1 連立1次方程式いろいろ | ||
f-denshi.com 最終更新日:03/06/23 |
「はじめての線形代数」PDF版がこちらからダウンロードできます。
⇒ 無料見本
Cramer の公式は連立方程式が一組の解を持つ,言わば数学的に理想的な問題設定となっている場合に適用できる公式です。しかし,いつもこうすっきりいくとは限りません。連立方程式が無数の解(不定解)をもったり,一つも解を持たないような場合もあります。そのようなすっきりしないケースについて深く掘り下げて考えることで,大学理工系の必須科目である「線形代数」が誕生しました。その過程を追体験してみましょう。
唯一 1組の解をもつとき
[1] 最初に連立1次方程式をどのように解くのか思い出してみましょう。次の連立1次方程式:
2x−4y+3z =-3 ・・・・・ (1)
4x−3y+3z = 1 ・・・・・ (2)
6x−2y+4z = 6 ・・・・・ (3)・・・・[1]
は,(1)式×2 を (2) 式から辺々引き,(1)式×3 を (3) 式から辺々引くと,[ x の消去 ]
2x−4y+3z =-3 ・・・・・ (1)
5y−3z = 7 ・・・・・ (2)’
10y−5z = 15 ・・・・・ (3)’・・・・[2]
さらに (2)’式×2 を(3)’式から引くと, [ y の消去 ]
2x−4y+3z =-3 ・・・・・ (1)
5y−3z = 7 ・・・・・ (2)’
z = 1 ・・・・・ (3)”・・・・[3]
と変形できます。さらに (3)”×3 を (2)’に加えて 5で両辺を割れば,
2x−4y+3z =-3 ・・・・・ (1)
y = 2 ・・・・・ (2)”
z = 1 ・・・・・ (3)”・・・・[4]
さらに,(2)”×4 と (3)”×(-3) を (1) に辺々加えて,2で割れば,
(1) → x=1 ・・・・・ (1)’
となります。最後をまとめると,
x = 1 ・・・・・ (1)
y = 2 ・・・・・ (2)’
z = 1 ・・・・・ (3)”・・・・[答え]
のように連立方程式が変形されたことになります。
[2] 行列とベクトルを用いてこれら連立方程式を表すこともできて,
↓
2x−4y+3z =-3
4x−3y+3z = 1
6x−2y+4z = 6⇔
2 -4 3 x = -3 ・・・・[1]’ 4 -3 3 y 1 6 -2 4 z 6 ↓
↓ [上三角行列に変形]2x−4y+3z =-3
5y−3z = 7
z = 1⇔
2 -4 3 x = -3 ・・・・[3]’ 0 5 -3 y 7 0 0 1 z 1
↓ [単位行列に変形]
x=1
y=2
z=1⇔
1 0 0 x = 1 ・・・[答え] 0 1 0 y 2 0 0 1 z 1
となります。結局,連立方程式を行列で表わしたとき,連立方程式を解くということは,ここで用いられた変形:
行列の基本変形:
1.ある行を何倍かする(0倍を除く)。
2.ある行の何倍かを他の行に加える。
3.行を入れ替える。
によって,「連立1次方程式を表す行列を単位行列に変形すること」と考えることができます。
なお,これらの変形を行列の行に関する基本変形といいますが,同様な変形を列について考えることもでき,それを行列の列に関する基本変形といいます。(両方まとめて行列の基本変形)。この列の基本変形が,例えば,先の連立方程式を,
と行と列を交換して書き表したときの ”解を求めるプロセス” であることは容易に確かめられます。
2x−4y+3z =-3
4x−3y+3z = 1
6x−2y+4z = 6⇔
(x,y,z) 2 4 6 =(-3,1,6) ・・・[1]” -4 -3 -2 3 3 4
[3] この行列で表した連立方程式[1]’の解法,
2 -4 3 x = -3 ⇒ 1 0 0 x = 1 4 -3 3 y 1 0 1 0 y 2 6 -2 4 z 6 0 0 1 z 1
を一般化すれば,
Av = b = Eb ⇒ Ev = d
と書くことができます。そこで,A の逆行列[#],A-1を Av = b 左からかけ,
A-1Av = Ev = A-1 b
として,これを[答え] Ev = d と比較すれば, A-1 b =d であることがわかります。つまり,基本変形のときに右辺の計算をすべて実行しないで, A-1 b の形にとどまるように計算すれば,A の逆行列が右辺に得られることがわかります。
