| 角運動量の合成の一般論 | |
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ここでは,2つの任意の角運動量を合算した全角運動量を与えるような全角運動量演算子 J (=J1+J2 ) を,
J2|合成> = j(j+1)|合成> ; Jz|合成> = m|合成>
を満たす演算子として定義し,|合成> がどのようなものか決定していきましょう。
角運動量1 + 角運動量2 ⇒ 合成角運動量 J12 J22 J2 J1z J2z Jz |j1,m1> |j2,m2> |合成> スキーム
1.
[1] 合成前の2つの角運動量 1:[j1,m1] と 2:[j2,m2] がそれぞれ次の固有方程式を満たすとします。
J12|j1,m1>=j1(j1+1)
h2|j1,m1> ; J1z|j1,m1>=m1h|j1,m1>J22|j2,m2>=j2(j2+1)
h2|j2,m2> ; J2z|j2,m2>=m2h|j2,m2>
ここで,この2つ角運動量が合成された全角運動量の記述にはテンソル積空間が用いられます[#]。すなわち,|j1,m1> と |j2,m2> に作用する恒等演算子 I1 および,I2 を用いて,演算子,
J1≡ J1 I2, J2 ≡ I1 J2
を定義し,これらの和を合成角運動量として,
J ≡ J1+J2 = J1 I2 + I1 J2
と定義します。 特に z 成分については,
J1z ≡ J1z I2, J2z ≡ I1 J2z
Jz ≡ J1z+J2z = J1z I2 + I1 J2z
となります。
また,角運動量の大きさに関しては,
J12≡ J12 I2, J22 ≡ I1 J22
ですが,
J2 ≠ J12+J22
です。正しい式は後で述べます。
演算子,Jz,J1z,J2z は,
テンソル積空間 :(角運動量1の演算子) (角運動量2の演算子)
上の元です[#]。
[2] 一方,合成された全角運動量の固有ケットは,角運動量 1,2 それぞれの固有ケットを並べて表した直積で定義し,これを,
|j1,m1>|j2,m2> を ⇒ |j1j2;m1m2>と書く
と書くことにします。このケットへの演算子の作用は,例えば,J2z を左からかける演算は,これがテンソル積上の計算であることを強調して書くと,
J2z|j1j2;m1m2>= I1 J2{|j1,m1>|j2,m2>}
= { I1|j1,m1>}{J2|j2,m2>} =m2
= |j1,m1>{m2 h|j2,m2>}h{|j1,m1>|j2,m2>}
=m2h|j1j2;m1m2>
と計算することにします。他の計算も合わせて書くと,
(1) |合成>⇔|j1j2;m1m2> J12|j1j2;m1m2> = j1(j1+1)
h2|j1j2;m1m2>
J1z|j1j2;m1m2> = m1h|j1j2;m1m2>J22|j1j2;m1m2> = j2(j2+1)
h2|j1j2;m1m2>
J2z|j1j2;m1m2> = m2h|j1j2;m1m2>
のようになります。
このケットは,Jz に対しては,
Jz|j1j2;m1m2>= ( J1 I2+ I1 J2)|j1,m1>|j2,m2>
Jz|j1j2;m1m2>= J1 I2{|j1,m1>|j2,m2>}+ I1 J2){|j1,m1>|j2,m2>}
= {J1|j1,m1>}{I2|j2,m2>}+ { I1|j1,m1>}{J2|j2,m2>} =(m1+m2){|j1,m1>|j2,m2>}
= {m1|j1,m1>}|j2,m2>+ |j1,m1>{m2|j2,m2>}
=(m1+m2)|j1j2;m1m2>のように計算を進めることもできます。つまり,合成角運動量z成分の固有ケットでもあることが分かる。
[3] また,次のような演算子, (もちろんテンソル空間上で)
( I ) J2 = JxJx+JyJy+JzJz
(II ) J+ = Jx+iJy
(III) J- = Jx−iJy
を定義すると,このとき,
J2 = (J1+J2 )2 = J12+J2 2+2J1J2
= J12+J22 + 2(J1xJ2x+J1yJ2y+J1zJ2z)
一方,
J1+J2- =(J1x+iJ1y)(J2x−iJ2y)=J1xJ2x+J1yJ2y+iJ1yJ2x−iJ1xiJ2y
