Appendix7 ヤング図形と対称式
f-denshi.com  最終更新日: 21/09/04
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1.ヤング図形と対称式

[1] ヤング図形と呼ばれる図形を用いた計算を対称式の計算へ応用する利用方法を紹介します。対称式については代数のところで正確な定義を述べていますが、次のような下添字の交換に対して、全体として不変な多項式:

記号1 n=2 n=3 n=・・・
xj2

x12+x22

x12+x22+x32

・・・
xjxk x1x2 + x2x1 x1x2 + x1x3 + x2x1 + x2x3 + x3x1 + x3x2 ・・・
・・・ ・・・ ・・・ ・・・
xj3xk x13x2+x23x1 x13x2+x13x3+x23x1+x23x3+x33x1+x33x2 ・・・

などを対称式と呼びます。詳しくは→[#]。言い換えると、左の記号1における x の下添字(j≠k)を順次、1からnまでいろいろ換えて得られる単項式のすべての和によってn文字からなる対称式が得られます。

[2] この記号1を次のように書き換え、それをヤング図形といいます。

まず、n文字(x1、x2 、・・・xn)の対称式は、

Σ xb1a1xb2a2 ・・・ xbkak 

ただし、

(1)  a1>a2>・・・>ak は定まったk個の自然数、(k≦n)
(2) Σ(和)は、 x の下添字について、b1,・・、bk は1・・nまでのうちの異なるk個をとって並べた”順列”すべてにわたる。

と表せることが分かります。(2)は(1)が決まる(n、k が与えられる)と自動的に定まるので対称式は指数部分だけを並べて

(a1、a2、・・・、ak)    ←暫定

と書いて完全に指定することが可能です。

(3)さらに同じ数字Nがk個並ぶときはNkのように書くことにします。これをヤング図形といいます

[3] これも例を示す方がわかりやすいでしょう。

記号1 対称式の具体例 ヤング図形
xj2(n=2) x12+x22   (2)
xj2(n=3) x12+x22+x32   (2)
xjxk(n=2) x1x2 + x2x1   (12
xj3xk(n=3)  x13x2+x13x3+x23x1+x23x3+x33x1+x33x2 (31)

特に

s1= x1+x2・・・+xn  =(1)
s2=x1x2+・・・+xn-1xn=(12
    ・・・・・・・・・・・・・
sn=   x12・・・xn    =(1n

と表せる対称式を基本対称式といいます。別の定義は→[#]。これら数字の並びをヤング図形と呼ぶのは実際の図形と一対一の対応を考えるからで、下のようになります。

 (31)   

     
 

 (3212)   ←つまり、 =(3列タイル1行だけ 2列タイル1行だけ 1列タイル2行)ということです。

     
     
   
 

[4] このような図形の間にヤング図形と呼ばれるある規則に従った計算=”積” を定義されています。「習うより慣れろ」ということで、具体例を見ていきましょう。まず、ヤング図形の作り方(積の計算方法)です。

(T)n=4 のときの例です。

          * * *   * *      
    ×   +1       +2 * * +3 *  
                        *  
                        *  
A B C D E
(212) ×(1) +1 (312 +2 (221) +3 (213
係数の意味 → 1C1 2C1 3C1

 白タイルに黄タイルを右上にひっつけて、下に滑らせながら新たな項(ヤング図形)をつくっていくのですが、ルールとして、(1)列数が代わるところで一端止まり、(2)そうでない垂直なところ(同じ列数のところ)は一気に滑り落ちるということとします。そうすると上のようにC、D、Eができます。図形の係数の意味はその図で、”黄タイルを含む行と”列数が等しい行”の個数です。つまり、[*]の付いた行数、これをNとします。そしてその中にふくまれる黄タイルの個数をM←今の場合どの場合も1です)とすると、係数は
    NCM

と定義されています。これを2つの図形の間の”演算”として、

A×BC2D3E  ⇔ (212×(1)=(3122(221)3(213

のように書くわけです。もっと例を見たい方→[#]

[5] 一方、各記号に対応する対称式については、普通の代数演算が可能なワケですが、左辺については、

  (212)=x12(x2x3+x2x4+x3x4)+x22(x1x2+x1x3+x3x4
                       +x32(x1x2+x1x4+x2x4)+x42(x1x2+x1x3+x2x3
  (1)  =x1+x2+x3+x4

であり、この2つの多項式の積を計算(展開)しましょう。愚直に掛け合わせて行くと、

 (212)×(1)=x13(x2x3+x2x4+x3x4+x12(x2x3+x2x4+x3x4)(x2+x3+x4
         +x23(x1x3+x1x4+x3x4+x22(x1x3+x1x4+x3x4)(x1+x3+x4
         +x33(x1x2+x1x4+x2x4+x32(x1x2+x1x4+x2x4)(x1+x2+x4
         +x43(x1x2+x1x3+x2x3+x42(x1x2+x1x3+x2x3)(x1+x2+x3)          

        =(312 
          +x123x2x3x4+x2x3(x2+x3)+x2x4(x2+x4)+x3x4(x3+x4)}
          +x223x1x3x4+x1x3(x1+x3)+x1x4(x1+x4)+x3x4(x3+x4)}
          +x323x1x2x4+x1x2(x1+x2)+x1x4(x1+x4)+x2x4(x2+x4)}
          +x423x1x2x4+x1x2(x1+x2)+x1x3(x1+x3)+x2x3(x2+x3)}

        =(3123(213
          +x12[x22x3+x2x32+x22x4+x2x42+x32x4+x3x42
          
x22[x12x3+x1x32+x12x4+x1x42+x33x4+x3x42
          
x32[x12x2+x1x22+x12x4+x1x42+x22x4+x2x42
          
x42[x12x2+x1x22+x12x3+x1x32+x22x3+x2x32

        =(3123(2132(221)

ということで、先程の図形を使った”演算”と1対1の対応が付くわけです。

[積表現:(212)×(1)]=[展開した和の表現:(3123(213(221)

丹念にこの計算過程(結果)とヤング図を比較すれば、その対応関係(係数がそうなる意味)を見出すことは難しくありません。

(U) もう一つ例をあげておきます。こんどは黄タイルが2つある場合です。このとき黄タイルの横並びは禁止です。他の規則は先程と同じとすると出現する並びは下のようになります。

          * * *   * * *   * *            
    ×   * *   +3 *     +3 * * +4 * * +6 *  
                  *       * *   *     *  
                  *             *     *  
                                      *  
(212) × (12 (321) 3(313 3(23 4(2212 6(214
係数の計算 2・1C1 1C13C1 3C2 1C12C1 4C2

 これに対応する対称式の展開はどうなるのでしょうか。練習問題です。


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