1次元の結晶モデル
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量子力学 103 の続き (の一つ) です。1次元に広がる自由粒子を1次元結晶中の電子とみなす考え方です。

1.LCAO近似 

[1] 単一原子,N個が等間隔 a で並んだ1次元結晶を周期境界条件のもとで考えましょう。結晶中の電子の波動関数(=結晶軌道 ) ψ(x) を N個の原子軌道 χj(x) の線形結合,

ψ(x)=

cnχn(x)

で近似することにします。もちろん,ψ(x)はブロッホ関数 [#]となる必要がありますが,n 番目の原子の位置が,

x=n a 

で表せることに注意すれば,cn = exp(i kna ) とすればこれを満足します。 ここで,

k=2πp/(Na)

で,p は整数です。

ψk(x)=

exp(i kna )χn(x)

[2] ここで,各原子軌道 χn(x) は規格化されており,異なる原子間の原子軌道の重なりが無視できる,すなわち,

χ*n(x) χn(x)dx=1
χ*m(x) χn(x)dx=0,  m≠n

と条件もつけておきましょう。 また,原子軌道に関するエネルギー積分と呼ばれる次の量を α,β とおきます[#]。

χ*n(x) Hχn(x)dx=α
χ*m(x) Hχn(x)dx=β,  n =m±1

これらを用いて,摂動論を使って計算した [#] 第1次近似における1次元結晶軌道のエネルギーは,

ψk*(x)ψk(x)dx=N

および,

ψk*(x)Hψk(x)dx= exp(-i kma )χ*m(x) H exp(i kna)χn(x)dx
exp(i k(n−m)a) χ*m(x) H χn(x)dx
= N(α+βexp(i ka)+βexp(-i ka))

なので,

E(k)=
ψk*(x)Hψk(x)dx
=α+2βcoska      ・・・・・・ (1)
ψk*(x)ψk(x)dx

詳しくは摂動論 [#] を参考にしてください。

[3] さて,今求めたE(k)がどのような形をしているのか典型的な2つの具体例で見てみましょう。

波動関数 ψ(x) の周期性(=波長)が ∞ の場合,つまり,k=0 であるとき,

(1) もし,χj(x)が  s 軌道ならば,  ⇒ 隣接原子どうしは結合性,つまりβ<0 
(2) もし,χj(x)が  p-σ軌道ならば,⇒ 隣接原子どうしは反結合性,つまりβ>0 

であることに注意してE (k) をそれぞれ図示すると左下のようになります。

単一原子の1次元鎖  (p-σ)
単一原子の1次元鎖  (s)

k=0, および,k= ±π/a のときの原子軌道の配列をその右に示しています。

この場合,ともにエネルギーバンド幅は4βであり,

バンド幅は隣り合う原子軌道どうしの相互作用 [#] が強いほど広くなる。

ことがわかります。

[4] 下にはエネルギーバンドを表す代表的な図を比較して示しました。

[5] もう一つの例として,2種類の原子が存在するためイオン性のある(=分極した)1次結晶,すなわち,

正電荷を帯びた A 原子: S軌道
負電荷を帯びた B 原子: P軌道

でバンドを形成している場合の結晶軌道を考えます。

この場合は,まず,原子Aと原子Bの2原子からなる分子軌道を考えて,その結合性軌道χAB,反結合性軌道χ*AB のそれぞれについて,LCAO-近似を用いた結晶軌道を考えることになります。

2種類の原子でできた1次元鎖

k=0 のとき, エネルギー → 最低
k=±π/a のとき,エネルギー →最高

[目次]


もし,1種類の1次元原子配列からなるバンドを考える場合でも,結合距離がすべて同じでなく交互に長短が現れる場合もある
⇒ パイエルスの歪