4-3 部分多様体と正則値定理
f-denshi.com   [目次へ]  最終更新日:22/11/03    校正中 
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1. 部分多様体

[1]

定義1  部分多様体

m次元 Cr級多様体 Mの部分集合N (N⊂M) の任意の点p に対して,p を含む Mの座標近傍 (U;x1,x2,…,xm ) が存在して,

N U={ (x1,x2,…,xm )= (x1,x2,…,xn,0,…,0) , m>n }

と表すことができるとき,N を M の n次元 Cr級部分多様体という。 

注意: n=mのときは,部分集合NがMの開集合Uの一つであれば,Mの部分多様体であるとする。

例えば,R3の部分集合であるx軸Rは { (x1,0,0)⊂R3 }と表されるので,R3の1次元部分多様体,また, x-y平面R2は{ (x1,x2,0)⊂R3 } と表されるのでR3の2次元部分多様体です。

この例の場合は自明ですが,部分集合が複雑になると,上の定義を満たす座標近傍は自明でなく,それを具体的に見出すことも困難になってきます。

そこで,部分集合が部分多様体であることを示すためには,f そのものではなく,その微分の性質について述べた命題・定理も重要です。


[2] 

定理1

m次元多様体M から n次元多様体N へのCr級写像を f とする (m>n) とき,p∈Mにおける微分 (df)p: Tp(M)→Tf(p)(N) が全射であるとき,

pの局所座標系 (x1,…,xm) と f(p)の周りの局所座標系 (y1,…,yn) を適当に選ぶと,f の局所座標表示を,

y1=f1(x1,…,xm)=xm-n+1
y2=f2(x1,…,xm)=xm-n+2
      :
yn=fn(x1,…,xm)=xm

と表すことができる。

つまり,(df)p が全射であれば,f を射影: Rm-n×Rn → Rn として記述できる座標系の存在が保証されるということです。そして,Nの座標は,Mの座標のなかからn個を選んで表されることが分かります。

略証

f の局所座標による表現をとりあえず,

y1=f1(x1,…,xm)
y2=f2(x1,…,xm)
     :
yn=fn(x1,…,xm)

とする。p における(df)pが全射ならば,そのヤコビ行列 (Jf)p は,適当に x1,…,xm を並べ換えることで,

(df)p * ・・・ * B n
:   :
* ・・・ *
m-n列 n列

という m行n列の行列で表すことができる。ただし,

B
∂f1 (p) ∂f1 (p) ∂f1 (p)
∂xm-n+1 ∂xm-n+2 ∂xm
∂fn (p) ∂fn (p) ∂fn (p)
∂xm-n+1 ∂xm-n+2 ∂xm
detB≠0

である。ここで,p の座標近傍(U;x1,…,xm) からRmへの写像φを

φ(x1,…,xm)=φ x1 x1
xm-n xm-n
xm-n+1 f1(x1,…,xm)
xm fn(x1,…,xm)

と定義すると,そのヤコビ行列は,

Em-n O ,  Em-nはm-n次単位行列
(Jφ)p * ・・・ * B
:   :
* ・・・ *

であり,この行列はdet(Jφ)p=detB≠0 なので,逆写像定理より,φにはφ(p)の座標近傍 (U’;z1,…,zm) から (U;x1,…,xm) への逆写像が存在し,

φ-1 z1 x1 =φ-1 x1
zm-n xm-n xm-n
zm-n+1 xm-n+1 f1(x1,…,xm)
zm xm fn(x1,…,xm)

となっている。したがって,

fοφ-1(z1,…,zm)=f(x1,…,xm)
          =(f1(x1,…,xm),f2(x1,…,xm),…,fn(x1,…,xm))
          =(zm-n+1,,,zm)

と書くことができる。つまり,MのU’の座標系では,f は射影となっている。

よって, z1,…,zm を改めて x1,…,xm と表せば,写像 f は,定理1の囲みの表記と一致させられる。


2. 正則値の定理

[1]

さらに議論を進めるために次のような用語を定義しておきます。

定義2  正則値と臨界値

Cr級多様体 M からCr級多様体 N への Cr級写像f について,p∈M,q=f(p)∈N とする。

(1) p における微分 (df)p : TpM → Tf(p)N が全射である ( rank (df)p=dimN )とき,p はf の正則点であるという。

  一方,p においてf は正則でない,すなわち,rank (df)p<dim N であるとき,p を f の臨界点という。また,すべての f の臨界点からなる集合をCf と表す。

(2) すべてのf の臨界点の像 f(Cf) に属する Nの点を f の臨界値とよぶ。また,臨界値でない Nの点を f の正則値という。

    ( 正則値の集合=f(M)−f(Cf) )


[2]

例1

f: R3→R として,

f(r)=f(x,y,z)
  =x2+y2+z2  (C級関数)

を考える。(df)r を表すヤコビ行列は,

 (Jf)r
2x
2y
2z

よって,

 rank (Jf)r 0   (r =(x,y,z)=0 ) 
1   (r0      )

すなわち,

f の臨界点は0 で,臨界値は0

だけである。したがって,

f の正則点は R3−{ 0 },
f の正則値は,r2,r∈R となる。

定理1について検証すると,正則点に通常の球面座標 (θ,φ,r) を適用すれば,f(r)=r2 であるから,f の正則値側のRの y座標目盛を通常の実数直線に対して√r 倍で振っておけば,f は射影: (θ,φ,r) → r とみなせる。

[3]

正則値定理

m次元多様体M から n次元多様体への Cr級写像をf とするとき,q∈N が f の正則値で,f-1(q)≠φならば,f-1(q) の集合は Mの (m−n)次元部分多様体である。

証明

定理1を線形写像としての行列の次元定理 [#]

dim M = dim Im f + dim Ker f 

を用いて言い換えればよい。



例1において,r2 >0 は f: R3→R の正則値であるので,正則値定理から,f-1(r2) ={ r ∈R3|f(r)=x2+y2+z2=r2 } は半径 r の球面 S2であり,R3の 2 (=3-1) 次元の部分多様体となっている。

とりあえず,ここまで。



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