J1-J2+ =(J1x−iJ1y)(J2x+iJ2y)=J1xJ2x+J1yJ2y−iJ1yJ2x+iJ1xiJ2y
これらを用いれば,
J2 = J12+J22 +J1+J2- +J1-J2+ +2J1zJ2z ・・・ [*]
これらの間にはすでに導いた角運動量が満たす次のような交換関係,公式も導かれます
(1) [J2,Jx ] =[J2,Jy ] = [J2,Jz ] = 0
(2) [J2,J±] = 0
(3) [J+,J−] = 2hJz
(4) [Jz ,J±] = ±hJ±
(5) J+J− = J2−Jz2+hJz
(6) J−J+ = J2−Jz2−hJz
(7) J2 = (J+J−+J−J+)/2 +Jz2
さらに,[*] を利用して,角運動量1と2に関する演算子は可換であることに注意すれば,
[J2,J12] = 0, [J2,J22] = 0,
が成り立つことも証明できます。
(一般化角運動量⇒[#],スピンの基本事項のまとめ⇒[#] を参考にして下さい。)
[7] 結局,4つの演算子,J2,Jz,J12,J22 は可換であるので[#],これらについて同時固有ケット|j m> が存在し[#],次の関係が成り立ちます。
(2) |合成> ⇔ |jm>
J12|j m> = j1(j1+1)|j m> ; J22|j m> = j2(j2+1)|j m>
Jz|j m> = m|j m> ; J2|j m> = j(j+1)|j m>
基底の取り方にお違いでまとめると,
角運動量の合成前は,下表の茶色背景部分の演算子の固有ケットを借りた表現です。
角運動量1 角運動量2 合成角運動量 |j1j2;m1m2> または,|m1 m2> J12 J22 J2 J1z J2z Jz
合成後の J2,Jz の同時固有ケットを含む表現は,
角運動量1 角運動量2 合成角運動量 |j1j2;j m> または,|j m> J12 J22 J2 J1z J2z Jz
ここで,茶色背景の演算子どおしは可換。
[8] 固有ケット|j m> はこのままでは ”ただの記号” ですが,恒等演算子
|j1j2;m1m2><j1j2;m1m2|= I
を挿入して,
もしくは,
|j1j2;j m> = |j1j2;m1m2><j1j2;m1m2|j1j2;j m>
|j m> = |m1m2><m1m2|j m>
と書いてみれば,<j1j2;m1m2|j1j2;j m>=<m1m2|j m>を係数として,既知のケット|j1j2;m1m2>=|m1m2>の線形結合で表す(展開する)ことができます。この展開係数はクレプシュ・ゴルダン係数[CG係数]と呼ばれます。これは式はよく見ると,基底変換を表している[#]ことにも注意して下さい。
[9] 具体例として最も小さな角運動量の合成,すなわち,スピンどおしの合成について見ておきましょう。
2つのスピンの合成
j1=1/2,m1=±1/2 , j2=1/2,m2±1/2 のとき (⇔要するに2つのスピンの合成)
の|jm>基底を|m1m2>基底で展開した式は,クレプシュゴールダン係数表,
j
m2= 1 2
m2=− 1 2
1 = 1 + 1 2 2
A= m+1
1/2 2
B= −m+1
1/2 2
0 = 1 − 1 2 2
C=− −m+1
1/2 2
D= m+1
1/2 2
|1m>=A|m1 1/2>+B|m1 -1/2>
|0m>=C|m1 1/2>+D|m1 -1/2>
から得られる。
j = 1 (三重項) のとき,m (=m1+m2 )のとり得る値は,次の3つで,
(1) m=1; A=1, B=0
| j=1,m=1> =A|m1=1/2,m2=1/2>+B|m1=?,m2=-1/2>
⇔ |1 1> = |++>
| (2) m=0; A=B= |
|
| j=1,m=0> =A|m1=-1/2,m2=1/2>+B|m1=1/2,m2=−1/2>
| ⇔ |1 0> = |
|
|−+>+|+−> |
(3) m=-1; A=0, B=1
| j=1,m=-1>=A|m1=?,m2=1/2>+B|m1=-1/2,m2=-1/2>
⇔ |1-1> =|−−>
の3とおり。
j = 0 (一重項) のとき,m (=m1+m2 )のとり得る値は,次の1つで,
| (4) m=0; - C=D= |
|
| j= 0,m=0> =C|m1=-1/2,m2=1/2>+D|m1=1/2,m2=-1/2>
| ⇔ |0 0>= |
|
−|−+>+|+−> |