2 集合の濃度 | |
f-denshi.com [目次へ] 最終更新日:04/10/10 |
1 で概観したように,有理数の個数は可算ということと,その長さ(=測度)が 0 というところがルベーグ積分では重要な役割を果たします。リーマン積分では,Δx という微小な長さを,面積を作り出す構成要素と考えているのに対して,ルベーグ積分では,Δx をさらに分解して取り出してきた点を構成要素と捉えているのです。つまり,点に囲まれた図形の面積を考えるのです。そして,この点とは実数の集合における元であって,実数の無限集合としての性質,特にその集合の元の数 (=濃度) についての洞察が必要となります。
[1] 基本用語(定義)をまとめておきます。集合の定義(←ホントは難しい!)をここでは,
「元または要素と呼ばれるものの集まり」
という程度にしておきましょう。ここで元とは何かということですが,3つの整数: 0,1,2 と個別に指定したり,0 以上 1 以下の実数というようにある条件 (性質) でもって明確に指定できるものです。これをたとえば,集合 A,B として次のように書きます。
A={ a|a=0,1,2 }={ 0,1,2 }
B={ b|b∈R かつ 0≦b≦1 } ←Rとは実数全体の集合のことです。
また,元を一切含まない集合は空集合と呼ばれ,φという記号で表されます。 また,a が集合A の元であることを
a∈A
と書きます。
[2] 上の2つの集合A,B の間に定義される基本的な演算を列挙すると,
(1) 共通部分:A∩B={ z|z=0,1 } ←”共通集合,交わり”ともいう。
(2) 和集合 :A∪B ={ z|0≦z≦1,z=2 }
(3) 直積集合:A×B={(x,y)|x=0,1,2,かつ 0≦y≦1 }
(4) 直和集合:A凵B={ z|z=0,1,2 ,0≦z≦1}
↑ 0∈A と 0∈B は区別されます。1も同様。
A凵B のとき,A∩B=φ
があります。(右図参照のこと)
[3] 集合 Z の一部の元を選び出して作られる集合 X を Z の部分集合といい,この関係を,
X⊂Z,または,Z⊃X
と書きます。先の集合A の部分集合には,
{0},{1},{2},{0,1},{0,2},{1,2},{0,1,2},φ
の8個があり,{0,1}⊂A のように書きます。ここで,φ,および,A 自身 ={0,1,2} も部分集合に含めることに注意しましょう。また,列挙した A の部分集合すべてを元とする集合(=集合の集合),
β[A]={ {0},{1},{2},{0,1},{0,2},{1,2},{0,1,2},φ }
↑{0,1}∈β[A] と {{0,1}}⊂β[A] とでは意味が違います。
なお,{0,1}⊂β[A]は意味不明!
なるものを考えることができますが,これを集合 A のベキ集合といい,β[A] と書きます。ベキ集合は後程,述べる集合族(部分集合族)の特別な場合です。 詳細は ⇒ Appendix2 を参考にして下さい。 ここでは言葉だけ覚えておきましょう。
[4] 集合 Z,X が与えられており,X⊂Z のとき,Z の部分集合(右図参照)
Xc={ x|x∈Z,かつ x X } (右図参照)
を Z に関する X の補集合といいます。これに関連した次のド・モルガンの法則は有名。
(A∪B)c=Ac∩Bc
(A∩B)c=Ac∪Bc
[5] もう一つ,分配法則も思い出しておきましょう。
A∪(B∩C)=(A∪B)∩(A∪C)
A∩(B∪C)=(A∩B)∪(A∩C)
以上は可算個のB1,B2,・・・ に対しても同様に成り立ちます。
A∪(B1∩B2∩…)=(A∪B1)∩(A∪B2)∩…
A∩(B1∪B2∪…)=(A∩B1)∪(A∩B2)∪…
[6] 区間を無限個の和集合,共通部分で表すことができます。
(1) [a,b]= | a− | 1 | ,b+ | 1 | ←すべての開区間で a,b を含む | |||||
n | n |
(2) (a,b)= | a+ | 1 | ,b− | 1 | ←すべての閉区間で a,b を含まない | |||||
n | n |
(1)では,a≦b.
