デバイの固体の比熱理論
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1.デバイの固体比熱のモデル

[1] N 個の単原子からなる「1辺 L の立方体の結晶」を考えます。これら原子が互いにばねで結ばれていて熱振動しているような場合,この系の自由度と同じ,3N 個の基準振動(基準弾性波)[#]が存在します。デバイの固体比熱の理論ではそれらを平面波で近似します。すると,これはひとつの基準振動しか考慮しないアインシュタインの比熱理論[#]より低い振動数,すなわち長波長の弾性波が考慮されることに相当します]。(つまり,固体結晶中の原子の振動の波長は原子サイズのみではなく,結晶全体の及ぶような長波長のものもあり,そのような振動も固体の比熱に寄与するはずだということがデバイモデルの肝要な点です。)

[2]  固体中の弾性波には1つの縦波と2つの横波のモードがあり,それぞれの伝播速度を cl と ct とすれば,ν と ν+dν の間にある振動数を持つ波の個数は振動数空間における状態密度g(ν)を用いて,

g(ν)dν = 4πV 1 2 ν2 dν        ・・・・・・・・・・・・・・ (1)
cl3 ct3

となります。[導出はこちらを参照]。また,この系には3N個の基準振動があり,あるνDが存在して,

νD g(ν)dν = 3N                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)
0

を満足することとします。(1)を(2)に代入し,積分後,νDについて解けば,

νD 9N 1/3
4πV 1 2
cl3 ct3

となります。このνDデバイ振動数 と言い,デバイ理論で考慮される基準振動の高い方の限界振動数にあたります。つまり,ν>νDにおいて,g(ν)=0 とします。このνD を用いれば,(1)は,

g(ν)= 9Nν2                  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
νD3

と書けます。さらに,振動数ν とν + dν にある振動のエネルギーは,アインシュタインモデルでエネルギー期待値を計算したときの[**] [#] に上の状態密度 (3) を乗じて,(零点振動に対応する第1項を無視すると,

 E(ν)dν=
 
・g(ν)dν    ・・・・・・・・・  (4)  
exp − 1
kT

と書くことができます。これを 0 からνD まで積分すれば,デバイの固体モデルの全エネルギー<E>が求まるはずです。そして,それを温度で微分することで比熱が求まります。

[3]  しかし,この積分が初等的には求められないので,アインシュタインモデルで1つの振動に対する比熱を導く途中で得られた [***][#] を利用して直接,比熱の計算を進めていきましょう。

調和振動子に対する [***] 式に g(ν)dν をかけて,ν について 0 から νD まで積分すれば,

Cv = νD   k
kT
2
exp
kT
 ・ g(ν) dν
exp  − 1 2
kT
0
    = νD   9Nk
kT
2
exp
kT
ν2   dν
exp  − 1 2
kT
νD3
0
    = 9Nk νD
kT
4
exp
kT
(kT)3 h   dν
exp  − 1 2
kT
(hνD)3 kT
0
ここで, D   →  1  となる温度 T をデバイ温度 ΘD ( つまり,hνD = kΘD )と定義し,さらに,
kT
xD D ΘD  , x ≡  ,   dx= h
kT T kT kT

とおいて変数を ν→ x に変換すれば,

 Cv = 9Nk 1 xD
x4ex dx
(ex−1)2
xD3 0

さらに,部分積分,

xD
ex ・x4dx = −
xD4 +4 xD
x3  dx
ex−1
exD−1 0
(ex−1)2
0

および,デバイ関数

 D(xD) ≡ 3 xD
x3 dx
ex−1
xD3 0
= 
  1 − 3  xD 1  xD2 −        ・・・  xD << 1  [高温のとき]     
8 20
π4 1  − 3e-xD     ・・・  xD >> 1  [低温のとき]     
5 xD3

を定義して用いれば,

デバイの比熱
Cv = 3N k 4D(xD)−
3xD
exp(xD)− 1

が得られます。

[4]  なお,温度が高いとき(xD⇒0),

D(xD) ⇒ 1  および, 

xD  ⇒ 1
exp(xD)− 1
∴   Cv  ⇒  3Nk

温度が低いとき(xD ⇒ ∞),

D(xD) ⇒ π4 1    および, 
xD  ⇒ 0
exp(xD)− 1
5 xD3
∴   Cv ⇒ 3N k ・ 4 1   =
12π4Nk ・T3
D3
5 xD3

したがって,低温では指数関数的な挙動を示すアインシュタインの比熱モデルより緩やかな温度依存性を示すことがわかります。これは,非伝導性の固体について得られている実験事実と大変よく一致するものです。

[5] 以上,まとめると,

デバイの比熱
Cv  =     3Nk           ・・・・・・   T >> ΘD      [高温のとき] 
 
12π4Nk  ・ T3
D3
      ・・・・・・     T << ΘD       [低温のとき]     

デバイ理論では低温における格子比熱が温度Tの3乗に比例することを示しています。



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補足:  固体中の弾性波の個数の数え上げ方

固体中の弾性波を平面波[#]

u (r,t )=u 0 exp [ i ( kr − ωt ) ]    

で表すことにする。ただし,波動ベクトルk,位置ベクトルr は,

k =( kx,ky,kz ),r = (x,y,z)
kx nx ,ky = ny ,kz = nz : nx,ny,nz = 0,1,2,・・・
L L L

で,波の振動数をν,伝播速度を c=νλとすれば,

k2 2 n2       ⇔   n2 2     ・・・・・  [*]
L c
(↑   |k | = 2π/λ=2πν/c より)

振動数がνより小さな固有振動の数は,[*] を満たす3つの整数の組の数にひとしい。
これはnが非常に大きいとき,(nx,ny,nz)空間での半径が Lν/c の球の体積,

3
3 c

で近似できます。したがって,νとν+dν の間にある平面波の数はこの微分である,

L 3 ν2
c

で与えられます。等方的な3次元弾性体では,1つのkに対して,1つの縦波と2つの横波が存在するので,その伝播速度を cl と ct とすれば,ν と ν+dν にある振動数を持つ波の個数は,L3=V として,

4πV 1 2 ν2 dν 
cl3 ct3

となります。ここで,dνの係数,

g(ν) ≡ 4πV 1 2 ν2      
cl3 ct3

を振動数空間における状態密度と呼びます。




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