| 8-1 ルジャンドル変換 | ||
| f-denshi.com 最終更新日:05/01/22 | ||
全微分可能な2変数関数のもっとも重要な応用の一つを紹介します。物理や化学(解析力学,熱力学)において,そこで使われる未知数(変数)の数が独立な未知数より多いことがあります。そのような場合,あるいくつかの未知数の値が定まると残りの未知数の値も自動的に決まってしまいます。この未知数を相互に関係づける解析的な表現の一つがルジャンドル変換です。この章では熱力学諸関数間の変換で使われる4変数の場合を例にとり説明しましょう。
[1] 関数や方程式を扱うときしばしば,変数の置き換え(変数変換)が行われます。例えば,2つの独立変数に関する関数,
f(x,y) = 2x+2y+3xy
は,x+y =α,xy = β と置き換えることで,
f(x,y) ⇒ g0(α,β) = 2α+ 3β
となります。または部分的な置き換えによって,
f(x,y) ⇒ g1(α,y) = 2α+ 3(α−y)y
f(x,y) ⇒ g2(x,α) = 2α+ 3x (α−x)
f(x,y) ⇒ g3(x,β) = 2(x+β/x)+3β
f(x,y) ⇒ g4(β,y) = 2(β/y+y)+3β
などとも表すことができます。もちろん,これら6つの式の意味する内容はおなじであり,4つの変数,x,y,α,β が現れますが,この問題における独立変数は2つだけです。
[2] さて,以上の前置きを念頭に今度は全微分を利用した同様な変数の置き換えを行ってみましょう。
(1) 変数 x,y を独立変数とする全微分可能な関数をφ(x,y) とします。全微分は
dφ = ∂φ dx + ∂φ dy ∂x y ∂y x
ここで,
u = ∂φ , v = ∂φ ∂x y ∂y x
と変数を導入して置き換えれば,
dφ = udx + vdy
と書けます。そして,この式の u や v を独立変数とみなす関係式を見出そうというのがこれからの作業です。
(2) まず,φ(x,y) において変数変換 ( x → u ) を行いたいときは,
ψ = φ−xu
と関数ψを定義すれば,
dψ= dφ−d(xu)
= (udx+vdy)−(xdu+udx)
= −xdu + vdy
と,ψが u,y の関数として表せていることがわかります。これを u,y を独立変数とするψ(u,y)の全微分,
dψ= ∂ψ du + ∂ψ dy ∂u y ∂y u
と比較すれば,下のような関係が成り立っていなければなりません。
- x = ∂ψ , v = ∂ψ ∂u y ∂y u
(3) 次に,φ(x,y) の変数のうち (y → v) と換えたいときは,
λ = φ−yv
dλ = dφ−d(yv)
= (udx+vdy)−(ydv+vdy)
= udx − ydv
とすればよいことがわかります。これを全微分,
dλ= ∂λ dx+ ∂λ dv ∂x v ∂v x
と比較して,
u = ∂λ ,−y = ∂λ ∂x v ∂v x
(4) 同じような計算の繰り返しですが,ψ(u,y) の変数を (y → v) と換えるために,μ=ψ− yv と置くと,
dμ=dψ−d(yv)
=(−xdu+vdy)−(ydv+vdy)
=−xdu − ydv
これを全微分,
dμ = ∂μ du + ∂μ dv ∂u v ∂v u
と比較して,
−x = ∂μ , −y = ∂μ ∂u v ∂v u
が得られます。 以上が必要な関係式のすべてです。
[3]以下,蛇足ですが,
(4)' λ(x,v)の変数を(x→u)と換えるために μ'=λ−xu と置くこともできますが,
dμ'= dλ−d(xu)
= (udx−ydv)−(xdu+udx)
= −ydv−xdu
つまり,μ=μ'とすることができます。( つまり,上の置き換えから新しいことは何もでてこない! )
(4)'' また,φ(x,y)より一度に2つの変数を(x→u,y→v)と換えることもでき,
μ''= φ−xu−yv
と置いて,
dμ''= dφ−d(xu)−d(yv)
= (udx+vdy)−(xdu+udx)−(ydv+vdy)
= −ydv−xdu
つまり,μ''= μですが,これまでの計算をよく見ると,
μ''= φ−xu−yv = ψ−yv = λ−xu
などとなり,μ'' もさらに新しい関数を定義するものではありません。
[4] 以上,計算結果を一覧表にすると,下のように整理できます。
