t103 グランドカノニカルアンサンブルの方法 
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系のエネルギーとして可能なすべての値を許すカノニカルアンサンブルでは,温度一定の下での各微視的状態の出現確率 pr はボルツマン因子exp(-E/kT)によって重み付けがなされ,「微視的状態の確率分布」は温度T,V,Nを与えることで確定させることができました。これから述べるグランドカノニカルアンサンブル(大正準集団)の方法では,エネルギーに加えて,系の粒子数もあらゆる値を許し,絶対活量 exp(μ/kT) によっても微視的状態の出現確率が重み付けされます。これは熱力学における開放系に対応する取り扱いとなっています。 

1.グランドカノニカルアンサンブル

[1] グランドカノニカルアンサンブルの方法では,微視的状態 r のエネルギーをEr,粒子数をNrとすると,その状態の出現確率は規格化定数を Ξ (グザイと読む) として,

pr = 1  exp Nrμ−Er                   ・・・(1)
Ξ kT

で与えられます。グランドカノニカルアンサンブルの方法では,平衡状態における系の粒子数はあらかじめ指定する変数ではなく,系の化学ポテンシャル=μとなるように計算される統計平均値<N>なのです。つまり,グランドカノニカルアンサンブルの方法では,系を指定する変数は温度 T,体積Vと化学ポテンシャルμです。

[2] また,規格化定数である大分配関数は次のように定義されます。

Ξ =  exp Nrμ−Er                  ・・・[*]
kT

ここで,r はすべての微視状態につけられた通し番号で,すべての微視的状態にわたって和はとられます。その際,微視的状態数を 「同じ粒子数N」 ごとにまとめて,予め分配関数の計算を実行し,次にそれらをすべてのNについて残りの計算を実行する方法もできます。つまり,

Ξ(T,V,μ) =  exp Nμ−Ej(N)
kT
      =  exp Z(T,V,N)               ・・・[**]
kT
       ただし,Z= ・exp(-Ej(N)/kT)

と表記されることになります。jは同じNの中だけで付けられた通し番号です。もちろん,[*]とは計算の段取りが違うだけで,計算結果は同じです。

[3] 2準位系についてグランドカノニカルアンサンブルに現れる微視的状態を具体的に書きだすと下図のようになります。とはいってもN=∞まで全部は書くことはできないので途中から先は省略しています。


2準位系の粒子数,エネルギーともに制限をつけないすべての微視的状態


                           N=4 の微視的状態たちはこちらと同じ ⇒ [#]

この2準位系の大分配関数の計算を[**]の方法で計算すると,

Ξ(T,V,μ) 
      =exp 0・μ  exp 0     [N=0の項]
kT kT
        +exp 1・μ  exp ε + exp      [N=1の項]
kT kT kT
        +exp 2・μ  exp + 2exp 0 + exp -2ε    [N=2の項]
kT kT kT kT
        +exp 3・μ  exp + 3exp ε + 3exp + exp -3ε    [N=3の項]
kT kT kT kT kT
        + ・・・・・・

というように∞までつづくこととなります。

[N=4の項]における微視的状態は,カノニカルアンサンブルのところで示した4粒子2準位系の16個の微視的状態と同じ[#]で,jは1から16まで加算をおこなう前ページで計算のとおりとなります。つまり,分配関数は大分配関数の一部に含まれています。

[3] グランドカノニカルアンサンブルの方法では,大分配関数を求めた後,グランドポテンシャルが次式に従って計算されます。

J(T,V,μ)=−kTlogΞ(T,V,μ)

さらに,グランドポテンシャルの関わる熱力学公式をとおして,以下のような熱力学緒量が求まります。ここでは主なものを結果だけ掲げておきます。(説明は後のページにします。)

物理量 一般  局在   (Vを含まない)
分配関数
Z
Z(T,V,N) Z(T,N)=φ(T)N
大分配関数
Ξ
ξZ(T,V,N)
   
{ξφ(T)}N 1
1−ξφ(T)
グランドポテンシャル
J
−kTlogΞ(T,V,μ) kTlog(1−ξφ(T))
平均粒子数

<N>
∂J
∂μ T,V
   =kT logΞ(T,V,μ)
∂μ T,V
 =ξ logΞ(T,V,ξ)
∂ξ T,V
ξφ(T)
1−ξφ(T)
内部エネルギー

<E>
−T2 (J/T) +μ<N>
∂T
=kT2 logΞ(T,V,μ) +μ<N>
∂T
logΞ(β,V,μ) +μ<N>
∂β
≒<N>kT2 d logφ(T)
dT
エントロピー

