6 正準変換
f-denshi.com  最終更新日: 04/01/27
サイト検索

1.正準変換

[1] オイラー・ラグランジュ方程式 [EL方程式]:

∂L d  ∂L =0 : q’= dq
∂q dt ∂q’ dt

を満足するラグランジュ関数L(q,q’)は変数変換: q → Q (必然的に,q’→ Q’)にともなって,L(q,q’)→R(Q,Q’)と関数形を変えても,

∂R d  ∂R =0 : Q’= dQ
∂Q dt ∂Q’ dt

を満足します。つまり,EL方程式は変数変換に対して不変です[#]

[2] これと同じように変数変換:

(q,p )  →  (Q,P )≡( Q(q,p),P(q,p) )[変数]
H(q,p ) → K(Q,P )                           [ハミルトン関数]
 (p もq も(対等な)独立変数とみなしているので変換の際,入り交ざってしまうことに注意しましょう。どんなときに交じり合うかといえば,純粋な力学系ならば,後で説明するような静止系から回転座標系に変換するときなどです。このとき,定めた原点からの距離が遠いほど,(角)運動量はどんどんと大きく変換されてしまうので,位置と運動量とが交じり合った変換になります。他には磁場中の荷電粒子を扱うときとかもそうです。)

に対してハミルトンの正準方程式が形を変えないとき,すなわち,

dp =− ∂H p  :  dq ∂H q
dt ∂q dt ∂p
           正準変換
dP =− ∂K P  :  dQ ∂K Q
dt ∂Q dt ∂P

となるとき,このような変数変換を正準変換と言い,この正準変換によって互いに移り変われる一連の変数を正準変数と言います。
   

[3] これら正準方程式は変分原理に立ち戻る[#]と,それぞれ,

δS = δ p・ dq

 −H(q,p)

dt =0
dt
δS = δ P・ dQ

−K(Q,P)

dt =0
dt

から帰結されるはずですが,これらの式が同時に成り立つのは,

正準変換となる条件
(q,p),(Q,P)が正準変数ならば,ある関数:W(t)=W(t,q(t),p(t),Q(t),P(t)) を用いて,
p・ dq

 −H(q,p)

P・ dQ

−K(Q,P)

dW    ・・・・・・・・[*]
dt dt dt
(または, p・dQ−P・dq −{H(q,p)−K(Q,P)}dt=dW )
と表せる。   ( ここで,W(t,q(t),p(t),Q(t),P(t)を変換の母関数と呼ぶ。)

であれば十分です。

[4] なぜなら,もし,[*] が成り立つならば,その変分は,

δ p・ dq

 −H(q,p)

dt −δ P・ dQ

−K(Q,P)

dt
dt dt
=δ dW dt
dt
=δ{W(b)−W(a)}=0     
 丁寧に書けば,両端固定の場合,δq(b)=δp(b)=δQ(b)=δP(b)=δt(b)=0 なので,
∂W δq(b)+ ∂W δp(b)+ ∂W δQ(b)+ ∂W δP(b)+ ∂W δt(b) =0
∂q ∂p ∂Q ∂P ∂t
δW(a) も同様に 0     ↑こういう書き方は強引?

[5] これを3次元に拡張した変数変換が正準変換となる条件は,

q =(q1,q2,q3);p =(p1,p2,p3)  Q =(Q1,Q2,Q3);P =(P1,P2,P3)

に対して,適当な W(t)=W(t,QP ) が存在して,

p dq

 −H(qp)

P dQ

−K(QP)

dW   ・・・・・[**]
dt dt dt

ここで,「 」 はベクトル解析で用いられる”形式的な内積” [#]を意味しています。これはルジャンドル変換が,

L=p dq

 −H(q,p)

dt
  ベクトル化:
L=p dq

 −H(qp)=p1

dq1

 +p2

dq2 +p3 dq3

 −H(qp)

dt dt dt dt

のようになること,変数変換の式が
    Qk=Qk(qp)=Qk(q1,q2,q3,p1,p2,p3)
    Pk=Pk(qp)=Pk(q1,q2,q3,p1,p2,p3)   ;k=1,2,3
であることなどに注意すれば容易に拡張できます。

2.母関数

[1] 先程,ある関数 W(t,q,p,Q,P)と書きましたが,Q=Q(q,p),P=P(q,p)なる関係があるので,t を除いた4つのq,p,Q,P のうち独立変数の数は2つだけです。このような関係がある変数間の変数変換は熱力学諸関数と同様なルジャンドル変換の関係式が存在します。

