Appendix 4 うず,わき出しのない2次元ベクトル場
f-denshi.com   [目次へ] 更新日: 2009/12/1
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[1]  勾配 grad,回転 rot ,発散 div とは何か,その物理的,数学的な意味を把握するためにベクトル場の中で最も重要な「うず,わき出しのない2次元ベクトル場」を例にとり,考えてみます。

ベクトル場 A とその各点 を +90°回転させて得られる付随したベクトル場 A を,

A =(u(x,y),v(x,y)),  A =(-v(x,y), u(x,y))         

とします。(以前はA を -90°回転させて,として定義していましたが,+90°に訂正しました。それに応じて,A の関わる箇所の符合もプラスマイナスすべて入れ替えました。10/11/08)

[2] このとき,単連結な領域 Dで,常に rotA 0 であるとき,このベクトル場はうずのないベクトル場といいます。一方,常に DivA =0 であるときはわき出しのないベクトル場といいます。ここで,うずなし,わき出しなしという言葉は,流体の流れ方を思い浮かべたときのその文字どおりの意味を示しています。

このような場については次の定理が成り立つことを確認しておきましょう。

定理1 渦のない場について次の3つは同値

・つねに,RotA =0 となる。(うずなしの定義)
・ポテンシャル関数 φ: Grad φ=A となる φ が存在する。
・任意の閉曲線 C について   A ・dr  = 0

および,

定理2 湧き出しのない場について次の3つは同値

・つねに,DivA =0 なる。(わき出しなしの定義)
・流れの関数 ψ: Gradψ=A  となる ψ が存在する。ただし,A =(-v, u)。 
・任意の閉曲線 C について   A ・dr =0

証明はA =(u(x,y),v(x,y),0)と考えた3次元の場合を参考 [#1]にしてもらうこととし,ここでは省略します。

cf.  rotA ∂0 ∂v ∂u ∂0 ∂v ∂u
∂y ∂z ∂z ∂x ∂x ∂y
       = 0, 0, ∂v ∂u の第三成分(z成分)のみを考えればよい。
∂x ∂y

[3] さて,いま,ベクトル場 A =(u(x,y),v(x,y))が,わき出し,うずも両方ともないとき,u(x,y),v(x,y)について,

RotA =0 から

rotA ∂v ∂u =0 ⇔ − ∂u ∂(-v)    
∂x ∂y ∂y ∂x

DivA =0 

divA ∂u ∂v =0 ⇔  ∂u ∂(-v)
∂x ∂y ∂x ∂y

これら2つの方程式は,u(x,y),-v(x,y)に関するコーシー・リーマンの関係式(またはコーシー・リーマンの方程式)と言います[#]。この関係式は,

f =u(x,y)-i v(x,y)

で表せる複素関数f(x+yi )が正則関数であるための必要十分条件です。これら2式をもちいると,

2u 2u ∂  ∂u ∂  ∂u
∂x2 ∂y2 ∂x ∂x ∂y ∂y
  =− ∂  ∂v ∂  ∂v =0  
∂x ∂y ∂y ∂x

という計算ができます。ただし,u(x,y),v(x,y)はC2級関数[#]と仮定します。同様に,

2v(x,y) 2v(x,y) =0 
∂x2   ∂y2

も示すことができます。つまり,u(x,y),v(x,y)それぞれはラプラス方程式[#]を満足します。 

[4] 一方,次の関係を満たすようなφ,ψが存在します。

Grad φ =A =(u,v) から

grad φ = ∂φ ∂φ =(u,v)   ⇔ ∂φ =u,  ∂φ =v
∂x ∂y ∂x ∂y

Grad ψ = A  =(-v, u) から

grad ψ = ∂ψ ∂ψ =(-v, u)  ⇔ ∂ψ =-v,  ∂ψ =+u
∂x ∂y ∂x ∂y

すなわち,

∂ψ ∂φ =v   ,   ∂φ ∂ψ =u
∂x ∂y ∂x ∂y
↓↑
∂φ ∂ψ   ,   ∂φ ∂ψ
∂y ∂x ∂x ∂y

最後の式は,φ(x,y),ψ(x,y)とがコーシー・リーマンの関係式を満たす関数であることを示しており,φ(x,y),ψ(x,y)もラプラス方程式を満たしています。

[5] まとめると,

うずとわき出しの両方とも存在しないベクトル場 A =(u(x,y),v(x,y)) の特徴:
( I )   ∂u(x,y) ∂(-v(x,y))
かつ,
u(x,y)) =− ∂(-v(x,y))
∂x ∂y ∂y ∂x
( II )   2u(x,y) 2u(x,y) =0   ,    2v(x,y) 2v(x,y) =0
∂x2   ∂y2 ∂x2   ∂y2
対応するポテンシャル関数φ(x,y),流れ関数ψ(x,y)について,
( I )’   ∂φ(x,y) ∂ψ(x,y)
かつ,
∂φ(x,y) =− ∂ψ(x,y)
∂x ∂y ∂y ∂x
( II )’   2φ(x,y) 2φ(x,y) =0   ,    2ψ(x,y) 2ψ(x,y) =0
∂x2   ∂y2 ∂x2   ∂y2
ここで,複素速度ポテンシャル : F = φ+i ψ なるものを考えると,これは正則関数になる! ⇒[#]

ということで,渦なし,わき出しなしということが複素関数論における正則関数と密接に関係あることがわかりました。




[6] 渦,わき出しのない場の例をあげておきましょう。

例1 複素ポテンシャル F(z)=z2 の作るベクトル場

ベクトル場

A =( 2x,-2y)
A =( 2y, 2x)

を考えると,

RotA DivA =0  

はすぐに確かめられます。

ポテンシャル
関数 (破線)
流れ関数
 (黄実線)
φ=x2-y2 ψ= 2xy

実際に計算して次のように確かめられます。

Grad φ = ∂φ ∂φ =(2x,-2y)=A
∂x ∂y

Grad ψ = ∂ψ ∂ψ =(2y, 2x)=A
∂x ∂y

複素速度ポテンシャルを考えると,

F(x,y)=φ+i ψ=(x2-y2)+2xyi =(x+i y)2=z2

つまり,このベクトル場は正則関数 F(z)=z2 と同値 です。





例2  中心力の場

A =χ(r)( x−x0,y−y0)
A =χ(r)(-(y−y0), (x−x0))

x0=0,y0=0 として説明します。つまり,ベクトル場を,

A =χ(r)( x,y)=χ(r)r

とします。

|r |=r=
 x2+y2
∂r
 x2+y2
x x
∂x ∂x
 x2+y2
r

回転は,

RotA (χ(r)・y )− (χ(r)・ x )
∂x ∂y
         = dχ(r) x ・y − dχ(r) y ・x = 0
dr r dr r

つまり,中心力の場にうずはない。一方,

DivA (χ(r)・x )+ (χ(r)・y )
∂x ∂y
        dχ(r) x2  + dχ(r) y2  + 2χ(r)
dr r dr r
        dχ(r) r + 2χ(r)
dr

DivA =0 であるためには,cを定数として,

χ(r)= c    ∴  A = c r
r2 r2

でなければなりません。これを中心力のポテンシャル場といいます。

Grad log r = r-2r

であることに注意して,ポテンシャル関数は,定数c0,c1を用いて,

φ=c0log r +c1

とすればよいことがわかります。流れ関数はどうなるのでしょうか?   →[#]

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