Appendix 2  行列力学入門 2 ブラケット記法)
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1.状態ケットと演算子の成分表示

[1]ある物理状態を表す状態ケット|ψ> が線形演算子 A の固有ケットからなる基底Σ:{|a1>,|a2>,・・・,|an>} の線形結合で,

|ψ>=c1|a1>+c2|a2>+・・・+cn|an>       ・・・・・ [*]

と表せる場合を考えます。 規格化されている固有ケットは,<a|ak>=δjk なる関係があるので,[*]式の両辺に左から <ak| をかけてやれば,

<ak|ψ>=ck                      

となります。したがって,|ψ> はベクトル成分を用いれば,

|ψ>= c1  = <a1|ψ>
c2 <a2|ψ>
cn <an|ψ>

 と表せます[#]。これを,「状態ケット |ψ>の基底Σ による表示(=ベクトル表現)」 といいます。

[2] 二つのベクトルxy  のテンソル積[#]から作られる行列 (2階テンソル)

|x><y|=
x1 (y*1,y*2,・・・,y*n) = x1y*1・・・・・・・x1y*n
x2 ・・・・・・・・・・・・・・
 : ・・・・・・・・・・・・・・
xn xny*1・・・・・・・xny*n

は線形演算子です。 特にベクトルとして固有ケットを用いた場合,

|aj><ak|= 0・・ 0 ・・・・・0
0・・ 0 ・・・・・0
0・・ 1 ・・・・・0 j 行目
・・・ ・・ ・・・・・・
0・・ 0 ・・・・・0
  k 列目

という j 行 k 列 成分だけが 1 で他は 0 という行列となります。したがって,数 c について,|aj>cjk<ak| を考えると,これは j 行 k 列成分がcjk で,他の成分が 0 である行列を意味します。すると,n2個の任意の数cjkについて次のような和を考えると,

|aj>cjk<ak|=
c11 c12・・・ c1n        ・・・  [**]
c21 c22・・・ c2n
・・・・・
cn1 cn2・・・ cnn

となり,これは任意の cjk を成分とするn次正方行列です。

[3] これをふまえ,いくつか重要な演算子を定義します。まず,

(1) 射影演算子 Λk=|ak><ak|    [ck|ak> を選び出す]

例えば, <ak|aj>=δjk なので,
   Λk|ψ>=|ak><ak|{c1|a1>+c2|a2>+・・・+cn|an>}
         =|ak>{ck<ak|ak>}
         =ck|ak

と計算され,ck|ak> を選び出す働きがあります。したがって,すべてのk について足し合わせた,

(2) 恒等演算子  I |ak><ak|           [何も変化させない]  

を考えると,これは,ケットに何も影響を及ぼさない演算子となります。実際,

 I |ψ>= |ak><ak|{  cj|aj>}
             = |ak><ak|ck|ak
             = |ak>ck
       =|ψ>

もちろん,恒等演算子は単位行列と同じです。この恒等演算子 I の利用方法として,つじつまの合う行列計算ができるような任意の位置に挿入します。例えば,任意の演算子をAB として,

 AB|ψ>=AIB|ψ>   = A|ak><ak|B |ψ>
 AB|ψ>=AIBI|ψ>= A|ak><ak|B| aj><aj|ψ>

などとすることが可能です。   

[4] 任意の線形演算子T は2つの恒等演算子を挟むと,

 T= |aj><aj||ak><ak|

ここで,[**]を思い出すと,j 行 k 列成分が <aj||ak> である行列 [#]

 T <a1|T|a1> <a1|T|a2> ・・・・<a1|T|an
<a2|T|a1> <a2|T|a2> ・・・・<a2|T|an
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<an|T|a1> <an|T|a2> ・・・・<an|T|an

T であることがわかります。これを,「演算子T の基底Σ による表示(=行列表現)」といいます。

[5] 特に,TA (A|ak>=ak|ak) のときは,

 A = |aj><aj|A|ak><ak|
    = |aj><aj|ak|ak><ak|
    = ak|aj><aj|ak><ak|
    = ak|ak><ak|

    = akΛk
  = ΣakΛk

となります。つまり,演算子A はその固有値と射影演算子との積で表すことができます。

2.基底変換とその成分表示

[1] 2つの正規直交系の間を結ぶ基底変換,

{|a1>,|a2>,・・・,|an>} {|b1>,|b2>,・・・,|bn>}
基底Σ U 基底Σ'

を表すユニタリ行列 U はどのように「表現」できるのでしょうか。 2つの基底の関係が

|b1> = U|a1
|b2> = U|a2
   ・・・・・・・・
|bn> = U|an

 ⇒ 
ブラだと
<b1| = <a1|U*
<b2| = <a2|U*
     ・・・・・・・・
<bn| = <an|U* 

つまり,

基底{|a1>,・・・,|an>} と 基底{|b1>,・・・,|bn>} との関係

  |bkU|ak   もしくは,   <bk|<ak|U* 

   k = 1,2,・・・,n

で与えられるとき,これを満たすU は,<aj|ak>=δjk ,<bj|bk>=δjk に注意すれば,

(3)  基底変換演算子:

 U =|b1><a1|+|b2><a2|+・・・・・+|bn><an|  
    = |bj><aj|
 
もしくは,
 U* |aj><bj|

と置けばよいことがわかります。実際に計算して,

 U|ak={ |bj><aj|}|ak
             = |bk

と確かめられます。

[2] さらに,

UU* = { |bj><aj|}{ |ak><bk|}
      = |bj><aj|ak><bk|
      = |bj><bj|
    =    I

が確かめられます。 U*UI も同様に示すことができ,この正規直交系から正規直交系への基底変換演算子U がユニタリ行列(U*U-1)である[#]ことをブラ・ケットで示したことになります。 U の「基底Σ での行列表示」は,

  U  = |aj><aj|U|ak><ak|

基底変換演算子U の j 行 k 列目の行列成分: 

          <aj|U|ak>=<aj|bk

で得られます。状態ケットの成分(ベクトル成分)は,

任意の状態ケットの基底変換

   <bj|ψ> <bj|ak><ak|ψ>
                   ↓      <bk| = <ak|U*を用いて,
              = <aj|U*|ak<ak|ψ>  ← (数学では x’=U*x ⇔ xUx’ と書く)

で与えられますこれを具体的に行列,ベクトルで書くと,

<b1|ψ>  = <a1|U*|a1> <a1|U*|a2> ・・・<a1|U*|an <a1|ψ>
<b2|ψ> <a2|U*|a1> <a2|U*|a2> ・・・<a2|U*|an <a2|ψ>
    :      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・     :
<bn|ψ> <an|U*|a1> <an|U*|a2> ・・・<an|U*|an <an|ψ>
基底Σ'で表示したψ 基底変換行列 基底Σで表示したψ

となります。同様に,

任意の演算子の基底変換

   <bj||bk <bj|as><as||at><at|bk
                 ↓      <bk| = <ak|U*, |bk>= U|ak>を用いて,
                  =

<aj|U*|as<as||at<at|U|ak

<bj||bk= ΣΣ<bj|as><as||at><at|bk
            = ΣΣ<aj|U*|as<as||at<at|U|ak

                                    ↑ (数学では, T’=U*TU と書く) 

左辺は基底Σ'で表示した演算子Tの行列成分,右辺は基底Σで表示した演算子Tのい行列成分と基底変換演算子の行列成分を表しています。

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もうひとつ,追加

<y||x >=(xy )=(x*y