列を写像 f のヤコビ行列といい,(Jf)p と書く。
(初等解析学の積分変数の変換の式 [#] と同形,
教科書によっては行と列を入れ換えて記述することもある。)

uk dxk (tp) , wk dyk (tp)   と対応している。
dt dt

[*] の証明     

wj q        = d( fοc(t)) tp [N上の速度ベクトル]
∂yj d t
↓   前ページの速度ベクトル[☆☆]式同様 [#]
dyj (tp) q
dt ∂yj
  ↓   (3) 式より
d fj (x1(t),x2(t),…,xm(t)) (tp) q
dt ∂yj
∂fj (p) dxk (tp) q
∂xk d t ∂yj
  ↓   前ページの[☆☆]式 [#]
∂fj (p) uk q
∂xk ∂yj
wj

この式と最初と最後を比較して,

wj ∂fj (p) uk    ・・・ [*] 
∂xk

[3]

命題

多様体M上の接ベクトル空間 Tp(M) に属する任意のベクトルu に対して,p を通る Cr級曲線
c(t): (-ε,ε)→ M  ; c(tp)=p

が存在して,

dc(t) tp u
d t
となる。言い換えると,M上の任意の点 p における任意の接線ベクトルに等しくなるような,速度ベクトルをもつ曲線 c が必ず存在する。

具体的には,任意のベクトルが,

u=u1 p +u2 p …+um p ∈Tp(M)
∂x1 ∂x2 ∂xm

および,p の局所座標を (p1,p2,…,pm) であれば,

c(t)= (p1+u1t,p2+u2t,…,pm+umt)

とすればよいことが分かります。

[4] これらの2つの命題から次のように微分を定義することができます。

定義  微分

接ベクトル空間 Tp(M) の元を接ベクトル空間 Tf(p)(N) の元に対応させる線形写像を,
(df)p:  u dc(t) tp → w d( fοc(t)) tp
d t d t
∈Tp(M) ∈Tf(p)(N)

と書いて,p における写像 f : M → N の微分と呼び,(df)p と書く。

(df)p の行列表現が [*] ’で示したヤコビアン(Jf)p である。

すると,[*]’ 式を用いて,

w(df)p(u )
w1
wn
 = (Jf)p
u1
um
ヤコビ行列で表記

と成分で記述することができます。

特に,u が Tp(M) の基底をなす r 番目のベクトル p であるとき,
∂xr
wj ∂fj (p)  
∂xr

であるから,( [*]’で,uk=1 (k=r),uk=0 (k≠r) とする。)

w = w1 q +w2 q …+wn q
∂y1 ∂y2 ∂yn
  = ∂fj (p) q
∂xr ∂yj

[5] したがって,次の公式が得られます。

公式1

Cr級多様体 M から Cr級多様体 N への写像 f の局所座標表示が

y1 =f1(x1,x2,…,xm)
   …  
yn =fn (x1,x2,…,xm)
であるとき,
(df)p p ∂fj (p) q       ・・・ (4)  
∂xr ∂xr ∂yj

が成り立つ。

このように表記すれば,(df)p が f の微分と呼ばれる理由に納得がいきますね。



[6] いくつか公式を列挙します。

公式2

Cr級多様体 M から Cr級多様体 N への写像を f とする。p∈M における任意の接ベクトル u ∈Tp(M) と f(p) ∈N の周りで定義された Cr級関数 h について,

u (hοf)=[(df)p(u)] (h)

が成り立つ。

この公式の意味は下図を参考にしてください。



u ,および,(df)p(u) を汎関数(方向微分作用素(演算子))とみなして,
左辺は,h
οf に,右辺は h に作用させている。)

証明

dc(t) tp u とすると [#] ,
d t

微分の定義 [#] から

(df)p (u)=  d(f οc(t)) tp
d t

一方,前ページの速度ベクトルの定義 [**]より [#]

u (h)= d h(c(t)) tp d c(t) tp (h)  (2)
d t dt

と表せる。この2式を用いて,

[(df)p (u)](h) =  d (f ο c(t)) tp (h)
d t
d h(fοc(t)) tp d (hοfοc(t)) tp
dt dt
d (h οf) (c(t)) tp
dt
=  d c(t) tp (h οf)
d t
  ↓ (2)
u (hοf)         


[7] 多様体 M,N のいずれかが1次元の場合の公式は次のとおりです。

公式3

(1) f : Rm→R ; Tp(Rm)→Tf(p)(R)  (Rの局所座標を y とする)

(df)p(u)=u (f) d f(p)
dy

(2) c : R→Rm ; Tt(R)→Tc(t)(Rm)   
    c(t) =( x1(t),x2(t),…xm(t) )  (Rの局所座標を t とする)

