Appendix 1 取りこぼし I
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1.リーマン面

[1] 本文中では log z が多価関数であることを示しましたが、ここではもう一つ重要な多価関数としてベキ関数を紹介し、ここでのメインテーマ、「 リーマン面 」の説明に使うことにしましょう。まず、次の命題から。

複素べき関数:
 w=zα 
は,m を整数、n を自然数とするとき、

    (1)α=m    ⇒ 1価関数
    (2)α=1/n    ⇒ n価関数
    (3)α=i b       ⇒ 無限価関数

(2)の場合、ベキ関数は多価性を示す関数ですが、特にn=2、w= z について調べてみます。

これが2価の関数であることは、z-平面(定義域)上の一つの点: z=r eiθ (0≦θ<2π) に対してw-平面(値域)上の2つの点:

w1 r exp[iθ/2]
w2 r exp[i(θ/2+π)]=- w1

が対応することからわかります。図示すると右図のようになります。

[2] これでは扱いにくい(ループ積分を含む重要な定理がそのまま使えない!)のでこの関数を1対1関数に仕立て直したいのですが、簡単な方法はw2を無視して値域を w-平面の実軸より上半分だけに制限することです。しかし、複素関数論の発展性を考えるとこれはあまり得策ではありません。
 もう一つの有益な方策は定義域である z-平面を拡張することです。一般に多価の複素関数を多価の特徴を残したまま1対1関数になるように考案された”定義域の集合”(2次元図形)をこの関数によって定まるリーマン面と言います。
(もっと”ガチガチ”の言い方もありますが、ここではこれくらいで十分でしょう。)

さて、w2

w2 r exp[i(θ+2π)/2]= - w1

と書き直してみれば気が付くように、w2 の点はθからではなく、θ+2πの点が移ったとみなせば、2価関数であることを修正できます。すると、”拡張 z-平面”の定義域は極表示(r、θ)で、

0< r <∞、
0≦θ<4π

となります。したがって、この関数の定めるリーマン面(2次元図形)は、(厳密には3次元空間に実現させることはできない図形ですが、あえて描くと)実軸の正の部分の切れ目を通じてつながっている2枚の複素平面を重ね合わせたような上図となります。3次元空間に描くとどうしても正の実軸上(これは一意的でなく負の実軸上でもよいし,多くの教科書はそうしている。)で2枚の平面が交差しているように見えますが、本当の各面の共通部分は原点だけです。この原点、z=0 を 2位の分岐と言います。”2位”というのは複素平面の枚数に由来しています。
 もし、この面を原点周りに回転するならば、位相θが0から2πまでは手前の複素平面(水色)上に弧を描き、2πからは下のもう一つの複素平面(赤色)に弧を描き、4πのところでθ=0 の1枚目の実軸上に還ってきます。これは w=z1/2 の4πの周期性を反映しています。
   (このリーマン面の幾何学的な特徴は、今述べた周回経路を適当な幅で切り抜くとよくわかります。)


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