熱力学諸関数の関係式でもある4変数-2独立変数の場合ルジャンドル変換式の一般式[#]は,

φ(x,y) ψ(u,y) λ(x,v) μ(u,v)
(φ=ψ+xu ) ψ=φ−xu, λ=φ−yv, μ=ψ−yv,
(φ=λ+yv) (ψ=μ+yv) (λ=μ+xu) μ=λ−xu
dφ=udx+vdy dψ=−xdu+vdy dλ=udx−ydv dμ=−xdu−ydv
u= ∂φ y
∂x
v= ∂φ x
∂y
-x= ∂ψ y
∂u
v= ∂ψ u
∂y
u= ∂λ v
∂x
−y= ∂λ
∂v
−x= ∂μ v
∂u
−y= ∂μ u
∂v

ですが,これらを母関数の相互関係式でよく使われる記号に置き換えるには,

φ→ W2 x→q
ψ→ W4 y→P
λ→ W1 u→p
μ→ W3 v→Q

と置き換えて,

W2(q,P) W4(p,P) W1(q,Q) W3(p,Q)
(W2=W4+qp ) W4=W2−qp W1=W2−QP W3=W4−PQ
(W2=W1+PQ) (W4=W3+PQ) (W1=W3+qp) W3=W1−qp
dW2=pdq+QdP dW4=−qdp+QdP dW1=pdq−QdP dW3=−qdp−PdQ
p= ∂W2 P , Q= ∂W2 q
∂q ∂P
-q= ∂W4 P ,Q= ∂W4 p
∂p ∂P
p= ∂W1 Q ,-P= ∂W1 q
∂q ∂Q
−q= ∂W3 Q ,−P= ∂W3 p
∂p ∂Q
K(Q,P)=H(q,p)+ ∂W2
∂t
K(Q,P)=H(q,p)+ ∂W4
∂t
K(Q,P)=H(q,p)+ ∂W1
∂t
K(Q,P)=H(q,p)+ ∂W3
∂t
(↑ 正確には,Wk;k=1,2,3,4 は t の関数でもありますが省略しています。)

ここの4つの関数のうち一つが母関数ならば,4つすべて母関数で,4つの変数は正準変数ということになります。

[2] 最後の行についてすこし補足すると,W がt,q,Q の関数であると考えると,

dW1 ∂W1 ∂W1 dQ ∂W1 dq
dt ∂t ∂Q dt ∂q dt

[*]に代入して整理すれば,

p− ∂W1 dq P+ ∂W1 dQ +K(Q,P)−H(q,p)− ∂W1  =0
∂q dt ∂Q dt ∂t

q,Qを独立変数として考えているので,その導関数についても独立にとれる。つまり,その係数と定数項について,

p− ∂W1 =0,   P+ ∂W1 =0,   K(Q,P)−H(q,p)− ∂W1  =0 ・・・・・[***]
∂q ∂Q ∂t

が恒等式の成り立つ条件です。(普通は∂Wj/∂t = 0 )  他も同じです。

[3] 回転座標系(2次元)への変数変換を具体例としておきます。

(q1,q2)≡(x,y),(Q1,Q2)≡(X,Y) という記号を用いることにします。母関数は,W2=W2(t,x,y,Px,Py)

px ∂W2 ,py ∂W2 ,X ∂W2 ,Y ∂W2 ・・・・・[***]’
∂x ∂y ∂PX ∂PY
K(t,X,Y,PX,PY)=H(t,x,y,px,py)+ ∂W2 ・・・・・[***]”
∂t

静止座標系系(x,y)から回転座標系(X,Y)への変数変換は,

x cosωt -sinωt X  ・・・・
y sinωt cosωt Y

で表され[#],その逆変換は,

∂W2
∂PX
X cosωt sinωt x
Y -sinωt cosωt y
∂W2
∂PY

これを満足させるためには,

W2(t,x,y,Px,Py)=PX{xcosωt+ysinωt}+PY{−xsinωt+ycosωt}

とおけばよい。[***]’の前半部分も簡単に確かめられます。また,[***]”より,回転座標系のハミルトニアンは,

K(t,X,Y,PX,PY)=H(t,x,y,px,py)+ ∂W2
∂t
 = H+ω{PX(−xsinωt+ycosωt)+PY(−xcosωt−ysinωt)}
 = H+ω{YPX−XPY}

となります。第2項は角運動量

Lz=YPX−XPY

です。


[ 目次へ ]