<S>
∂J
∂T V,μ


 =<N>k logφ(T)+T d logφ(T)
dT
ヘルムホルツ
自由エネルギー

<F>
=J(T,V,μ)+μ<N>
=J(T,V,μ)+<N>kTlogξ
≒−<N>kTlogφ(T)
絶対活量 ξ
 逆温度 β
ξ ≡ exp(μ/kT)
β≡1/kT




[4] 具体例として,やはり,2準位系についての計算を示しましょう。まず,大分配関数です。ここでは説明の都合上,安直ですが,前ページのカノニカルアンサンブルの方法で計算した分配関数を利用して計算します。この系は体積を変数に含まない局在系にあたります。まず,カノニカル分布で求めた分配関数[#]を思い出すと,

Z(T,N)={2cosh(ε/kT)}N 

したがって,上表(右列)の記号に従えば,

φ(T) ≡2cosh(ε/kT)

とすれば他の熱力学関数等が求まることとなります。

大分配関数の計算

大分配関数は,

Ξ(T,μ)=  exp Z(T,V,N)
kT
     = [exp(μ/kT)・2cosh(ε/kT)]N

ここで,[・・・]Nの中身が1より小さいならば,この無限級数は収束して[#]

Ξ(T,μ)= 1
1−2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)

これより,2準位系のグランドポテンシャルは,

J(T,μ)=kT log[1−2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)]       ・・・(2)

であることがわかります。

平均粒子数の計算

[5] 次に,これをμで微分すれば,次式から系の粒子数の期待値が求まります[#]

<N>=− ∂J
∂μ T,V
    = 2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)           ・・・(3)
1−2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)

ついでにこの式を次のように変形しておきます。これは化学ポテンシャルから粒子数に変数変換するときに用います。

2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)= <N> ≒1− 1 ≒1        ・・・・(4)
<N>+1 <N>
∴ μ≒−kT log {2cosh(ε/kT)]                                  ・・・・(4)’

エントロピーの計算

[6] さらに,この2準位系のエントロピーは,熱力学を援用して[#]

S(T,μ)=− ∂J
∂T V,μ
    =− (μ/T)2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)+(ε/T)2exp(μ/kT)sinh(ε/kT)   ・・・・(6)
1−2exp(μ/kT)cosh(ε/kT)

と計算されます(μが変数)が,(3),(4)’用いて,(平均)粒子数で表すと,

    =−<N>{(μ/T)+(ε/T)tanh(ε/kT)}
    =<N>k log 2cosh ε <N>ε tanh ε  
kT T kT
    ≡S(T,N)                                  ・・・・(7)

これはミクロカノニカル-,および,カノニカルアンサンブルを用いて導出した式[#]と同じです。

ヘルムホルツ自由エネルギーの計算

[7] 今度はヘルムホルツ自由エネルギーを計算します。上の表から,φ(T) ≡2cosh(ε/kT) として,

F(T,N) ≒−<N>kTlogφ(T)                  
    =−kT<N> log 2cosh ε                      ・・・・(9)
kT

化学ポテンシャルを変数としたいときは(3)式を<N>のところに代入します。

内部エネルギーの計算

[8] 最後になりましたが,内部エネルギーは,

<E>=<N>kT2 d logφ(T)
dT
   =<N>kT2 2sinh(ε/kT)
kT2 2cosh(ε/kT)
  =−<N>εtanh ε                             ・・・・(10)
kT

となり,これらも他のアンサンブルの方法で求めた結果と同じになります。

後半部分の説明が,天下りに過ぎると感じる人は熱力学が頭に入っていないのです。統計力学的〜 といっても結局は熱力学の結果を模倣,借用しているわけですから。

分布数の計算

次に絶対活量を,

ξ≡exp μ
kT

として,各エネルギー固有値をとる粒子の期待数は,(ε1=−ε,ε2=+ε)

<N1>= 1 =ξexp(ε/kT)
ξ-1exp(ε1/kT)
<N2>= 1 =ξexp(−ε/kT)
ξ-1exp(ε2/kT)

で求まります。(ボルツマン分布<Nj>=exp[(μ−εj)/kT]を適用[#]) ただし,

<N>=<N1>+<N2>=ξ(exp(ε/kT)+exp(−ε/kT))=ξZ1

Z1=2cosh(ε/kT)=exp(ε/kT)+exp(−ε/kT) は,この系の1粒子分配関数です。したがって,

ξ= <N>
Z1

の関係が再び得られます。すると,平均粒子数<N>を使った表式,

<N1>= <N> exp(ε/kT)
Z1
<N2>= <N> exp(−ε/kT)
Z1

も得られますが,これはミクロカノニカル分布の方法のところで導出した[#]ものと同じです。

以上,グランドカノニカルアンサンブルを使った統計力学的処方箋の概略です。


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公式

 rn = 1+r+r2+・・・+rn+ ・・・・= 1        ( | r |<1 )
1−r