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2 行列式の定義にどうやってたどり着くのか |
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f-denshi.com 最終更新日:06/03/17 |
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ここでの予備知識は高校生で習う3次元までのベクトル2次の行列式くらいまでとして,n元連立1次方程式の一般解の公式を予想して見ましょう。
高校数学の復習からです。未知数,x1,x2 についての連立1次方程式です。その一般式は,
a11x1+a12x2=b1
a21x1+a22x2=b2
となります。これを,x2 を消去するために,
a22a11x1+a22a12x2= a22b1
−a12a21x1−a12a22x2 =−a12b2
と変形して,辺々たせば,
( a22a11−a12a21 )x1 = a22b1−a12b2
したがって,a22a11−a12a21≠0 であるならば,
∴ x1= |
a22b1−a12b2 |
|
a22a11−a12a21 |
と解の半分が求まります。次に,x1 を消去して,x2 を求めるために与式を
−a21a11x1−a21a12x2=−a21b1
a11a21x1+a11a22x2= a11b2
として,辺々を足せば,
( a11a22−a21a12 )x2=−a21b1+a11b2
したがって,a11a22−a21a12≠0 であるならば,
∴ x2= |
−a21b1+a11b2 |
|
a11a22−a12a21 |
ともう片方の解 x2 も求まります。
ここで,解 x1,x2の分母はよく見ると同じであって,連立一次方程式を行列とベクトルを用いて,
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a11 a12 |
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x1 |
 |
= |
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b1 |
 |
a21 a22 |
x2 |
b2 |
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と表したときの連立一次方程式の係数からなる行列の行列式であって,
A = |
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a11 a12 |
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とすると, |A| = |
|
a11 |
a12 |
|
= a11a22−a12a21 |
a21 a22 |
a21 |
a22 |
と定義されものです。なお,|A| は det A とも書きます。
連立方程式を解く途中で仮定した,a22a11−a12a21≠0 という条件は,行列 A が逆行列を持つ条件で,この条件が成り立つならば,式に左から逆行列 A-1 をかけて,
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x1 |
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= A-1 |
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b1 |
 |
= |
|
 |
a22 |
−a12 |
 |
 |
b1 |
 |
= |
 |
|
 |
x2 |
b2 |
−a21 |
a11 |
b2 |
|
が連立1次方程式の解となります。以上が高校生の時にも習ったことの復習です。
さて,大学レベルになると未知数が任意のnである場合の連立一次方程式を習うこととなりますが,今示した解法を眺めていただけではさすがにその一般解を予想することは不可能なので,もうひとつ次元を増やして3元連立方程式を調べてみます。解くべき連立一次方程式を,
a11x1+a12x2+a13x3=b1
a21x1+a22x2+a23x3=b2
a31x1+a32x2+a33x3=b3 |
とします。計算の見通しをよくするために未知数として, x,y,z ではなくで,x1,x2,x3 と番号を用いてます。まず,x3 を消去するために,
a23a11x1+a23a12x2+a23a13x3 |
= |
a23b1 |
(1)’ |
a33a11x1+a33a12x2+a33a13x3 |
= |
a33b1 |
(1)” |
|
−a13a21x1−a13a22x2−a13a23x3 |
= |
−a13b2 |
(2)’ |
−a13a31x1−a13a32x2−a13a33x3 |
= |
−a13b3 |
(3)’ |
と変形して,(1)’+(2)’,および,(1)”+(3)’ から,
(a23a11−a13a21)x1+(a23a12−a13a22)x2=a23b1−a13b2
(a33a11−a13a31)x1+(a33a12−a13a32)x2=a33b1−a13b3
今度は x2 を消去するために,
(a33a12−a13a32)(a23a11−a13a21)x1+(a33a12−a13a32)(a23a12−a13a22)x2 |
= |