(2)では,a<b で,b−a−2/n<0 のときは,[ ,] は空集合とする。
[7] 繰り返し出てくる慣用フレーズとして,
An = ∩ An= { x∈X | すべての n∈N について x∈An } n∈N
An = U An= { x∈X | ある n∈N が存在して x∈An } n∈N
また,任意のnについて,
Ak ⊂ An ⊂ Ak ←有限個でも成り立つ
[8] 集合 X から Y への写像を f ,その逆写像を f-1,および,
An⊂X n=1,2,・・・
Bn⊂Y n=1,2,・・・
f(An) ={ f(x)∈Y|x∈An }
f-1( Bn)={ x∈X|f(x)∈ Bn }
とするとき,
f( An)= f(An)
f( An)= f(An)
f-1( Bn)= f-1(Bn)
f-1( Bn)= f-1(Bn)
簡単ですが,初歩的な集合に関する基本用語の確認です。
[6] さて,集合の元の個数をその集合の濃度と呼ぶことにします。たとえば,A ={0,1,2} の濃度は,
A =
{0,1,2} =3
と書きます。
一方,集合論で興味の中心となるのは整数全体,ある閉区間の実数というような元の個数が無限大である無限集合です。このような集合の濃度について考察するためには数を数えるとは何か厳密に規定する必要があります。
普段の生活で 「もの(集合)の数を数える」 とは,”小さい順に並んでいる自然数” へ 1 から順に 1 対 1 に対応をつけてゆき,すべて対応がついたときの最後の自然数をその集合の数と呼んでいることに気が付きます。この数え方を無限集合にも借用し,
「2つの集合の元の間に上への1対1の写像が存在するとき,この2つの集合の濃度は等しいとする。」
と定義します。何でもない取り決め [=定義] のようですが,この定義のもとで有限集合どおしの間では考えられないようなことが,無限集合の場合には生じます。
[7] まず,「自然数全体の集合 N と整数全体の集合 Z の濃度は等しい。」 と結論付けられることです。実際に 1対 1写像として,
n∈N ⇒ z∈Z : z(n)= n/2 (n=2,4,6,・・・) −(n-1)/2 (n=1,3,5,・・・)
を考えることができます。この結論が ”人の直感” とズレている原因は,「自然数は整数の一部分である,つまり,
N⊂Z であってけっして, Z⊂N でない
にもかかわらず,この2つの集合の ”元の数が等しい” こと」 にあります。しかしながら,いまのところ,これ以上,合理的な数の数え方を見つけ出すことはできてないのです。人類を代表するような数学者であっても。
自然数全体の集合N と等しい濃度を,
N = (←アレフゼロと呼ぶ)
と書き,可算基数とか可算濃度といいます。また,これと等しい濃度を持つ集合を可算集合 ( countable set ) と言います。整数のほかには,偶数,有理数,素数全体の集合なども可算集合です。
可算濃度=自然数の濃度=整数の濃度=偶数の濃度=素数の濃度=・・
[1] このように1対1写像の存在によって2つの集合の濃度が等しいことを定めれば,実数の部分集合どうしの濃度(数)を比較することも可能なはずです。たとえば,次のような関数を考えます。
y =tan x− 1 π x ∈R,かつ,0 <x<1 2
この関数(この逆関数も)は与えられた定義域(0,1)で連続な1対1写像であり,値域は −∞ から +∞ まですべての実数値を取りえます[右図参照]。
整数を数えたときと同じ流儀でいくと,集合 I=(0,1)と集合 R=(−∞,∞) の濃度は等しいと結論できます。つまり,長さが1の線分と無限に長い数直線に含まれている 実数の濃度 は等しいのです。実数と等しい濃度を
R = (←アレフと呼ぶ)
と書き,連続基数,または連続体濃度などといいます。
[2]自然数にしろ実数にしろ,無限を考えると部分と全体とが等しいというようなことが起こることがわかりました。それでは自然数の濃度と実数の濃度との関係はどうなっているのでしょうか。これはカントルによって
<
であることが証明されています。つまり,自然数より実数の数の方が多いのです。
対角線論法による証明→ Appendix 1