2 汎関数と固定端変分問題
f-denshi.com  [目次] 最終更新日: 03/03/18
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1.汎関数・変分学とは何か?

[1] 変分学を一言でいうと,「汎関数の極値問題」を扱う学問と述べることができます。 そこでまず,この汎関数とは何か説明することから始ましょう。数学,物理の問題では曲線や曲面の形が与えられると,ある量が一意的に定まることがあります。例えば,平面内の2点,A,Bを結ぶ曲線ABが,関数 y=y0(x) として与えられると,これに対応してその曲線ABの長さが一つの実数 r として定まります。このようすを ”普通の関数” と比較して並べて書くと,

  関  数  : x   (変数) → r ( =f(x))    (実数値)

  汎関数   : y(x)(変関数) → r ( =S[y(x)]) (実数値)

となります。ここで,”変関数” という言葉は必ずしも一般的ではありませんが,意味するところはわかりますね。

また,変数の動き得る範囲は関数の定義域と呼ばれますが,それに対応して,汎関数の定義域を考えることが必要となってきます。”変関数のとりうる範囲については,関数族と言う言葉でよく表されますが,ここではあまり厳密に考えず,単にある条件,範囲で定義(制限)された ”関数の集合” (フツーは無限集合です)と考えれば十分です。すると,

 「与えられた関数族の中の一つの関数に対して一つの実数値を対応させる写像」 を汎関数という

ということができます。

[2] さて,次は汎関数の「極値問題」とは何かということですが,変分学で取り扱う典型的でもっとも古い問題: ベルヌーイの最速降下線問題 と呼ばれる具体的な問題で説明するのが一番わかりやすいでしょう。

最速降下線の問題
 
 鉛直線上にない2点A,B が与えられたとき,物体が重力によってA からB へもっとも早く滑り落ちるような曲線を求めよ。

 この解(軌跡)は簡単な考察から平面内にあって鉛直方向を z軸,横方向を x軸 とすれば,2次元の曲線(関数): z=z(x) と表すことができます(下図)。つまり,降下時間 T は関数 z(x) の汎関数になっていることがわかります。

降下時間 T[z(x)] :  z(x)  →  T        

A から B までの降下時間は曲線の微小長さを ds ,物体の速度を v とすれば,定積分

T[z(x)] = dT = ds    ・・・・ [*]
v

で求められます。ここで,ds は,

ds= dx
(dx)2+(dz)2 1+(dz/dx)2

および,v は重力加速度を g として,(エネルギー保存則から)

 mgz= 1 mv2
 ⇒ v =
2gz
2

で与えられます。よって,[*] 式は,

 T [z(x)] =
1+z’2
dx  :  z’=   
dz
dx
2gz

結局,問題はこのT[z(x)]を最小にする関数 z(x) を境界条件:z(0)=0,z(b)=h で求めることに帰着されました。もちろん,z(x) の満たす条件として,区間(0,b) で1回微分可能なことを要求する必要があります。

[3] 答えは,・・・ ⇒ [#]

変分学ではどのような問題を取り扱うのか理解していただけたでしょうか。他にも 測地線の問題 [#] なども典型的な変分学の問題です。

.固定端変分問題 

[1] ここで汎関数の極値問題を数学的に形式化しましょう。前節から記号を改め,

T[z(x)] ⇒ S[y(t)],および,被積分関数:
1+z’2
≡F(x,z,z’) ⇒ F(t,y,y’)
2gz

を用いることにしましょう。これから考察する汎関数 S[y(t)] を

汎関数の定義
  S[y(t)]= F [t,y(t),y’(t)]dt
  ただし,y’(t)= dy , および,y(t)∈C2[a,b], F [t,y(t),y’(t)]∈C3[a,b]
dt

ここで, C[a,b]は,a≦t≦bでn 階連続微分可能な関数全体の集合。⇒[#]

とします。ここで,汎関数 S[y(t)] のことを作用積分としばしば呼びます。また,F が3階連続微分可能であるという条件がなぜ必要なのかは後ほど判明します。⇒ [#]

[2] また,汎関数の定義域(許容関数族と呼びます)を

K={y(t)|y(t)∈C2[a,b],y(a)=α,y(b)=β}

なる関数の集合とします。

[3] このような条件下で,この汎関数 S[y(t)] が最小値を取るようなの y(t) を求めることは,

[ 固定端変分問題 ]

すべての y(t)∈K に対して,

S[y(t)] ≧ S[y*(t)]

なる y*(t) を求める。

と言い換えることができます。これを固定端変分問題といいます。 ←実際は y*(t) が満足すべき微分方程式を求めます。

[4] 以上,数学的な立場から変分問題の定式化を行ないましたが,「解析力学」における最小作用の原理とは,

最小作用の原理

力学系の運動は関数:L [t,y(t),y’(t)] によって特徴づけられ,実際に実現する運動の軌跡は作用積分,
  S[y(t)]=  L [t,y(t),y’(t)]dt
を最小にする y*(t) である。

解析力学では F [t,y(t),y’(t)] を ⇒ L [t,q(t),q’(t)] と書いてラグランジアンと呼びます。


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