(dc)t d t dxk (t) c(t)
dt dt ∂xk

が成り立つ。

証明

(1) N が1次元の場合です。

u uk p
∂xk

とすると,このベクトルが前ページ [#]

vc( f ) = dxk (tp) ∂f ( p )    ・・・   [☆] 
dt ∂xk

と同様な関係が成り立つことをから,

u (f) = dxk (tp) ∂f ( p ) = uk ∂f ( p )
dt ∂xk ∂xk

が成り立っている。これらを用いると,

(df)p(u) = (df)p uk p
∂xk
    ↓ 線形性
   = uk (df)p p
∂xk
    ↓ 公式1 で,Σの和を j =1のみ(1次元)とし,
               fj→f ,yj→y ,q→f(p) と書く
   = uk ∂f (p) d f(p)
∂xk dy
   = uk ∂f (p) d f(p)
∂xk dy
   = u (f) d f(p)    ←Rの局所座標が t  
dy
f の方向微分 基底

と変形することができる。

左辺のu =点 p の接ベクトル
   ↓ の微分 (df) をとったものは, 
右辺のu =fの方向微分×(Rの基底)に等しい。

という意味になっています。

(2)  M が1次元の場合です。 ←関数 c は N 上に曲線を与えています。

c : R→Rm ; Tt(R)→Tc(t)(Rm),c(t)=( x1(t),x2(t),…xm(t) )

ということで,公式1

(df)p p ∂fj (p) q    ・・・ (4)  
∂xr ∂xr ∂yj

において,xr → t (=p点に相当), yj = fj (x1,x2,…,xm) → xk = xk (t),q = f(p) → c(t) と置き換えると,

(dc)t d t dxk (t) c(t)  ( =vc  [#] )
dt dt ∂xk

この式の意味は,微分 (dc)t によって,

Rの速度ベクトル (基底) を, Rm の曲線 c上の速度ベクトル [#] に写している

ことが分かります。

[8]

公式4  合成写像の微分

M,N,Q を Cr級多様体とする。また,f : M → N, g : N → Q を Cr級写像とするとき,

(d(g οf))p= (dg)f(p) ο (df)p

が成り立つ。行列で表すと,

J(g οf)p=(Jg)f(p) (Jf)p


上図を参考にして,

(d(g οf))p(u)= (dg)f(p) [(df)p(u)]

を示せばよい。



2. 微分同相写像の性質

[1] 微分同相写像 f の定義はすでに述べています [#] が,多様体の一点 p の近傍についてだけであれば,次の条件を満たせば,微分同相写像であることが分かります。

命題  微分同相写像

(1) f が全単射               同相写像

(2) (Jf)p が正則行列  ;   U 〜 f(U) 微分同相

のとき,p の近傍で局所的に微分同相写像である。

(1)

[2]

補題:

(1) 多様体 M において,M,Tp(M) の恒等写像をそれぞれ IMITp(M) とするとき,

(d (IM))pITp(M)

が成り立つ。


証明

(1) f が恒等写像ならば,f(p)=p であり,局所座標表示で,yj=fj(x1,x2,…,x)=xj が(4)式

(df)p p ∂fj (p) q    ・・・ (4)  
∂xr ∂xr ∂yj

で成り立つ。すなわち,

(d IM)p p ∂xj (p) f(p)      
∂xr ∂xr ∂xj
              = p      
∂xr

これより,X ∈Tp(M)に対して,

(d (IM))p(X)=XITp(M)(X)

[3]

命題: f: M → N がCr級微分同相写像ならば,任意の p∈M について,
(df)p: Tp(M) → Tf(p)(N)
は同型写像であって,
(df)p-1=(df-1)f(p)
ここで,左辺は同型写像 (df)p:Tp(M)→Tf(p)(N) の逆写像。右辺は f の逆写像 f-1:N→M の f(p) における微分

証明

合成写像の微分に関する公式 [#] より

(df-1)f(p)ο(df)p=d(f-1οf)p=d(IM)p=ITp(M)
(df)pο (df-1)f(p)=d(fοf-1)f(p)=ITf(p)(N)

を (df-1)f(p) が (df)p の逆写像 (df)p-1 であることを確かめることができる。


[5] 結局,次の命題が重要です。

命題: 微分同相による次元の不変性

Cr級微分同相写像 f : M → N が存在すれば,

dim M=dim N

である。



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命題:

(1) m次元多様体Mの局所座標系を固定して,写像f:M→Mを考えるとき,

J(iM)=Em [m次正方行列]

である。

(2) f:M → N がCr級微分同相写像,p∈M,f(p)∈N の周りの局所座標系を固定すれば,(Jf)pの逆行列は,
(Jf)p-1=(Jf-1)f(p)