(a33a12−a13a32)(a23b1−a13b2) |
−(a23a12−a13a22)(a33a11−a13a31)x1−(a23a12−a13a22)(a33a12−a13a32)x2 |
= |
−(a23a12−a13a22)(a33b1−a13b3) |
辺々足して,
{(a33a12−a13a32)(a23a11−a13a21)−(a23a12−a13a22)(a33a11−a13a31)}x1
=(a22a33−a32a23)a13b1−(a33a12−a13a32)a13b2+(a23a12−a13a22)a13b3
さらに,両辺 a13 で除して,整理すると
{{a11(a22a33−a23a32)−a12(a21a33−a23a31)+a13(a21a32−a22a31)}}x1
=(a22a33−a32a23)b1−(a12a33−a32a13)b2+(a23a12−a13a22)b3
ここで,
左辺 = |
 |
a11 |
|
a22 |
a23 |
|
−a12 |
|
a21 |
a23 |
|
+a13 |
|
a21 |
a22 |
|
 |
x1 |
a32 |
a33 |
a31 |
a33 |
a31 |
a32 |
右辺 = |
|
a22 |
a23 |
|
b1− |
|
a12 |
a13 |
|
b2+ |
|
a12 |
a13 |
|
b3 |
a32 |
a33 |
a32 |
a33 |
a22 |
a23 |
と2次の行列式を用いてまとめられます。ところで,この行列式たちをよく見ると,連立1次方程式を行列で表した,
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a11 a12 a13 |
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x1 |
 |
= |
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b1 |
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a21 a22 a23 |
x2 |
b2 |
a31 a32 a33 |
x3 |
b3 |
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の行列 ( aij) から作られる3行3列の行列式において,下に灰色で示したような行と列を取り除いて作られる2行2列の行列式となっていることがわかります。すなわち,左辺の方は,
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a11 |
a12 |
a13 |
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⇒ |
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≡ ▲11 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31 |
a32 |
a33 |
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a11 |
a12 |
a13 |
|
⇒ |
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≡ ▲12 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31
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a32 |
a33 |
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a11 |
a12 |
a13 |
|
⇒ |
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≡ ▲13 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31 |
a32 |
a33 |
および 右辺の方は,
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a11 |
a12 |
a13 |
|
⇒ |
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≡ ▲11 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31 |
a32 |
a33 |
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a11 |
a12 |
a13 |
|
⇒ |
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≡ ▲21 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31
|
a32 |
a33 |
|
|
a11 |
a12 |
a13 |
|
⇒ |
|
≡ ▲31 |
a21 |
a22 |
a23 |
a31
|
a32 |
a33 |
すると,
左辺=( a11▲11−a12▲12+a13▲13 ) x1
右辺=b 1▲11−b2▲21+b3▲31
