6 ルベーグ積分の定義(その1) | ||
f-denshi.com [目次へ] 最終更新日:04/10/25 | ||
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ここまでの説明を踏まえて,もう一度ディリクレ関数の積分を再考してみます。
1.ディリクレの積分の定式化=定義その1
[1] ディリクレ関数のリーマン積分がうまくいかないのは,x 軸をどのように分割しても,微小区間
Δxk=[xk,xk+1) に有理数と無理数の両方が含まれるため,この区間に対応する関数値 f(t);
(xk≦t<xk+1) が 0 と 1 の両方を必ず含むからです。つまり,Δxk → 0 のときに,Δyk=Max{f(t)}−min{f(t)} → 1 で決して →0 となってくれないのです。
この問題点を回避するための方法,その答えは,「定義域ではなく,値域を分割するように積分の定義を変えればよい」のです。
[2] 前置きはこれくらいにして,とりあえず,有界な関数 f(x),( 最小値 a,最大値 b ) について考えます。
定義: y0≦f(x)<y1 となる x の集合を t1 とする。そして集合 tk のルベーグ測度 m(tk) を用いて,
を考えます。ここで,|yk−yk-1|→ 0 となるように分割数 n を無限大としたときに,分点のとり方に関係なく, Smin=Smax となるとき,ルベーグ積分可能という。 ( ルベーグ可積分ともいいます。 ) |
[3] リーマン積分では,x 軸上の分割された区間 Δxk の最小値,最大値を mk,Mk として,
Smin(リーマン)=m1Δx1 + m2Δx2 + ・・・・・ + mnΔxn Smax(リーマン)=M1Δx1 + M2Δx2 + ・・・・・ + MnΔxn |
・・・ [**] |
として,同様な極限を考えましたので,ルベーグ積分[*]と見比べると,
yk ⇔ mk+1 (微小区間におけるf(x)最小値)
yk+1 ⇔ Mk+1 (微小区間におけるf(x)最大値)
m(tk) ⇔ Δxk (微小区間の幅)
という対応になっています。このようなちょっとした工夫をすることで,ズタズタに引き裂かれた不連続関数についてもすっきりと積分が定義できるようになります。
[4] この定義に従えば,R1,Q1 をそれぞれ,区間 [0,1) における無理数の集合,および有理数の集合として,
Smin=0・m(R1) + y1m(φ) + ・・・・・ + yn-1m(Q1)
=0・1+ y1・0 +・・・+ yn-1・0
=0
Smax=y1m(R1) + y2m(φ) + ・・・・・ + 1・m(Q1)
=y1・1+ y2・0 +・・・+ 1・0
=y1
とディリクレ関数の積分を計算してゆくことになります。最後,Smax=y1ですが,これは y軸の分割を細かくしていた極限では,y1→0 とできるので,
Smax=0
とできます。なお,ディリクレ関数は,0 か 1 の値しかとらないので,その間にある y2,・・・・,yn-1 の値を与える x の値は存在せず,
t2= ・・・・・ =tn-1=φ
です。つまり, y2,・・・・,yn-1 に対応する測度 m(φ)=0 と計算が行われていることに注意してください。以上より,ディリクレ関数の区間 [0,1] における積分値は確定し,その値が 0 であると結論することができます。
[5] 任意の実数 a,b ( a<b )に対して,
a ≦ f(x) < b
となるような x の集合が R 上のルベーグ可測な集合 [#]であるとき,f(x)を可測関数と言います。もちろん,これまでの議論からわかるようにルベーグ積分可能なためには,f(x)は可測関数でなくてはなりません。
これは,一般化して,
定義 可測関数 X上の関数 f: X → R が可測関数であるとは,Xが可測集合であって,任意の実数 a に対して, { x⊂X|f(x)> a } が可測集合となることである。 |
ということができます。ここで,値域 R は ±∞ を含めて構いません。
ここで,条件 f(x)<b がないのは, { x⊂X|f(x)>a } が可測集合であれば,自動的に,
{ x⊂X|f(x)≧ a }
{ x⊂X|f(x)< a }
{ x⊂X|f(x)≦ a }
も可測集合となっているからです (演習)。
ここで述べたことは,リーマン積分との違いがきれいに表れている部分で,定義域と値域とのこのような役割の逆転はこれからもしばしば登場します。 (開集合を用いた連続関数の定義なども逆関数を用いて行うことも思い出しておきましょう。[#])