5 連立1次方程式の解の公式 | ||
f-denshi.com 最終更新日:03/06/29 |
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[1] 四則演算の体系における実数 a には,a≠0 ならば,ab = ba = 1 (単位元 )となるような逆元 b = 1/a を考えることができます。同じようなことを正方行列の演算体系の中でも考えることができます。すなわち,n次正方行列 A に対して,
AB = BA = E (実は, AB = E ⇒ BA = E が成り立ちます。 )
となるような逆元 B を考えて,これを逆行列と呼び,B が A の逆行列であることを強調したいときには A-1 という記号を用います。ただし,実数の場合,逆元が存在する条件は a ≠ 0 でしたが,正方行列の場合は単に A ≠ O ( 零行列 )ということではなくもっと事情が複雑です。
定理 AΔ = ΔA =|A| En 言い換えると,A の逆行列 A-1 は で与えられる。ここで,ΔはA の余因子行列と呼ばれ,具体的に書くと,
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Δの成分 Δkt は t行と k列目の成分です。これはふつう行列A の k 行 t 列を意味するときに使われる下添え文字,akt とは入れ替わっていることに注意!
[2],定理の正しいことを確認しましょう。A と Δの積,
AΔ= a11a12・・・・a1n Δ11・・・Δk1・・・Δn1 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ as1as2・・・・asn Δ1t・・・Δkt・・・Δnt ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ an1an2・・・・a1n Δ1n・・・Δkn・・・Δnn
の s 行 k 列の成分は,前章の公式(2)[#] を用いれば,
as1Δk1+as2Δk2+ ・・・ +asnΔkn = δsk |A|
なので,s=k のとき,すなわち,対角成分に対してだけ,0 でない値 |A| をもち,
AΔ = |A| 0 ・・・ 0 =|A| 1 0 ・・ ・・・ 0 = |A|En 0 |A| 0 : 0 1 0 : : 0 : 0 : 0 : 0 0 ・・・ 0 |A| 0 ・・・ ・・ 0 1
となります。
[3] したがって,|A|≠0 ならば,Aの逆行列は,
A-1 =Δ/|A| = Δ11/|A| Δ21/|A| ・・・・Δn1/|A| Δ12/|A| Δ22/|A| ・・・・Δn2/|A| ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Δ1n/|A| Δ2n/|A| ・・・・Δnn/|A|
結局,行列 A に対して逆行列が存在する条件は,|A|≠0 であることがわかりました。
なお,逆行列をもつ行列を正則行列と言います。
[1] いよいよ連立1次方程式論の総仕上げとして,クラメール(Cramer) の公式を示します。証明に必要な道具はすでにすべてそろっています。
n個の未知数 x1,x2,・・・,xn に関する連立1次方程式,
の解は行列式 |A|≠0 のときは,
=( b1Δ1t+b2Δ2t+・・・・+bnΔnt )/|A| ( 上式を t 列で展開 [#] ) ( t = 1,2,・・・・n ) |
[2] 証明をしておきましょう。 行列で表した連立1次方程式 Ax =b は,逆行列を A-1 を左からかけて,
x = A-1b =Δb / |A|
が解となります。ただし,ΔはAの余因子行列です。これを成分で書けば,
x1 = Δ11・・・Δk1・・・Δn1 b1 ・
1 |A| ・・・・・・・・・・・・・・・ xt Δ1t・・・Δkt・・・Δnt bt : ・・・・・・・・・・・・・・・ : xn Δ1n・・・Δkn・・・Δnn bn
x1 =
1 |A| Δ11b1+Δ21b2 +・・・・+Δn1bn ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ xt Δ1tb1+Δ2tb2 +・・・・+Δntbn : ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ xn Δ1nb1+Δ2nb2 +・・・・+Δnnbn
特に,t 行目を抜き出したものが Cramer の公式 :
xt=( Δ1tb1 + Δ2tb2 + ・・・・ + Δntbn )/ |A| ← 連立1次方程式の解
となります。以上で証明終わりです。