6-2 微分形式
f-denshi.com    [目次へ] 最終更新日:22/04/24   校正中  
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前ページでは1次微分形式について述べましたが,ここでは,2次以上の形式・微分形式について説明します。ベクトル空間の直積に対応する双対空間の直積へと形式的に拡張していきますが,注意すべき点は微分形式というときはその部分空間である交代形式に基づいて定義します。

1.k次テンソル場

[1]

定義

V上の k次形式 とは,ベクトル空間V の k個の直積から実数へのk重線形関数 ω

ω:  V×V×…×V → R
     ↑ V が k 個

のことであって,Xj∈V ,j = 1,2,…,k とすれば次のように表記され,

ω(X1,X2,…,Xk)

各 Xj に対して線形性を示すこととする。すなわち,

ω(X1,…,aXj+bYj,…,Xk)
   =aω(X1,…,Xj,…,Xk)+bω(X1,…,Yj,…,Xk)

という関係式が,Xj,Yj∈V,a,b∈R ; j =1,2,…,k について成り立つ。

V上の k次形式(の全体集合) を, kV* と表す。

( V* は V の双対空間 )

kV* に対しては次の定理が成り立ちます。

定理

kV* は R上のベクトル空間となる。

ω,ηkV* ,a,b∈R とすれば,スカラー倍,ベクトル和は次式を満たすように定義すればよいことが分かります。

(aω+bη)(X1,…,Xk) = aω(X1,…,Xk)+bη(X1,…,Xk)

これは,初等的線形関数で学んだときと同様な双対性 [#] から容易に類推,証明できます。

具体例として,任意のk個の1次形式,ω1ω2,…,ωk ∈ V*テンソル積

ω1ω2ωk

kV上の関数として,

(ω1ω2ωk )(X1,…,Xk)≡ω1(X1)ω2(X2)…ωk(Xk)
ただし,Xj∈V

と定義すれば,これはk次形式となります。

以上は線形関数から多重線形関数への拡張ですが,Vは多様体Mの接ベクトル空間Tp(M)として考えることもできて,p を多様体上の任意の点と考えれば,ベクトル場にこの定義を導入することも可能です。

[2]

定理

Vの基底をe1e2,・・・,em ,双対基底(V*の基底)をe1e2,・・・,em  ←添え字が上 とするとき,べクトル空間 kV* の基底は,

es1es2・・・esm  ;  各 sj は1〜m のいずれか

で与えられ,次元は,

dim kV* =mk

である。

これは線形代数入門のところで説明している V*×…×V* のテンソルの基底の話と同じ [#] です。

具体例で示すと,3次元ベクトル空間 V 上の2次形式,2V* の基底は,

e1e1e1e2e1e3
e2e1e2e2e2e3
e3e1e3e2e3e3   ←添え字が上

の 32=9 個の基底ベクトルからなる9次元ベクトル空間となります。

そして,この双対空間の任意の元は,

ω ast eset     ast∈R

で与えられます。

[3]

定義

多様体 M上の各点 p に k次形式 kTp*(M) の元 ωp を対応,

ω={ωp}p∈M

を M上の k次テンソル場 という。



[4]  k次テンソル場 {ωp}p∈M の局所座標表示

多様体 M の座標近傍 [#] の一つを (U;x1,…,xm) とするとき,

(dxs1)p(dxs2)p(dxsk)p  

  各 sj は1〜mのいずれか

がMの各点pにおける2次形式の基底となります。そして,添え字p を取り去れば,k次テンソル場の基底となります。

 

3次元ベクトル空間のとき,M上の2次テンソル場の p ∈Mにおける2次形式の局所表示は,基底,

(dx1)p(dx1)p , (dx1)p(dx2)p , (dx1)p(dx3)p
(dx2)p(dx1)p , (dx2)p(dx2)p , (dx2)p(dx3)p
(dx3)p(dx1)p , (dx3)p(dx2)p , (dx3)p(dx3)p

を用いて,

ωp ast (dxs)p(dxt)p       ast∈R

と書かれます。

[6]  さらに,極座標表示を用いた多様体の各p に対してωpを対応させるk次テンソル場を考えることができますが,そのとき,p によって,座標近傍も変わってくること,また,astも座標近傍に依存することを考慮すると,ast は局所座標の関数となることが分かります。そして,ast のその局所座標による微分可能性の程度によって,つまり,astが p が各点でCr級関数であるとき,k次テンソル場ωはCrであると定義します。