| φ(x,y) | ψ(u,y) | λ(x,v) | μ(u,v) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (φ=ψ+xu ) | ψ=φ−xu | λ=φ−yv | μ=ψ−yv | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (φ=λ+yv) | (ψ=μ+yv) | (λ=μ+xu) | μ=λ−xu | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (φ=μ+xu+yv) | (μ=φ−xu−yv) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (1) dφ=udx+vdy | (2) dψ=−xdu+vdy | (3) dλ=udx−ydv | (4) dμ=−xdu−ydv | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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[1] 熱力学への応用です。上の一覧表で,記号の置き換え,
φ → H [エンタルピー], x → S [エントロピー] ψ → G [ギブスの自由エネルギー] y → P [圧力] λ → U [内部エネルギー] u → T [温度] μ → F [ヘルムホルツの自由エネルギー] v → V [体積]
を行うと熱力学諸関数の相互変換の式がそっくり GET できるのです。
| H(S,P) | G(T,P) | U(S,V) | F(T,V) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (H=G+ST) | G=H−ST | U=H−PV | F=G−PV | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (H=U+PV) | (G=F+PV) | (U=F+ST) | F=U−ST | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| F=H−ST−PV | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| dH=TdS+VdP | dG=−SdT+VdP | dU=TdS−PdV | dF=−SdT−PdV | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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熱力学の教科書では結構,見通しの悪い計算と説明をだらだらとすることになるのですが,数学的なエッセンスを抽出してしまえば,意外とあっさりとしていること,理解していただけましたか? もちろん,これだけでは熱力学を理解したことにはなりませんが,・・・・,念のため。
( 私が大学4年生のとき,J.G.Kirkwood & I.Oppenheim著の”Chemical Thermodynamics”を研究室で輪読していたのですが,その当時ここで示したようなルジャンドル変換の説明(解釈)を思いつき,熱力学体系の美しさにいっそう取りつかれていきました。
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[2] 次は解析力学における例です。ラグランジアンと(符号を反転した)ハミルトニアンの関係:
−H(q,p)=L(q,q')−q'p
| が ルジャンドル変換(q'→p) になっています。 ただし,q'= | dq |
| dt |
先の4変数のルジャンドル変換のうちで今必要なのは,第1列と3列だけです。抜き出すと,
φ(x,y) λ(x,v) φ=λ+yv λ=φ−yv, dφ=udx+vdy dλ=udx−ydv
u= ∂φ :v= ∂φ ∂x y ∂y x
u= ∂λ :−y= ∂λ ∂x v ∂v x
となります。上の表で,
x → q , y → q', v → p , φ → L , λ → −H
と置き換えると,
L(q,q') -H(q,p) L=-H+q'p −H=L−q'p dL=udq+pdq' −dH=udq−q'dp
u = ∂L : p = ∂L ∂q q' ∂q' q
u = ∂-H :-q'= ∂-H ∂q P ∂p q
がハミルトニアンとラグラジアンをつなぐルジャンドル変換のかかわる部分です。
[3] 赤枠内の2式と,オイラー・ラグランジュ(E - L)の方程式[#] ,(←この方程式は解析力学を参照してください。)
∂L = d ∂L ∂q dt ∂q'
から,
u = ∂L =
(E-L方程式)d ∂L = dp ∂q dt ∂q' dt
これと黄枠の2式を使えば,ハミルトンの正準方程式
|
が得られます。