1 群の定義 
f-denshi.com  最終更新日: 04/02/27
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 代数学の目的は代数方程式を解くことです。しかし、フェルマーの定理のようなごく最近まで数学者を悩ましてきた代数の難問は解の公式を見つけておしまいというような単純な話ではありません。その答えを得るまでに「方程式を解くとはいったいどういうことなのか」深く掘り下げることが不可欠でした。その過程で群、体という抽象代数と呼ばれる分野が確立してきたのです。
 この講義では証明の多くは省略し、代数の基本的な用語の意味を具体例を通してつかむことに重点をおきました。


1.群の定義

[1] 整数どうしのたし算・引き算をおこなう代数の体系、これは群です。また、有理数から0を除いた集合にかけ算・割り算を導入した代数の体系、これも群です。数学的に意味を失わないようにこれら体系に共通する最小のエッセンスを抜き出したものが抽象的な群の定義となります。群の定義をまずきちんと書いておきましょう。

[2] 集合Gに属する順序のついた任意の2つの元(a、b)を(←(a、b)と(b、a)とは識別可能と言う意味)、集合 G に属する一つの元 c に対応させる規則があるとき、集合 G に演算が定義されているといい、この対応: (a、b) → c を

a・b=c  

と書くことにします。この集合 G と演算 ・ が次の3つの条件を満たすとき、集合 G は演算 ・ について群をなす注意1といい、群(G、・ ) と書きます。 

群の定義 

(1)[結合法則]
   G の任意の3つの元 a、b、c に対して、a・(b・c)=(a・b)・c が成り立つ。

(2)[単位元の存在]
   G のすべての元 a に対して G に属する元 e が存在して、a・e=a となる。

(3)[逆元の存在]
   すべての元 a に対して、a・b=e となるような元 b が G の元の中に存在する。

上の定義から,e・a=a,および,b・a=e も自動的に満たされる。

ここで(2)における e を単位元といいます。
また、(3)における b はa の逆元といい、a の逆元であることを強調するために、a-1 とも書きます。

[3] 例として、有理数から 0 を除いた残りの集合 Q* はかけ算を演算として群をなすことが容易に確かめられます。単位元は1、有理数 a/b ( a、b は0以外の整数 )の逆元はb/aです。

(注意1):簡単に「 G は群をなす 」ともいいます。他にも、

「群 G」          = 群となるように演算が定義された集合 G (というニュアンス)、
「G を群とする」 = 集合 G が群をなすように演算が定義されている

というような言い方もされます。

2.可換群

[1] 群のうちで、さらに次の規則、

(4)[交換法則]
   G の任意の元 a、b について、a・b=b・a

をみたすものを可換群、もしくはアーベル群といいます。
 先ほどのかけ算を演算とする集合 Q*は可換群でもあることはすぐにわかります。しかし、一般的に、群が可換群になるとは限りません。

[2] 例えば、実数を行列要素とする2行2列の正方行列のうちで、逆行列が存在するもの全体の集合は通常の行列のかけ算を演算として群をなしますが、交換法則は任意の元については成り立ちません。



3.乗法群と加法群(加群)

[1] 群を定義する演算として、先程は乗法と呼ばれる記号 ・ を用いましたが、これを加法と呼ばれる+を演算記号として用いても数学的内容は同じです。しかし、前者の記号を用いた場合を乗法群、後者の記号を用いた場合を加群(または加法群)と呼び、扱う対象によって使い分けることが一般的です。 また、可換群に対してしばしば加群の記号を用いることから、可換群を加群と呼ぶこともあります。
 以下、加群の定義と使われる記号をまとめておきます。 

加群の定義

(1')[結合法則]
   G の任意の3つの元 a、b、c に対して、a+(b+c)=(a+b)+c が成り立つ。

(2')[単位元の存在]
   G のすべての元 a に対して、a+e=a となるような元 e が G の元の中に存在する。

(3')[逆元の存在]
   G のすべての元 a に対して、a+b=e となるような元 b が G の元の中に存在する。

 さらに、可換群の条件は、

(4')[交換法則]
   G の任意の元 a、b について、a+b=b+a が成り立つ。

と書き換えられます。また、加群の単位元を 0、逆元を −a と記します。

 以上、数の四則演算をイメージしながら群を定義しましたが、初学者が四則演算をイメージして群を理解しようとしてもきっとうまくいかないでしょう。歴史的にみても群の理論は変換(=写像)と呼ばれる概念を基に発展してきました。実際、集合の元としては写像を考え、演算としては合成写像の規則を採用することで、初めて数学的に豊かな内容をもつ群論が展開されるのです。そこで、第2章以下ではもっぱら変換群について考えていきます。

変換群: (1)集合の元     ⇒ 写像
      (2)元どおしの演算  ⇒ 写像の合成

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