これを一般化して述べると次のようになります。

定義

m次元Cr級多様体 M上の各点 に ,C級座標近傍系S [#] が与えられているとする。

そのとき,Sの任意の座標近傍によって,M上のk次テンソル場ωを局所座標表示したときの成分 a がすべて,(m変数の) Cr級関数となるとき,M上のk次テンソル場ωはCrであるいう。


2.交代形式と高次微分形式

[1]  1.の話は k次形式の集合 (ベクトル空間) の一般論でしたが,ここからはその部分空間について考えていきます。

例えば,2次形式,双線形関数としての ω(X1,X2) の中には,2つの2次元ベクトル X1=(x11,x12),X2=(x21,x22) からその内積を返す,

ω(X1,X2)= ω(X2,X1)   =x11x21+x12x22

というような対称性を示すものがある一方で,

ω(X1,X2)= −ω(X2,X1) = x11x22−x12x21

のような交代性を持つものがあります。

これらをベクトル空間の3次元以上に一般化すると,

Sk: k文字の対称群  ⇒参考⇒ [#]

σ= 1 2 k
σ(1) σ(2) σ(k)
sgnσ=  1 (σが偶置換)
-1 (σが奇置換)

を用いて,

k次対称形式 (対称k次形式?)

ω(Xσ(1),Xσ(2),…,Xσ(k)) = ω(X1,X2,…,Xk)      …[*]

k次交代形式 (交代k次形式?)

ω(Xσ(1),Xσ(2),…,Xσ(k)) = sgnσ ω(X1,X2,…,Xk) …[**]

を定義することができます。これらはk次形式全体からなるベクトル空間 kV* の部分空間となっていることは容易に分かります。

[2] さらに多様体M上の任意の点p で,[*],または,[**]式の関係が成立(存在)するとき,

 ω={ωp}p∈M 

をそれぞれ,k次対称テンソル場,もしくは,k次交代テンソル場と呼ぶことにします。

すなわち,k次形式 (多重線形写像 , k≧2) を次のように分類することができます。

k次形式 = k次対称形式 k次対称テンソル場 
k次交代形式 k次交代テンソル場 = k次微分形式
その他 k次形式 その他 k次テンソル場

 ⇒ の右には対応するテンソル場の名称を示しています。

[3]  以後,V上の交代 k次形式の全体集合を,

 ΛkV* 

と表すこととします。

 k次交代形式の具体例

行列式 det A =|x1x2xk|,xj∈V

ω: (x1,x2…,xk) → det|A|∈R 

 k個の1次形式,ω1,・・・,ωk∈V* の外積から作ったk次交代形式 ω1Λ・・・Λωk のベクトル場,X1,X2,…,Xkへの作用は,

1Λ・・・Λωk)(X1,X2,…,Xk )= ω1 (X1) ω1(X2) ω1(Xk)  
ω2(X1) ω2(X2) ω2(Xk)
: :: :
ωk(X1) ωk(X2) ωk(Xk)

と表されることは行列式の性質から確かめることができます。



[4]

定理

k次交代形式の全体集合 ΛkV* の基底は,

es1Λes2Λ・・・Λesk   
ただし,s1 <s2<・・・<sk で,それぞれ 1〜m のいずれか

で与えられる。 (0≦ k ≦m )

 このとき,

es1Λ・・・Λesk (et1,…,etk)= 1   (et1,…,etkes1,…,esk )
0   (et1,…,etkes1,…,esk )

が成り立つ。

(多くの教科書では, esj ではなく,ωsj のような記号を用いますが,ここでは,記号の重複を避けるためにesj のように表記します。なお,局所座標系を利用するときは,慣例通り (dxj)p と書くので,この記法でも混乱しないと思います。 定理の後半はベクトル空間と双対空間に見いだされる直交関係と同じです。⇒[#] )

定理のイメージが湧かない人は次の具体例を見てから読み直すとよいでしょう。

・ 3次元ベクトル空間 V 上の交代2次形式 Λ2V* の基底は

e1Λe2e1Λe3e2Λe3

・ 交代1次形式Λ1V* の基底は,

e1e2e3

・ 交代3次形式Λ3V* の基底は,

e1Λe2Λe3

となります。

また,ベクトルの定数項に相当するのは,0次形式Λ0V* であって,基底は 1 と考えます。

4次元ベクとトル空間の3次交代形式の基底は,

e1Λe2Λe3 ,e1Λe2Λe4, e1Λe3Λe4, e2Λe3Λe4

である。

m次元ベクトル空間の交代 k次形式の次元は,組み合わせ mCk の個数であることも分かりますね。

[5]  以上で準備が整ったので,k次微分形式の定義を示します。

定義  k次微分形式

C級多様体 M のテンソル場 ω={ω}p∈M が M のすべての点 p において T*p(M) のk次交代形式であるとき,すなわち,k次交代テンソル場であるとき,k次微分形式という。