となります。このままでもいいのですが,2項目についているマイナスの符号を統一的に記述するために,
Δjk=(-1)j+k ▲jk
とさらに書き直しておきます。 すると,連立方程式の解,x1 は,
x1 = |
b1Δ11+b2Δ21+b3Δ31 |
= |
 |
bkΔk1 |
|
|
|
a11Δ11+a12Δ12+a13Δ13 |
 |
a1kΔ1k |
|
となります。添え字が対称的であることから,x2,x3 については,
x2 = |
b1Δ12+b2Δ22+b3Δ32 |
= |
 |
bkΔk2 |
|
|
|
a21Δ21+a22Δ22+a23Δ23 |
 |
a2kΔ2k |
|
x3 = |
b1Δ13+b2Δ23+b3Δ33 |
= |
 |
bkΔk3 |
|
|
|
a31Δ31+a32Δ32+a33Δ33 |
 |
a3kΔ3k |
|
となります。ここで,導入した Δmn なる行列式は頻繁に現れるので名前がついており,行列の(m,n)-余因子と呼ばれています。
また,分母は未知数ごとに3とおり,すなわち,
と表されていますが,ベタ書きしてみれば,これはすべておなじで,
a11a22a33−a11a23a32+a12a23a31−a12a21a33+a13a21a32−a13a22a31
という6つの項の和です。これは,2元連立1次方程式の解の分母が行列式 |A| となっていることを思い出せば,3次の行列式の定義としてふさわしいものに違いありません。そこで,3次の行列式を,
|A’|=a11a22a33−a11a23a32+a12a23a31−a12a21a33+a13a21a32−a13a22a31 ・・・・・・ [*]
と定義します。ここで,
A’ = |
 |
a11 a12 a13 |
 |
a21 a22 a23 |
a31 a32 a33 |
です。
一方,2元連立1次方程式の一般解の分子を見てみると,2次の行列の場合の余因子は,
a22=Δ11, -a12=Δ21, -a21=Δ12, a11=Δ22
と書くことができるので,
2元連立1次方程式の解の公式 |
x1= |
 |
bkΔk1 |
|
|
|A| |
|
x2= |
 |
bkΔk2 |
|
|
|A| |
|
|
3元連立1次方程式の解の公式 |
x1 = |
 |
bkΔk1 |
|
|
|A’| |
|
x2 = |
 |
bkΔk2 |
|
|
|A’| |
|
x3 = |
 |
bkΔk3 |
|
|
|A’| |
|
このように並べて書いて見れば,n元連立1次方程式の解がどうあるべきか見えてきますね。
ところで,3次の行列式は間に合わせ的に[*]のように定義しましたが,n次行列の行列式について考えるにはもう少し深く掘り下げておく必要があります。
3次の行列式に現れる6つの項を注意深く見ると,すべて,a1pa2qa3r という形をしていて,p,q,r の組は,
( p,q,r )=(1,2,3),(1,3,2),(2,3,1),(2,1,3),(3,1,2),(3,2,1)
となっています。これは3文字(123)の順列のすべてを尽くしていて,その個数,3!=6 から構成されていることに気づきます。このような見方は2次の行列式についても当てはまって,そこに現れる項は,a1pa2q ,(pq)=(1,2),(2,1) という形をしています。たいぶ,n次の行列式の定義がどうあるべきか見えてきましたね。あと,マイナス符号についてははちょっと頭をひねる必要がありますが,それは
(1,2,3) から出発して,3文字のうち2文字だけその順序を交換していくと,
(1,2,3) |
⇒
2と3交換 |
(1,3,2) |
⇒
3と1交換 |
(3,1,2) |
⇒
1と2交換 |
(3,2,1) |
⇒
2と3交換 |
(2,3,1) |
⇒
3と1交換 |
(2,1,3) |
⇒
1と2交換 |
(1,2,3) |
(+) |
(-) |
(+) |
(-) |
(+) |
(-) |
(+) |
という循環する系列が得られます。そして,順列の一つ一つには下に記したような符号を一意的に対応させられそうです。2次の場合に戻って考えても,
(1,2) |
⇒
1と2交換 |
(2,1) |
⇒
2と1交換 |
(1,2) |
(+) |
(-) |
(+) |
となって同じ規則で符号が付けられそうです。そして,この規則を用いれば任意のn次の行列式をどのように定義すればよいか見通しが得られました。そこでは,置換という考え方が重要になってくるのです。
[目次へ]
ちょっと小言
数学で直感は大事です。特に幾何学的なイメージに直して図解することはたいへん理解の助けになります。しかし,あまりこれを強調しすぎるのもどうかと思うことも多いのも事実。このページのように行列を成分で書いてこつこつ計算することが欠かせないような状況もあることは強調しておいてもよいのではないでしょうか。一般化による抽象的な表記法も場合によっては重要であり,本質的な役割を果たします。ここでは,連立一次方程式を,
a11x1+a12x2+a13x3=b1
a21x1+a22x2+a23x3=b2
a31x1+a32x2+a33x3=b3 |
と書いたからこそ本文中で述べた規則性を見出し,高次の行列式にたどり着けたのであって,もし,
ax+bY+cZ=d
ex+fY+gZ=h
px+qY+rZ=s |
と書いたなら,行列式の定義はまず,頭の中にひらめかないでしょう?
|A|=afr−agq+bgp−ber+ceq−cfp
をそのまま観ていてもただの暗号にしか見えない!