[4] 実際にそのように計算して確かめてみましょう。
2 -4 3 x = -3 = 1 0 0 -3 4 -3 3 y 1 0 1 0 1 6 -2 4 z 6 0 0 1 6 ↑
A↑
v↑
b↑
E↑
b
両辺の行列について,1行目×2 を 2 行目から引き,1行目×3 を 3行目から引くと
2 -4 3 x = 1 0 0 -3 0 5 -3 y -2 1 0 1 0 10 -5 z -3 0 1 6
さらに ,2行目×2 を 3行目から引くと,
2 -4 3 x = 1 0 0 -3 0 5 -3 y -2 1 0 1 0 0 1 z 1 -2 1 6
さらに ,3行目×3 を 2行目に加えて 5で両辺を割れば,
2 -4 3 x = 1 0 0 -3 0 1 0 y 1/5 -1 3/5 1 0 0 1 z 1 -2 1 6
2行×4 と 3行×(-3) を 1行目に加えて,2で割れば,
1 0 0 x = -3/5 1 -3/10 -3 = 1 0 1 0 y 1/5 -1 3/5 1 2 0 0 1 z 1 -2 1 6 1 ↑
E↑
v↑
A-1↑
b↑
d
すなわち,Aの逆行列,
A-1 = -3/5 1 -3/10 1/5 -1 3/5 1 -2 1
が右辺に得られました。以上が連立一次方程式が唯一の解を持つときの話でした。
[3] ところがいつもこのように連立一次方程式を表す行列Aが行列の基本変形によって単位行列に変形できるとは限りません。たとえば,
不定解を持つ場合 1 :(1つのパラメーターを含む場合)
2x−4y+3z =-3
4x−3y+3z = 1
6x−7y+6z =-2⇔
2 -4 3 x = -3 4 -3 3 y 1 6 -7 6 z -2 ↓
2x−4y+3z =-3
5y−3z = 7
5y−3z = 7⇔
2 -4 3 x = -3 0 5 -3 y 7 0 5 -3 z 7 2x−4y+3z =-3
5y−3z = 7⇔
2 -4 3 x = -3 0 5 -3 y 7 0 0 0 z 0 ・・・・[5]
基本変形の途中で,2行目,3行目が同じ式になるので,この連立1次方程式は未知数3に比べて方程式の数が2であり,ひとつ少なく一意的な解(唯一の解)は存在しないことがわかります。この場合,連立1次方程式の解は,
z=t (任意の実数) とすると,最後の[5]から,
y=(7+3z)/5=(7+3t)/5
x=[-3−3z+4(7+3z)/5]/2=(13−3t)/10
という任意の実数パラメータ t を含む不定解となります。これをベクトルで表すと,
x = (13−3t)/10 = 13/10 +t -3/10 [直線の方程式] y (7+3t)/5 7/5 3/5 z t 0 1
となり,これは解全体の集合が3次元ユークリッド空間の中の直線,つまり,1次元空間であることを示しています。
不定解を持つ場合 2 :(2つのパラメーターを含む場合)
連立方程式が実質的に,
2x−4y+3z=-3
とひとつであらわせる場合を調べて見ましょう。この方程式の解は2つの実数パラメーターを導入して,y=s, z=t として,
x = (4s−3t−3)/2 = -3/2 +s 2 +t -3/2 ; s,t は任意の実数 y s 0 1 0 z t 0 0 1
となる(不定解(indeterminate solution))ことがわかります。したがって一般解は平面(2次元空間)を表します。
[5] 今度は連立1次方程式が解を持たない場合です。下の連立方程式は,問題の中に矛盾を含んでいて,3つの方程式を満足する未知数は見つけられません。
解を持たない場合
2x−4y+3z =-3
4x−3y+3z = 1
6x−7y+6z = 1⇒
2 -4 3 x = -3 4 -3 3 y 1 6 -7 6 z 1 ↓ x消去
2x−4y+3z =-3
5y−3z = 7
5y−3z = 10⇒
2 -4 3 x = -3 0 5 -3 y 7 0 5 -3 z 10 ↓
2x−4y+3z =-3
5y−3z = 7
0 =3⇒
2 -4 3 x = -3 0 5 -3 y 7 0 0 0 z 3
となって,3行目に0=3と矛盾を生じます。これはもとの方程式が矛盾を含んでいることによります。つまり解は存在しないのです。
結局,行列の基本変形によってある行のすべての要素が0となるような場合は連立1次方程式の解は,「唯一1組」求まらないことが予想されます。