また,M上のC級のk次微分形式全体の集合を Ωk(M) と表す。


[6] 微分形式の局所座標表示について念のため書いておきます。

m次元多様体の座標近傍を ( U,x1,x2,…,xm ) とするとき,Tp*(M) の基底は,(dx1)p,(dx2)p,…,(dxm)p であるから,

(dxs1)pΛ(dxs2)pΛ…Λ(dxsk)p  ; 各 sj は 1〜m のいずれか

が Mの各点p におけるk次交代形式の基底の局所座標表示となります。

したがって,任意のk次交代形式は,as1s2…sk∈R として,

ωp
Σ
s1<s2<…<sk
as1s2…sk (dxs1)pΛ(dxs2)pΛ…Λ(dxsk)p 

と一意的に局所座標表示されます。

これを,k次微分形式の局所表示とするには,上の表記から添え字 p を落として,さらに as1s2…sk を p の関数とみなせばよいだけです。

ω=
Σ
s1<s2<…<sk
as1s2…sk dxs1Λdxs2Λ…Λdxsk 





3.外積

[1]  2つの交代形式の間,または2つの微分形式の間には,外積と呼ばれる積を定義することができます。

定義   交代形式の外積 

ベクトル空間 V上の k次交代形式ωと r次交代形式ηとの外積とは,次の(k+r)次交代形式ωΛηへの対応をいう。

  ωΛη(X1,…,Xk)=
    1
Σ
σ∈Sk+r
ε(σ)ω(Xσ(1),…,Xσ(k))η(Xσ(k+1),…,Xσ(k+r))
k! r!

ただし,

ω∈ΛkV*, η∈ΛrV*, ωΛη∈Λk+rV*
   ( V* はベクトル空間V の双対空間 )
Xj∈V
Sk+r : (k+r) 文字の対称群で,Σはその元すべてについて和をとる。
とする。

[2]  ωを1次(交代)形式,ηを2次交代形式として,外積を計算すると,

ωΛη(X1,X2,X3) = 1 ω(X1)η(X2,X3)−ω(X1)η(X3,X2)
1! 2!

                   −ω(X2)η(X1,X3)+ω(X2)η(X3,X1)

                   +ω(X3)η(X2,X1)−ω(X3)η(X1,X2)

             =ω(X1)η(X2,X3)−ω(X2)η(X1,X3)+ω(X3)η(X2,X1)

となります。 定義において,1/k! r! を係数に付ける意味がこの例から分かると思います。すなわち,交代性を考慮して,項の数を最小にまとめたとき,倍数 k! r! が付かないようしているのです。


[3]  上の定義において,ω,η,ωΛηをM上の微分形式と読み替える,すなわち,

ω∈ΛkV*          ⇒    ω∈Λk T*p(m)
η∈ΛrV*      ⇒     η∈Λr T*p(m)
ωΛη∈Λk+rV*  ⇒  ωΛη∈Λk+r T*p(m)

と考えれば,微分形式の外積の定義と考えることができます。

[4] 「局所座標を用いた具体的な外積の計算例も見ておきます。

3次元多様体上のωを1次微分形式,ηを2次微分形式で,

ω=adx1+bdx2+cdx3 
η=edx1Λdx2+fdx1Λdx3+gdx2Λdx3 

と表します。ここで,ωとηの外積は,基底の交代性を使って計算すれば,

ωΛη=(adx1+bdx2+cdx3 )Λ(edx1Λdx2+fdx1Λdx3+gdx2Λdx3)
     =ag dx1Λdx2Λdx3+bfdx2Λdx1Λdx3+cedx3Λdx1Λdx2
     =(ag−bf+ce) dx1Λdx2Λdx3

という形で表されます。



[5]  外積の計算における基本的性質を公式として与えておきます。

公式

ω,ω12∈ΛkV* ,η∈ΛsV* ,ζ∈ΛtV* とするとき,

(1) (ωΛη)Λζ=ωΛ(ηΛζ)      [結合則]
(2) ωΛη = (-1)k+s ηΛω        [反交換則]
(3) (ω1+ω2)Λη=ω1Λη+ω2Λη [分配則] 
( V* ⇒ T*p(M)  とすれば,微分形式の外積に関する公式となる。)

証明 略








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