2準位系
f-denshi.com  更新日:05/9/01

1.スピン磁気共鳴

[1] +z方向を向いている静磁場:

B0 =( 0、0、B0

の中に置かれている電子スピンを考えます。電子の電荷を - e 質量を m とすると電子の磁気モーメントμs は、

μs = γS = − e  S   : ただし、γ = − e
m m

で与えられます[#]。そこへx-y平面内で角速度ωで回転する磁場、

B1=( B1cosωt、B1sinωt、0 ) 

を静磁場場に重ね合わせたとき、ハミルトニアンは、BB0B1   として、 

H = −μsB =  e S (B0B1)
m
                 =  e (0+0+B0 Sz) + e ( B1cosωt Sx+B1sinωt Sy+0)
m m
第1項 第2項

となります。これを、Szの固有ブラ・ケット [#] で記せば、第1項は、

H0 eB0h (|+><+| − |−><−|)
2m

第2項は、

V(t) = eB1h cosωt・(|+><−|+|−><+|)+sinωt・(-i|+><−|+i|−><+|)
2m
       = eB1h e-iωt (|+><−| + eiωt |−><+|)
2m

[2] ここで、この問題を一般化するために記号を次のように改めます。

eB1h  ⇒ Γ、  |−> ⇒ |1>、 |+> ⇒ |2>
2m
h   ⇒ ε1、 + h ⇒ ε2  
2 2
調和摂動をもつ2準位系の問題

ハミルトニアンが、
(1) HH0V(t)   
と時間を陽には含まない主要部分 H0 と時間の関数である摂動的ポテンシャル V(t) と和で書くことができ、主要部分については厳密解が、固有ケット{|1>、|2>}、対応する固有値は{ε1、ε2}とわかっている[2準位系]とします。
そのとき、ハミルトニアンが、
(2)  H0=ε1|1><1|+ε2|2><2|
(3) V(t)= Γeiωt|1><2|+Γe-iωt|2><1|
で与えられる場合は厳密解が存在、ラビの公式 と呼ばれる。

この問題の解は電子スピン共鳴のほか、核磁気共鳴(NMR)、メーザーなど分光法の分野で非常に重要です。また、この(3)は正弦的に時間変化するポテンシャルで、調和摂動と呼ばれます。

[3] この問題を解くために、解を相互作用表示を用いて

|ψ、t>I  = c1(t)|1>+ c2(t)|2>
Vnm = <n|V |m>
V12=V21*=Γeiωt
V11=V22=0
;  ω21 ε2−ε1
h

とすれば、解くべき微分方程式は、

ih c1(t) = Γeiωteiω21t・c2(t)
∂t
ih c2(t) = Γeiωte-iω21t・c1(t)
∂t

となります[#]。

[4] これを初期条件:

c1(0) =1、  c2(0)=0

で解くと、

 ラビの公式 :

上の準位に見出される確率:
         |c2(t)|2 Γ2 sin2Ωt
h2Ω2
下の準位に見出される確率:
        |c1(t)|2  = 1−|c2(t)|2
           : ただし、Ω =
Γ2+(hω−hω212/4 
h

すなわち、最初|1>にあった状態は、時間が経つと|2>に見出される確率が生じ、それは周波 2Ωで振動します。
その際、|sin2Ωt|=1 を満足する時刻において上の準位|2>に見出される確率は最大となり、

Max |c2(t)|2 Γ2
Γ2+(hω−hω212/4

となります。これは、ωの関数(右図)ですが、

ω = ω21 ε2−ε1
h

のとき、すなわち、Ω =Γ/h  のときに、Max |c2(t)|2 は最大値 1 をとります。この 「ω = ω21」 を共鳴条件といいます。この共鳴条件下では、状態は|1>と|2>の間を、

|c2(t)|2 = sin2 Γ  t
h

にしたがって時間変化(単振動)ます。これを図示すると次のようになります。

最初|1>にあった状態は、ポテンシャルからエネルギーを吸収し、時刻、t=πh/2Γ で状態|2>に変化します。この時刻を過ぎると今度はポテンシャルにエネルギーを放出し始め、時刻、t=πh/Γ で状態|1>に戻ります。以後これを繰り返します。

この結果をスピン磁気共鳴に当てはめると、B0 に垂直な面内で回転する磁場B1 の存在によって、スピンがz方向で上下反転を繰り返すことを示しています。


微分方程式の解法

|c2(t)|2 Γ2 sin2 t
Γ2+(hω−hω212/4 
Γ2+(hω−hω212/4 h



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